上映された内容は、前回とは違っていたけれど、相変わらず星の瞬きは綺麗だった。普段肉眼で見ている夜空よりも誇張されているのだろうけれど、ぎっしりと埋め尽くされたスパンコールのようで、見ていて飽きない。真昼間から夜空を堪能できるのはちょっとした贅沢だ。
 きっとこの状況は、条件だけで言えばかなり贅沢でときめくものなのだろう。自分に好意を寄せてくれている男性がこんなロマンティックなデートに誘ってくれたら、惹かれてしまう。私だって、この現状に心が揺れていないわけじゃない。
 星空に夢中になっているうちに、プラネタリウムは終了した。ゆっくりと明るさを取り戻す場内に目を慣らしながら立ち上がる。本間くんと並んでプラネタリウムを出ると、外は青空だ。その明るい空の色が、本間くんの着ている薄い黄緑色のシャツを鮮やかに映えさせていた。
「夜空っていいね。普段あんまり見ることはないけど、綺麗だよね」
「……そうだね」
 なぜか、月や星を眺めるのが好きだという話をする気にはならなかった。相槌だけを打って、曖昧に話を流す。
 本間くんには、青空が似合うように思う。秋に移り変わっていく空気の中で、隣の彼の横顔を見上げながら、私はなんだか中途半端な感情を覚えていた。彼は私を駅まで送り届けてから、またね、と爽やかに手を振って帰っていった。
 その夜、私はベランダに出た。右側が少し欠け始めた月が、星灯りに囲まれながらゆっくりと昇ってくる。ぼんやりと眺めながら、私はみかんサワーを飲んでいた。
 プラネタリウムの満足感がいまいちで、以前のような余韻を感じることができなかったので、もう少し夜空を見たくなってしまったのだった。プラネタリウムそのものの内容が薄かったわけではないはずだけれど、どうしてこんなに不完全燃焼な気分なのか、謎だ。
 携帯を月に向けてみると、変にぼやけてうまく写らない。撮影してみた写真を日下部くんに送ると、彼からは電話がかかってきた。
『月、見てるんですか』
「見てるよ。家のベランダからね」
『良かった。今、実家にいるので、ちょっと焦りました』
「安心してよ。ちゃんと家でおとなしくしとくから」
 所用で長岡の実家に帰っている彼も、私の写真を見て空を見たようだ。こっちは曇りです、と残念そうな声がする。
「こっちは昼からずっと晴れてて、すっごい綺麗だよ。携帯のカメラじゃ写せないから、見せてあげられないけど」
『明日からまた天気悪くなるんですよね。しばらく星もお預けかあ』
 独り言のように呟く彼の口調が面白い。電話の向こうで、カーテンを閉める音が聞こえた。
『昼間も出かけてたんですか』
「ああ、うん。久しぶりにプラネタリウムを見に行ったの」
『へえ。一人でですか』
「いや、同期と行ったよ」
 ふうん、と、彼は急に面白くなさそうな声を出した。
「何、行きたかった?」
『いや、そういうわけじゃないですけど』
「でもさあ、あんまり覚えてないの。面白くなかったわけじゃないんだけど、やっぱりああいうのが好きな人と一緒に行ったほうが楽しめるのかな」
『興味ない人と行ったんですか』
「向こうが誘ってくれたんだけどね。終わった後、あんまり話も膨らまなかったし」
『ふうん……』
 電話の向こうの反応が鈍い。なんかまずいことを言っただろうか、と考えた瞬間、彼は話題を変えてきた。