本間くんと約束した日程は、当日の急なトラブルで一度流れてしまった。結局、月が替わって最初の週末、予定を大幅に変えてランチになった。
「ごめんね、この間は急に」
「仕方ないよ、仕事なら。それに今日、来てくれたし」
 テーブルの反対側で爽やかに笑う本間くんとは対称的に、私は引きつった笑顔しか作ることができないでいた。セリフの端々に思わせぶりな匂いが漂っていて、女子を落とすのに手馴れているのだろうということが容易に想像できる。
「水澤って結構鈍いよね。俺、花火のときも二人で飯に行くつもりで誘ったのに」
 開幕から盛大な爆撃を食らって、私は言葉を見失った。予想は見事に的中してしまった。
「なんで……」
「なんでって、二人で飯に誘う理由なんて一つしかないでしょ。別に変な事業とかに誘うわけじゃないから安心してよ」
「いや別に、そこを心配してるわけじゃないんだけど」
 はぐらかしているようで、それはもう答えを言っているのと同じだ。続けるセリフがわからなくなったタイミングで、料理が運ばれてくる。洒落た店内には、若い女の子の集団かカップルしかいない。
「今までまったくそんな素振りなかったのに、なんで急に?」
「え? 俺、入社した時から狙ってたんだけど」
 爆弾の連続投下に、私の頭はくらくらし始めた。上司陣から同期の中で一番の期待を受けている本間くんが、入社当初から、私を狙っていた?
「最初の研修の頃にいいなって思って、ずっと話したかったんだけどさ。半年でバラバラになっちゃったでしょ。話しかけるきっかけがなくなって、他に彼女ができたりもしたんだけどね」
「別れたから、昔好きだった女を再度狙うことにしたってこと?」
「人聞きの悪い。そんなタイミングでしばらくぶりに会って花火なんか見たら惚れ直すでしょ。しかもあの頃より格段に綺麗になってるし」
 爽やかな微笑みを崩さずに、歯の浮くような褒め言葉を連発してくる。そんなことを言われても、すぐに実感なんてわかない。だってその頃も、特別彼と何かした記憶もない。