翌日出社してきた梨花ちゃんは、昨日よりもだいぶ顔色が良くなっていた。目が合うと、はにかみながら会釈してくれる。その様子を見て、隣に座る皐月が話しかけてきた。
「西村ちゃん、ちょっと痩せたよね、最近」
「……言われてみれば、そうかも」
「前は健康的な感じだったけど、変わった気がする。なんかあったのかな」
「さあ……ダイエットしたんじゃない?」
 その理由はわかるけれど、さすがにそう簡単に話せる内容ではない。皐月が梨花ちゃんから視線を外したのを見て、私は安堵した。そして、いつもの業務が始まる。一時間の昼休憩をはさみながら、終業間際に携帯が震えるまで、いつも以上に順調に仕事は進んでいった。
 携帯を鳴らしたのは日下部くんだった。メッセージを開いて、私は心臓が一瞬固まったのを感じた。
〈すみません。今日は残業になってしまうので、俺が帰るまで西村をお願いできますか〉
梨花ちゃんはというと、残りの時間に終わるであろう分量の仕事しか手元に抱えていないようだった。一方の日下部くんのデスクには、どうやら課長から食らったらしい無茶ぶりの形跡が確認できる。今日は私も定時で帰れそうだし、と覚悟を決め、了承の返事を返した。
〈了解。私の部屋で待ってもらうから、帰ったら連絡ちょうだい〉
〈助かります〉
やがて終業のチャイムが鳴り響き、私と皐月は席を立った。同時に梨花ちゃんも立ち上がり、私と目を合わせてくる。
「水澤さん、お疲れ様です」
「お疲れ。行こうか」
「あれ? 桃子、西村ちゃんと帰るの?」
「皐月。駅まで梨花ちゃんも一緒にいいかな」
「いいけど……」
 皐月は何かを察したようだった。梨花ちゃんは少し気まずそうな顔をしたけれど、話すつもりはないようだ。
「宮島さんは何線ですか?」
「私は越後線。西村ちゃんもそうじゃなかったっけ? 何度か電車で見たことあるよ」
「あれ、ほんとですか。全然気づいてませんでした」
 話しながら歩く梨花ちゃんの表情は、昨日の夜の怯えた様子が想像できないほど明るく見える。でもそれは、つかの間のことだった。