ねじれた愛は怖い。
 愛という名目で、相手に好き放題する輩は、この世にたくさんいるのだろう。優しいだけが愛じゃないなんてことはわかっているけど、こんなふうに相手を追い詰めることは、愛でも何でもない。
 愛の皮を被った我儘だ。
 自分の部屋に戻ると、カーテンの隙間から月の灯りが差し込んでいた。冷蔵庫からライチサワーの缶を取り出して、ベランダに出る。夏の夜の空気が、肌に心地いい。缶の中身を半分ほど一気に飲むと、炭酸の刺激に頭がくらくらした。
 梨花ちゃんの彼氏は、どんな思いで彼女に手を上げたのだろうか。
 一方から話を聞いただけの他人が何か言えるような問題ではないけれど、好きな相手を殴るほどの感情とは何なのだろう。どれだけ酷いことをしても相手は自分を思ってくれるだろうと、試しているのだろうか。
 でも、片方の我慢の上で成り立つ幸せなんて、「二人の幸せ」ではないはずだ。我慢させている側が、自分の一時的な幸福感を満たすために作ったはりぼてでしかないのに、この世にはいまだにそういう「嘘の幸せ」がはびこっているのだ。
 そう思うと、やっぱり誰かと一緒に幸せになるなんて難しいことにしか思えない。歌詞に「みんな一緒に幸せになろう」と歌われた音楽もあるけれど、全ての人が幸せになれる世界はいつか本当に訪れるのだろうか。
 ライチサワーの缶についていた水滴がぽつぽつ落ちて、ベランダのコンクリートを濡らしている。残った酒をまた一気に飲み干して、私は部屋に戻った。シャワーを浴びて寝てしまおう。