一旦動き出すとあっという間に物事は進むもので、その次の週、お盆明けの一週間を乗り切った金曜日に、私たちは会社近くの居酒屋で同期会をすることになった。総勢七人の同期が全員集まって、乾杯をする。
「こうやって集まるの、ほんと久しぶりだね」
「みんな部署もばらばらだもんね。普段は内線でしか話さないし」
「そうそう。みんな今何してるの?」
 仕事外で顔を合わせた回数は、入社した最初のころ以外、数えるほどしかない。同期の中には、営業の外回りばかりで久しく声すら聞いていなかった人もいる。それでもこうして全員で集まって盛り上がれることに、嬉しい気持ちになる。
「あ、そうだ。みんなに報告」
 突然、一人が改まって話し始めた。みんなが向き直る一瞬に、向かいにいる女子と目を合わせたのがわかって、もしかして、と気づいてしまった。
「俺、結婚します」
 ええっ、と、個室内が一瞬にしてどよめいた。皐月が相手は誰なのかを急かすと、彼はさっき目を合わせていた女子を指さした。
「山田、お前マジかよ!」
「椿、ほんとなの⁉ 全然気づかなかった!」
 誰にも内緒でこっそり付き合っていたらしい。社内に広まったあとに万が一破局なんてしたら気まずいどころじゃないし、賢明な判断だと思うけれど、同期一同は予想だにしないビッグニュースに驚きを隠せなかった。
「籍は冬に入れるの。式は未定だけど、挙げるときはみんな招待するから来てね」
「もちろんだよ! 本当におめでとう」
 はにかむ椿と、男子陣にもみくちゃにされている山田くんは、二人とも幸せそうな顔をしている。私たちはお祝いの乾杯を高らかに掲げた。
 夜はあっという間に更けて、結局二次会まで全員で行ってしまい、終電で帰る羽目になる。何杯飲んだかわからないレモンサワーのせいで頭がふわふわしてしまっている。それでもまだ興奮は醒めず、夏の夜空の下を軽い足取りで帰宅した。
 シャワーを浴びて、ベッドに倒れこむ。最後に年甲斐もなくみんなで撮った集合写真の真ん中には、結婚する二人が写っている。ふと、姉夫婦の言葉を思い出した。彼らはどんな思いで、結婚――一番近くにずっといることを決めたのだろう。
 好きだけではどうにもならないことはこの世にきっとたくさんある。諦めざるを得ないタイミングも少なくないはずだ。そういうものを全部乗り越えて、一緒に生きていくという選択肢を選べる相手を見つけられることは、やっぱり奇跡じゃないか。
 いいなあ、と、無意識に口からこぼれたのと同時に、姉の忠告が脳裏をよぎる。
「自分の感情と向き合う……ねえ」
 そう言われても、よくわからない。自分の考えていることや思っていることはちゃんと理解しているつもりだ。わざわざ向き合わなければいけないほどややこしい感情を抱いている覚えはない。
悶々と思考を巡らせるうちに、いつの間にか眠りに沈んでいった。