桜の鬼気迫るような詰問に白旗を挙げて、私は本間くんとの間にあった出来事をかいつまんで話した。私が彼を振った話をすると、三人はええっとひときわ大きな声を上げた。
「なんで振っちゃったのよ」
「だって……付き合いたいって思えなかったのよ。つまらないわけじゃないけど、なんだろう……感覚が合わないって思って。もちろん同期としては好きだけど」
「思考回路が乙女だわあ、あんた。ピュアね」
「からかわないでよ」
「まあでも、それなら同期は無しかあ。菅原くんも彼女いるって言ってたし」
 周りの同世代がどんどん結婚していくのを見ていると焦ってしまう。この間も学生時代の友人の結婚式に呼ばれたばかりだ。もちろんまだフリーの友人だっているけれど、大半は恋愛事情も落ち着いてきているのが現状だ。
 愛だのなんだのと理屈をこねまわしているのはもうやめるべきなのかもしれない。
 それでもまだ、恋愛に対してはなかなか前向きになれない。彼氏は欲しいとは思うけれど、誰かを好きになって苦しい思いをするのはもう嫌だ。そんなことはただのわがままなのはわかってはいるけれど。
「焦ったってしょうがないんじゃない? 普通に自然体で生きてたらうまくいくようになってるよ、人生なんて。何が幸せかなんて人によって違うしね」
 皐月が無難にまとめて、話題はそれぞれの愚痴に流れて行った。その転換にほっとして、その輪に入る。気が付けばあっという間に十時を回っていた。
「冬だねー。どこもかしこもイルミネーションだらけで。イルミネーションを見ると冬だなあって思うわ」
 ほろ酔いで皐月が白い息を吐く。店を出て駅まで歩く間の並木道はオレンジ色のイルミネーションに包まれていた。ふわふわと舞う雪がアクセントになって幻想的だ。
「高校生の時は彼氏と見たりしたなあ。制服デートってやつ?」
「わかるー。青春だったよねー」
 酔っ払いの四人が締まりのない口調で十年近く前の青春話をするさまは、相当シュールだっただろう。それでも、久しぶりに集まって飲んで、中身のない話で盛り上がれる仲間というのは貴重だし、その時間は楽しい。
 駅前で桜と別れ、改札で皐月と椿とも別れる。一人になって電車を待っていると、さっきまで楽しかったせいか急に寂しさが込み上げてきた。ふと、さっき見たイルミネーションを思い出す。
 社会人になってから、誰かとイルミネーションを見に行った記憶がない。一緒に行ってくれる人もいないからなのだけど、今年は誰かと見に行きたいな、という衝動にかられた。
 そうして思い浮かぶのは、日下部くんの顔だ。
 プラネタリウムを見に行ったり紅葉を見に行ったり、思い返せば彼とはデートのようなことばかりしている。正直イルミネーションに付き合ってくれる気がするかと言えばそれは微妙だけれど、――行くなら他にめぼしい同行者が思い浮かばない。
 どうしてこんなに日下部くんのことばかり思い浮かぶのだろう。ただ「少し他より仲が良い後輩」のはずなのに。
 誘ってみようかと迷いながらさまよわせた指先が、点けた携帯の画面の上で止まる。画面に表示された「日下部橙真(とうま)」の文字から、メッセージの送信画面に進むことに、ちょっとだけためらいを覚えた。