季節はすっかり夏になっていた。日に日に日差しが強くなってきている。雨の日はまだ続くけれど、それに加えてこの暑さとなるとなかなか耐え難いものだ。
その夜、コンビニへ行こうと外に出ると、日下部くんが帰ってきたのが見えた。その瞬間に私が言葉を一瞬詰まらせたのは、彼の隣に梨花ちゃんがいたからだ。咄嗟に駐車場の車の陰に隠れて、二人が中に入っていくのをやり過ごす。
なんで隠れたのかは、自分でもわからなかった。けれど、通り過ぎて行った梨花ちゃんの横顔は、見たことがないほど暗かったことが印象に残っていた。いつも笑顔でテンションの高い彼女があんな顔をしているところは、今まで見たことがない。
二人のことが気になりつつも、切らしてしまった電池を買いにコンビニへ向かう。満ちた形から半月へ向かう途中の、オムライスの卵のような形の月が、薄い雲の隙間から顔を出している。
思えばここしばらく、満月を見ていない。ついこの間の満月の日は実家に帰ってばたついていたし、七夕の夜は雨に見舞われて天の川なんて見ることはできなかった。七夕の天気が悪いのは毎年のことだけれど、一年に一度の日だと思うと損をした気分になってしまう。
コンビニから帰ってくると、エントランスで再び日下部くんとエンカウントした。今度は一人だ。
「あ、お疲れ様です」
「どうしたの? なんかあった?」
訊いてみると、日下部くんは驚いたように目を少し見開いた。
「ごめん、さっき梨花ちゃんと一緒にいるところ見ちゃった。会ったらまたややこしいかなと思って隠れてたんだけど、なんだか普通じゃないみたいだったから気になって」
「ああ……見られてたんですね。ご心配おかけしてすみません。ただちょっといろいろあって……話せないんですけど」
「そっか。でも、何か力になれることがあったら言って」
そのまま部屋に戻ろうとすると、待ってください、と呼び止められた。
「一緒に来てもらえませんか」
連れ出された先はさっきも来たコンビニだった。梨花ちゃんの着替えを調達したかったのだが、女性ものを近所のコンビニで買うのはさすがにハードルが高かったらしい。
「しばらくいる感じなの? 出入りのとき気を付けるね」
「気遣ってもらってすみません。いつまでかはわからないですけど、当分はうちにいることになると思います」
間に合わせの着替えと必要そうなものを見繕って渡して、二度目のコンビニを後にする。――が、マンションに着いた時に計算外のことが起こった。
「あ、日下部くん――と、水澤さん……?」
「西村、何してんの」
エントランスの前に、梨花ちゃんがいたのだ。エントランスの前で、地面に何かを探している様子だった。
「さっき入るとき、うちの鍵落としたみたいで……というか、なんで水澤さんが?」
知られないようにするね、と話したばかりなのに、こんなにもあっさりと見つかってしまうとは。
「私もここのマンションに住んでるの。ついこの間まで知らなかったんだけど」
「あ……そうなんですか」
「それより、梨花ちゃんこそどうしたの? 顔色も悪いし、なんでここに……」
「……その、彼氏が……」
梨花ちゃんが話し始めようとした瞬間、日下部くんが鍵あったぞ、と声を上げた。
「話すんなら中に入ろう。水澤さん、俺の部屋来てください。三階の、三〇二号室なんで」
「わ……わかった。一旦自分の部屋に寄ったら行くね」