「水澤は、俺のことをどう思ってるの」
「どうって……」
「ずっと誘ってもはぐらかされるし、好きだと思ってもらえてないことはわかるんだけどさ。顔も見たくないわけじゃないんでしょ」
「別に、嫌いなわけじゃないから……ただ、本間くんがそうやって言ってくれるのは嬉しいよ」
言葉にすることを避けていた感情を、少しづつ紐解いていく。私はどうして彼の誘いを受けることをためらっていたのか、彼をどう思っているのか――
「でも、私は本間くんを好きとは言えないんだ。本間くんは私のそういう部分を知って好きになってくれたのかもしれないけど、私はそんなに良い人間じゃないし」
「そんなこと――」
「それに、私は本間くんと一緒に行ったプラネタリウムを心から楽しめなかった」
意を決してそう言うと、その瞬間に彼の表情が凍り付いた。心臓が痛いくらいに唸って、脳みその真ん中がぎゅうっと絞られているような感覚に陥る。私はグラスの外側を滑り落ちる雫を眺めながら、言葉を続けた。
「つまらなかったわけじゃないし、プラネタリウムの内容が楽しくなかったわけでもないと思う。でも、前に行ったときみたいに楽しめなかったのは事実で……私は夜空を見るのが好きだけど、本間くんには、……夜空よりも、あの日の青空のほうが良く似合っていたと思う」
ごめん、と最後に続けた声は掠れて、自分でも聞こえなかった。本間くんは俯いたまま、しばらく黙り込んでいた。
「……前に行ったときは、誰かと一緒だったの?」
「え? うん……」
「――その人は、夜空が似合う人なんだね」
あの日、私が思っていたことをそのまま言い当てられて、反射的に顔を上げた。本間くんと視線がぶつかって、その目がほんのり赤くなっていることを知る。
「……わかった。もう、個人的に誘うのはやめる。でも、俺がさっき話したように水澤のことを思っているのは覚えておいて」
彼は震える指先を抑え込むように拳を握っていた。ゆっくりと言葉を紡ぐその声も、なにか詰まっているように硬い。
「自分ではたいした人間じゃないって思っているんだろうけど、少なくとも俺はそんなことはないと思うし、そんなふうに自分を卑下してほしくない」
「そんな……」
「ああやって他人に寄り添えて、俺に対してもこうして真剣に向き合ってくれる人間がダメなやつだなんて思えないよ」
そう言って、本間くんは寂しそうに笑った。その笑顔に反射的に泣きそうになる。涙を飲み込みながらありがとう、と言うと、本間くんは残っていた高千代を飲み干して、今度はいつもの明るい笑顔を見せてくれた。
「さ、もう一回乾杯しようか。これで別れたら後味悪いし、もうちょっと付き合ってよ」
「……仕方ないなあ。いいよ。私も次は日本酒にするから」
そうしてその日は、お店がクローズするまで飲んで、半ばやけ酒で足元の怪しい本間くんを終バスに押し込んで帰ったのだった。
「どうって……」
「ずっと誘ってもはぐらかされるし、好きだと思ってもらえてないことはわかるんだけどさ。顔も見たくないわけじゃないんでしょ」
「別に、嫌いなわけじゃないから……ただ、本間くんがそうやって言ってくれるのは嬉しいよ」
言葉にすることを避けていた感情を、少しづつ紐解いていく。私はどうして彼の誘いを受けることをためらっていたのか、彼をどう思っているのか――
「でも、私は本間くんを好きとは言えないんだ。本間くんは私のそういう部分を知って好きになってくれたのかもしれないけど、私はそんなに良い人間じゃないし」
「そんなこと――」
「それに、私は本間くんと一緒に行ったプラネタリウムを心から楽しめなかった」
意を決してそう言うと、その瞬間に彼の表情が凍り付いた。心臓が痛いくらいに唸って、脳みその真ん中がぎゅうっと絞られているような感覚に陥る。私はグラスの外側を滑り落ちる雫を眺めながら、言葉を続けた。
「つまらなかったわけじゃないし、プラネタリウムの内容が楽しくなかったわけでもないと思う。でも、前に行ったときみたいに楽しめなかったのは事実で……私は夜空を見るのが好きだけど、本間くんには、……夜空よりも、あの日の青空のほうが良く似合っていたと思う」
ごめん、と最後に続けた声は掠れて、自分でも聞こえなかった。本間くんは俯いたまま、しばらく黙り込んでいた。
「……前に行ったときは、誰かと一緒だったの?」
「え? うん……」
「――その人は、夜空が似合う人なんだね」
あの日、私が思っていたことをそのまま言い当てられて、反射的に顔を上げた。本間くんと視線がぶつかって、その目がほんのり赤くなっていることを知る。
「……わかった。もう、個人的に誘うのはやめる。でも、俺がさっき話したように水澤のことを思っているのは覚えておいて」
彼は震える指先を抑え込むように拳を握っていた。ゆっくりと言葉を紡ぐその声も、なにか詰まっているように硬い。
「自分ではたいした人間じゃないって思っているんだろうけど、少なくとも俺はそんなことはないと思うし、そんなふうに自分を卑下してほしくない」
「そんな……」
「ああやって他人に寄り添えて、俺に対してもこうして真剣に向き合ってくれる人間がダメなやつだなんて思えないよ」
そう言って、本間くんは寂しそうに笑った。その笑顔に反射的に泣きそうになる。涙を飲み込みながらありがとう、と言うと、本間くんは残っていた高千代を飲み干して、今度はいつもの明るい笑顔を見せてくれた。
「さ、もう一回乾杯しようか。これで別れたら後味悪いし、もうちょっと付き合ってよ」
「……仕方ないなあ。いいよ。私も次は日本酒にするから」
そうしてその日は、お店がクローズするまで飲んで、半ばやけ酒で足元の怪しい本間くんを終バスに押し込んで帰ったのだった。