「日下部くん、お待たせ」
「行きましょうか」
ドアマンに見送られながら車が走り出す。案の定、苗場に向かう道はかなり混んでいた。やっとたどり着いたチケット売り場も、やっぱり長蛇の列だ。
「結局引き換えないと使えないから、並ばないといけないんだよね」
「まあ、まだ時間はたっぷりありますし。それにここでももう、紅葉は良く見えますよ」
日下部くんの言うとおり、少し周りを見渡せば紅葉に覆われた木々が茂っている。ゆっくり進む列の速度に合わせて歩きながら、これから見ることができる山の景色に思いをはせる。最後にここに来たのはいつだったか覚えていないくらい昔だけど、すごく感動した覚えがある。
チケットを引き換えて、少し歩いてゴンドラの乗り場まで向かう。同じように紅葉を見に来ているカップルが、目の前で手をつなぎながら歩いていた。
ここまで来ていまだに疑問が消えていない。彼はなぜ、私と紅葉を見に行きたいと言い出したのだろうか。そもそも紅葉ならもっと近くでも楽しめるのだからわざわざこんな遠くまで来なくたっていいし、私と二人だけで来たいと言い出すのもわけがわからない。誘われた時に確かに理由は聞いたけれど、それだけではなんだか納得しきれていない。でも聞いたって、また同じようなもっともらしい理由を編まれるだけだ。
日下部くんとはだいぶ仲良くなってきたと思う。仕事中は相変わらずたいしたやりとりはしないけれど、こうしてプライベートでの交流が増えて約半年、だいぶ彼との距離は縮まったように思う。
けれど、彼が本音をあまり見せてくれないのは変わらずだ。
というか、肝心なところでいつもはぐらかされているのだ。まるでちょっと近づこうとすると逃げる猫みたいだ。そんなに私に言えない本音でもあるのだろうか。
ただ、こんなにも日下部くんのことを気にしている自分も変だとは思う。言わないなら別にどうでもいいや、と少し前まではあっさり考えていたはずなのに、最近は彼の考えていることをもっと知りたいと思ってしまう。はぐらかされるいろんなことが気になって仕方ない。
日下部くんを好き、なのだろうか。
そう考えて、ないない、と自分でつっこむ。ただ単に、飼い猫に相手をしてもらえない飼い主、みたいな関係なだけだ。
それに、好きとか恋とか、当分考えたくない。
姉にはまた怒られるのだろうけど、もうそういうふうに自分の心に制御が効かなくなるような感情にかかわりたくない。だから、これはそもそも恋愛感情とかじゃないし、普通よりちょっと仲が良い先輩後輩なだけなのだ。
逃げている、わけではない。
「着きましたよ」
考え事をしながら歩いていると、日下部くんが声をかけてきた。顔を上げると、そこにもゴンドラへの乗車待ちの列が長く連なっている。その最後尾に並んで、いよいよだ、と急にわくわくしてきた。
「行きましょうか」
ドアマンに見送られながら車が走り出す。案の定、苗場に向かう道はかなり混んでいた。やっとたどり着いたチケット売り場も、やっぱり長蛇の列だ。
「結局引き換えないと使えないから、並ばないといけないんだよね」
「まあ、まだ時間はたっぷりありますし。それにここでももう、紅葉は良く見えますよ」
日下部くんの言うとおり、少し周りを見渡せば紅葉に覆われた木々が茂っている。ゆっくり進む列の速度に合わせて歩きながら、これから見ることができる山の景色に思いをはせる。最後にここに来たのはいつだったか覚えていないくらい昔だけど、すごく感動した覚えがある。
チケットを引き換えて、少し歩いてゴンドラの乗り場まで向かう。同じように紅葉を見に来ているカップルが、目の前で手をつなぎながら歩いていた。
ここまで来ていまだに疑問が消えていない。彼はなぜ、私と紅葉を見に行きたいと言い出したのだろうか。そもそも紅葉ならもっと近くでも楽しめるのだからわざわざこんな遠くまで来なくたっていいし、私と二人だけで来たいと言い出すのもわけがわからない。誘われた時に確かに理由は聞いたけれど、それだけではなんだか納得しきれていない。でも聞いたって、また同じようなもっともらしい理由を編まれるだけだ。
日下部くんとはだいぶ仲良くなってきたと思う。仕事中は相変わらずたいしたやりとりはしないけれど、こうしてプライベートでの交流が増えて約半年、だいぶ彼との距離は縮まったように思う。
けれど、彼が本音をあまり見せてくれないのは変わらずだ。
というか、肝心なところでいつもはぐらかされているのだ。まるでちょっと近づこうとすると逃げる猫みたいだ。そんなに私に言えない本音でもあるのだろうか。
ただ、こんなにも日下部くんのことを気にしている自分も変だとは思う。言わないなら別にどうでもいいや、と少し前まではあっさり考えていたはずなのに、最近は彼の考えていることをもっと知りたいと思ってしまう。はぐらかされるいろんなことが気になって仕方ない。
日下部くんを好き、なのだろうか。
そう考えて、ないない、と自分でつっこむ。ただ単に、飼い猫に相手をしてもらえない飼い主、みたいな関係なだけだ。
それに、好きとか恋とか、当分考えたくない。
姉にはまた怒られるのだろうけど、もうそういうふうに自分の心に制御が効かなくなるような感情にかかわりたくない。だから、これはそもそも恋愛感情とかじゃないし、普通よりちょっと仲が良い先輩後輩なだけなのだ。
逃げている、わけではない。
「着きましたよ」
考え事をしながら歩いていると、日下部くんが声をかけてきた。顔を上げると、そこにもゴンドラへの乗車待ちの列が長く連なっている。その最後尾に並んで、いよいよだ、と急にわくわくしてきた。