車に乗り込んで、高速に乗る。朝とは違って空ごとオレンジに染められた景色が眩しい。車内は音楽が流れるほかはほとんど無言だった。
 一時間ほど走って、長岡の街に降りた。さらにしばらく走った先に、古風な建物が見えた。
「お団子屋さん?」
「はい。中で食べたりもできるんですけど、時間も遅いので今日は普通にお土産として買います」
 古民家のような建物が特徴的な店舗の中は広々としていて、ショーケースにはおいしそうな和菓子やスイーツが並んでいる。彼はそこで、迷うそぶりもなく購入した。車に戻ってから尋ねると、彼はゴンドラの山頂で少しだけ見せてくれたあの顔になる。
「じいちゃんに連れてきてもらって、何度か来た店なんです。二階がカフェになってて、そこでかき氷を食べたりとか……でもじいちゃんは、この団子が一番好きだったんです」
 その紙袋を大事そうに後ろの座席に置いて、彼は車を走らせ始めた。再び高速道路に乗ると、もうあたりがだいぶ暗くなっていることに気づいた。
「帰省した時にはいつも、新潟に帰る日にここに寄って団子を買ってくるんです。あとで食べましょう」
「――うん」
 また、彼がその話をしてくれるとは思っていなかった。あの時まずいことをしたと思っていたけれど、大丈夫だったのだろうか。安堵と謎が半々に入り混じる。
 自宅に着いた頃には、月が見えるようになっていた。
「せっかくだし、また公園で月でも見ながら食べようよ」
「そうですね。じゃあ、エントランスで待ち合わせで」
 一旦部屋に戻って支度をする。急いだつもりだったけれど、日下部くんはやっぱり先に待っていた。
「本当、支度するの早いよね」
「女性が支度に時間がかかるのはいつものことじゃないですか。待つのは苦じゃないですよ。待たせるよりもいいです」
 公園のベンチに腰かけてお団子の箱を開く。五種類のお団子が整然と並んでいる様子は、かわいくも見える。
「あ、お皿とか持ってくればよかったですかね。半分こするとなると、そのまま渡すしか……」
「別に私は気にしないからいいよ。それとも、日下部くんはそういうの苦手?」
「いえ……」
 また、微妙な間ができる。作ってしまったその隙間を埋めるように、わたしはお団子に意識を向けた。ごまがまぶされたお団子を口にほおばると、その香りでいっぱいになる。懐かしささえ感じる甘さが心地よい。
「おいしい……」
「でしょう? 大好きなんです」
 大好き、と言ったその声があまりにも優しくて、思わず彼の顔を見上げた。みたらし団子をくわえながら月を見つめる横顔が、月明かりに儚く照らされていた。
「じいちゃんが亡くなったのも、月が綺麗な夜でした」
 ぽつり、水面に雫が一つ落ちるように、日下部くんの声が聞こえた。
「夕方からずっと付き添っていて、夜、眠るようにすっと亡くなりました。家に帰る夜道が月で明るくて――よく覚えています」
「……」
 きっと、相槌なんて求められていない。静かに続きを待つと、降り始めの雨のように彼の口から思い出がこぼれだしてくる。