まともに寝られない週末は、ほとんど記憶のないうちに過ぎ去っていった。毎週観ていたドラマも、恋愛要素があることが耐えられなくて、録画だけして観ていない。
 自分が恋をしていることに気づいてここまで戸惑うのは初めてだ。好きな人ができたことが楽しくて、その相手に会うのが楽しみで――なんて、全然そんなふうになれない。
 その原因は、ずっと引きずっている「愛の正解」についての悩みだろう、という予想はついている。
 誰かを好きになって、自分と好きな相手との幸せの未来予想図を描く夢が、まだ私にはうまくかたちにできない。日下部くんの隣にいて、恋人として歩いていく形すら想像できない。彼を好きでいることに、戸惑いやためらいしかないのだ。
 その瞬間、姉の言葉を思い出す。
 ――臆病になっているんだろうけど、自分の感情ともっとよく向き合ってみるといいよ。多分、自分でもまだ気づいていない感情がいっぱいあると思うし、そこからまた逃げたくなることもあるだろうけど。
「……自分の感情……か」
 向き合ってこなかったのは事実だ。自分の抱いている本当の感情を知る機会は今までにもきっとあったはずなのに、そこからずっと目をそらし続けてきたのだ。私にとって日下部くんが「ただのちょっと仲が良い後輩」なわけないのだ。二人で共有した時間は私にとっていつも大事だったのに、それをそんな小さな言葉に押し込めようとして、そして見事に失敗している。情けない、あまりにも馬鹿馬鹿しい話だ。
 こんなに息苦しいのに涙は出なかった。ずっと少し酸素が足りていないような感覚だけだ。食事もろくに喉を通らず、部屋のカーテンもほとんど締め切ったままだった。
 ――梨花ちゃんとはどんな関係なのだろう。
 あの様子だと、彼女が日下部くんと二人で遊ぶのは初めてではなさそうだった。慣れ親しんだ雰囲気があった。同期だからと言われたらそれまでだけれど、今の私にはすべてが引っかかって仕方ない。
 そもそも私は彼の何でもないのだから、彼が誰と会っていようが、誰を部屋に泊めようが、何か言う権利もショックを受ける権利もない――そこまで考えて、私はショックを受けているのか、と初めてわかった。
 今まで抱いたことのない感情ばかりで疲れた。