*
「……案の定、彼は翌日二日酔いで大変だったみたいだったけど」
先月初めから決定的な夜までのことをかいつまんで話すと、日下部くんはやっぱり感情の読めない表情をしていた。
「それは大変でしたね」
「ほんとにどうしようかと思ってたの。ご飯の打診だけじゃなくて、たわいもない日常の話とかでも連絡きたりしてたし。でも嫌いなわけじゃないからどう相手したらいいのか悩んでたんだ」
「……付き合ってみたらよかったじゃないですか」
「冗談! 好きだと思えない人と付き合うなんてできないよ」
話している間に、月は高い位置まで昇ってきていた。濃紺の空に煌々と浮かぶ満月は眩しいくらいに輝いていて、その明るさがうらやましい。
「俺と行ったプラネタリウムは楽しかったですか」
「え?」
急な質問に隣を振り向くと、彼は思いのほか真剣な顔をしていた。
本間くんが言った日下部くんを表す言葉は、今話した中では触れなかった。彼にそれを言うのは少し気恥ずかしい。でも、この質問をした彼は、そのやり取りをまるで分かって言っているような顔をしている。
「……そりゃあ、楽しかったに決まってるよ」
「それならよかったです」
安堵したように、日下部くんは団子をまたひとつつまんだ。時刻は十時半。公園を夜風が通り抜けて、生い茂った草木を揺らす。もうしばらくしたら、紅葉の綺麗な時期になるだろう。
「月、綺麗ですね」
「そうだね」
中身のない会話が心地よい。こうして日下部くんと一緒に過ごす時間には、余計な言葉は必要ないのだ。黙って並んで同じ景色と時間を共有するだけで、十分に満たされる。
「月にうさぎがいるって、誰が言い出したんでしょうね」
「さあ……でも、あの表面の模様をうさぎに例えるって、けっこうセンスあると思う」
「俺もそう思います」
途切れ途切れの会話の隙間に、彼が何を考えているのかはわからない。詮索する気もない。眼球だけを少し動かして彼の横顔を見ると、やっぱり夜空が良く似合うなと思う。真っ白なパーカーと真っ黒で夜の微かな灯りに光る髪は、日下部橙真という人物をよく表している。
「……案の定、彼は翌日二日酔いで大変だったみたいだったけど」
先月初めから決定的な夜までのことをかいつまんで話すと、日下部くんはやっぱり感情の読めない表情をしていた。
「それは大変でしたね」
「ほんとにどうしようかと思ってたの。ご飯の打診だけじゃなくて、たわいもない日常の話とかでも連絡きたりしてたし。でも嫌いなわけじゃないからどう相手したらいいのか悩んでたんだ」
「……付き合ってみたらよかったじゃないですか」
「冗談! 好きだと思えない人と付き合うなんてできないよ」
話している間に、月は高い位置まで昇ってきていた。濃紺の空に煌々と浮かぶ満月は眩しいくらいに輝いていて、その明るさがうらやましい。
「俺と行ったプラネタリウムは楽しかったですか」
「え?」
急な質問に隣を振り向くと、彼は思いのほか真剣な顔をしていた。
本間くんが言った日下部くんを表す言葉は、今話した中では触れなかった。彼にそれを言うのは少し気恥ずかしい。でも、この質問をした彼は、そのやり取りをまるで分かって言っているような顔をしている。
「……そりゃあ、楽しかったに決まってるよ」
「それならよかったです」
安堵したように、日下部くんは団子をまたひとつつまんだ。時刻は十時半。公園を夜風が通り抜けて、生い茂った草木を揺らす。もうしばらくしたら、紅葉の綺麗な時期になるだろう。
「月、綺麗ですね」
「そうだね」
中身のない会話が心地よい。こうして日下部くんと一緒に過ごす時間には、余計な言葉は必要ないのだ。黙って並んで同じ景色と時間を共有するだけで、十分に満たされる。
「月にうさぎがいるって、誰が言い出したんでしょうね」
「さあ……でも、あの表面の模様をうさぎに例えるって、けっこうセンスあると思う」
「俺もそう思います」
途切れ途切れの会話の隙間に、彼が何を考えているのかはわからない。詮索する気もない。眼球だけを少し動かして彼の横顔を見ると、やっぱり夜空が良く似合うなと思う。真っ白なパーカーと真っ黒で夜の微かな灯りに光る髪は、日下部橙真という人物をよく表している。