九月の連休が明けて出社したその日、帰りに立ち寄った本屋で、私は彼と遭遇してしまった。気づかないふりをしても無駄で、本間くんは私を目ざとく見つけて近寄ってきた。
「お疲れ。奇遇だね」
「……お疲れ様」
 月初に出かけてから、彼は何度か食事に誘ってくるようになった。その日のことを思い出しては気乗りせず、何かと理由をつけて躱していたのだけれど、こうやって対面で捕まってしまうとうまく逃げられないのは、私の経験値が足りていないからだろうか。
「時間あるなら、夕飯食べて帰らない? 何度誘っても予定が合わないみたいだし」
 そして彼は、そうやって私が避けていることを分かっている。理解したうえで、今こうして仕掛けてきているのだ。
 私は諦めて、その誘いを承諾した。駅ビルの中の、ちょっと落ち着いた雰囲気のお店に入る。カウンターの席に通されて開いたメニューには、様々な地酒のラインナップが並んでいた。
「日本酒、好き?」
「普段は飲まないけど、好きだよ。地元は酒どころだし」
「そういえばそうだった。何にする? 俺は高千代にしようと思うけど」
 とはいえ、男性と二人で食事に来て、慣れない酒を飲むのが得策でないことはわかっている。無難にカシスウーロンをチョイスすると、本間くんはがっかりしたような声を出した。
「せっかくだから、日本酒にすればよかったのに」
「呑み慣れているわけじゃないし、明日も仕事だもの。本間くんこそ、仕事に響いたりしないの」
「日本酒ちょっと飲んだくらいじゃなんてことないよ。ちゃんぽんしたらやばいけどね」
 運ばれてきたアルコールで乾杯し、お通しをつまみながら呑み始める。少しの間沈黙が流れて、耐えられなくなった私は彼に問いかけた。