夕日が空をオレンジ色に染め始めた中を走り、約束通り叔父の待つホテルへ戻る。ドアマンに声をかけると呼んできてくれるということなので、私は日下部くんと一緒にラウンジのソファに腰かけた。
「運転のお礼に奢るから、好きなケーキを選んでいいよ」
「え、良いんですか」
「わざわざ帰りにも寄ってもらっちゃったし、新潟からずっと運転してくれてるでしょ。この後も帰り道があるし、それくらいはさせて」
 半ば強引にメニューを差し出すと、日下部くんは少し迷ってシュークリームとコーヒーを選んだ。私もショートケーキと紅茶を選んで、顔なじみのお姉さんに注文をした。ケーキセットを待っていると、叔父がやってきた。
「お帰り。まだ見れたかい」
「うん、ちょっと散り始めだったけど綺麗だったよ。チケットありがとう」
 挨拶を交わした瞬間に大型バスが到着して、叔父は出迎えに出てしまった。隣で固まったままの日下部くんに声をかける。
「そんなに緊張しなくて平気だよ」
「ホテルの支配人って偉い人じゃないですか。緊張しますよ」
「私の親戚よ。付き合わせて悪いけど、普通にしてて大丈夫だから安心して」
 叔父が戻ってくるより先にケーキが到着した。クリームがたっぷり挟まったシュークリームに感嘆の声を漏らす日下部くんはまるで子どものようだ。結局ケーキを食べきるころになって、叔父はようやく戻ってきた。
「悪いね。せっかく来てもらったのにバタバタしてて」
「この時間は忙しいでしょ。大変ね。あ、こちらは後輩の日下部くん」
「あ……初めまして。日下部です」
 さくっと挨拶を終わらせて出ようと思って日下部くんを紹介すると、ちょっと急すぎたようだ。慌てた様子で名乗る様子が、本人には申し訳ないけれど面白い。
「初めまして。桃子の叔父で、ここの支配人をしています。桃子のことをよろしくね、不器用な子だから」
「ちょっと! 変なこと言わないでよ」
 そう割って入ったけれど、日下部くんは真面目な顔で返事をしていた。恥ずかしい話だ。
「じゃあ、ゆっくりしていきなさい。ラウンジも桃子たちしかいないし」
「あれ、もういいの? いつもはもっと話したがるのに」
「デートの邪魔をしたら悪いからね。帰り道も気を付けてね」
「デートじゃないよ! まったく……」
 私がどんな相手を連れてきたのか知って満足したらしい叔父は、思いのほかあっさりとバックヤードに戻っていった。あの様子だと、彼氏だと思っているのだろう。実家に面倒な話を流さなきゃいいけど。
「急に振っちゃってごめん。付き合ってくれてありがとうね」
「びっくりしましたよ、ほんとに」
 コーヒーを飲み干して、ところで、と日下部くんは話題を変えてきた。
「このあとちょっと、寄りたいところがあるんですけど」
「ん、いいよ。もう行く?」
「はい。長岡なんですけど、営業時間もあるので、そろそろ出たいです」