「褒めてくれてありがとう。でもあの時は私も彼氏がいたし、本間くんとそんなに話した覚えもないんだけど」
 ランチコースの前菜を口に運びながら、本間くんはそうだね、と私の疑問を肯定した。
「でも、一緒に研修を受けてる間になんかわかったんだよね。この子と一緒に居たら多分楽しいなって」
「……本当、恥ずかしげもなくよくそんなセリフを言えるね」
「言わないと伝わらないでしょ。まだ俺が水澤のことを好きだって信じてもらえてないみたいだし」
「こんなに急に告白されても信じられないに決まってるじゃない。別に怪しんでるわけじゃないけどさ」
 短期間の研修で、いったい何を分かったと言うのか。実際、私は本間くんについて、知らないことのほうが多いと思っているのに。配属が分かれてからの三年弱の間だって、又聞きで流れてくる噂話みたいなものしか聞いていないし、なぜ彼はこんなに自信満々に私を口説いてくるのだろう。
「……好きとかどうとかの前に、私はそのジャッジを下せるほど本間くんのことを知っている自信がないの」
「それはわかってるよ。だからこうやって食事に誘って、俺のことを知ってもらおうと思ってるんだよ」
「……」
「俺もまだ、水澤について知らないこともたくさんあるだろうし。もっと知りたいから会いたいって感じかな」
「口説き文句がお上手で」
 料理が運ばれてきて、そんなやり取りも一時中断となった。トマトクリームのパスタをフォークに巻き付けながらちらりと正面を見ると、涼やかな目元のまつげの長さに気づいた。
 見てくれもいいし、人当たりもいい。あっけらかんとしていて、話す言葉のテンポはいいけれど嘘くささもない。頭の回転も速いし、上司たちの期待を受けるのも納得だ。私だって、彼に興味がないというわけではない。
「ねえ、この後予定ある?」
「ないけど」
「じゃあ、行きたいところがあるんだけど、付き合って欲しいな」
 急に視線を上げるから目が合いそうになって、私は慌てて目をそらした。誘いを承諾すると、おもちゃを得た犬のような笑顔を浮かべる彼は、魅力的だと思う。
 素直に表現された感情は眩しい。そして、うらやましい。
 食後のコーヒーで一息ついてから、彼の車に乗り込む。連れてこられた先は見覚えのある場所だった。
「プラネタリウム?」
「うん。来たことある?」
「少し前にね」
 以前、日下部くんと一緒に来たプラネタリウムだった。最近の男子の間では流行っているのだろうか。
「興味はあったんだけど、なかなか来る機会がなくてさ」
 そう言いながら、自然な流れで彼はチケットを二枚購入し、私に一枚寄越してきた。代金を渡そうと財布を出した瞬間、いらないよ、と彼は笑う。
「え、いいの?」
「俺のわがままに付き合ってもらってるんだから、払わなくていいよ。しまってしまって」
 強引に手元を押されたので、仕方なく財布をしまう。あまり借りを作りたくなかったんだけどなあ、と思いつつも、黙って甘えることにして、プラネタリウムの入り口をくぐった。