アルコールが残っているのを感じながら、差し込む陽ざしに目を覚ます。時刻はもう昼前だった。携帯を開くと、日下部くんからメッセージが来ていた。
〈電話鳴りましたけど、どうかしましたか?〉
 え、と一瞬固まって履歴を見ると、確かに真夜中に私から電話を発信した記録がある。もう一度かけなおすと、しばらく呼び出し音が鳴った後に寝ぼけた声でおはようございます、と応答があった。
「ごめん、寝てた?」
「いえ、起きて昼飯食べてました」
「そっか。私、夜中に電話してたよね? ごめん」
 謝罪を述べると案の定、彼の口からは文句が流れ出してきた。甘んじてそのお説教を受け、もう一度すみません、と謝ると、まあ別にいいんですけどね、と投げやりなセリフで収められた。
「べろべろでしたからね、水澤さん。面白かったので相殺でいいです」
「……そんな酷かった?」
「それなりに」
「忘れてください……」
「面白かったから許すって言ってるのに」
 彼の声のトーンは変わらない。それでも、関わることが増えてきて、本気で面白がっていることや呆れていることは判別できるようになってきた。
「とにかく、迷惑かけてごめんね。それだけ言いたかったの」
「わりと気にしてないので、ご心配なく。大丈夫です」
 その言葉に安堵して、電話を終える。知らぬ間に晒していたらしい醜態に、ため息が出る。幸せオーラにあてられて悶々としていたからって、さすがにみっともなさすぎだ。
 げっそりしながら食事の支度をしようと冷蔵庫を開けると、中身がほとんどなくなっていたことを思い出した。買い物に行くのをずっと忘れていたけれど、暑いから行くのは夕方にしよう、と決めて、カップラーメンを取りだした。
 ラーメンをすすりながら携帯を開くと、ちょうどメッセージを受信した。送り主は本間くんだった。
〈昨日はありがとう。もしよかったら、またご飯行かない?〉
〈いいよ。ほかに誰か誘う?〉
 そう送ると、既読マークがついてから少し時間を空けて、彼は予想外の返信を送ってきた。
〈いや、できれば二人で。嫌じゃなければ〉
 これは……。
 さすがにこの言葉が何を意味するのか、分からないほど初心じゃない。それでも、今までまったく眼中になかった相手から誘いを受けると、戸惑ってしまう。
 ……嫌じゃないし、断りたいわけでもない。
 社内での評価も高い彼からロックオンされるとは思ってもみなかったので戸惑いはあるけれど、別に食事くらい慌てる話でもない。深呼吸をして、私は承諾の返事を送った。
〈いいよ。いつにする?〉
〈ありがとう。じゃあ来週の水曜日でどう?〉
 内心の焦りや緊張とは裏腹に、やり取りは淡々と進んでいく。あっという間に日程と店も決まって、大きく息を吐く。ラーメンの残りは少し伸びてしまっていた。