幸いなことに、十五夜の夜は晴れてくれた。あたたかいお茶を水筒に入れ、スーパーで帰りがけに買った月見団子と一緒にバッグに入れる。マンションのエントランスに降りると、既にパーカー姿の日下部くんが待っていた。
「お待たせ」
「行きましょうか。もうだいぶ、月が良く見えるようになってます」
二人並んでいつもの公園に向かう。こんなに綺麗な月夜だというのに、私たちのほかには誰もいなかった。
ベンチに腰かけて、バッグから月見のお供たちを取り出す。夏が過ぎ去って、すっかり景色は秋になった。もう夜はそれなりに冷える。紙コップに注いだお茶の温度に、ほうっとため息が出た。
「晴れて良かったですね。昨日まで、予報だと曇りだったからちょっと不安でしたけど」
「そうだね。お月見できて良かった」
お団子のパックを開けて、それぞれひとつずつつまみながら夜空を見上げた。心なしか、いつもより一段と月が明るく見えた。
「そういえば、最近よく、本間さんと一緒にいませんか。同期なんでしたっけ」
唐突に、今あまり思い出したくない名前が日下部くんの口から飛び出した。わかりやすくうろたえてしまって、言葉に詰まってしまう。そんな私を見て、日下部くんは目をすがめた。
「……何かあったんですね」
「何かどころの話じゃないのよ。こんな月夜に話したいネタじゃないんだけど」
「まあ、無理には聞きませんよ」
「いいよ。正直、誰かに話したかったのが本音だし」
日下部くんの嗅覚には勝てる気がしない。私はここ数日の本間くんとの出来事を話すことにした。