「なんで急にここに来たの?」
「ふと思い出したんですよね。ちょっと前に、教えてもらったんです。道の駅発祥の地っていうのも興味深いですし。道の駅とか高速のサービスエリアとか、結構好きなんです」
「そうなんだ。連れてきてくれてありがとう、面白かった」
「……さっき、随分と考え込んでたみたいですけど、大丈夫ですか」
 ためらいがちな日下部くんの質問に、私は曖昧に笑ってみせた。
「なんかねえ、いろいろ考えちゃうんだよね。このまま私、上手に人を好きになれないままなのかなあって」
「どういう意味ですか、それ」
 ちゅるんと溶けたアイスの液を吸いながら、私は言葉を選んだ。変なことを言い出したと思われていないだろうか。
「人を好きになって、愛するって難しいなって。さっきあそこにいた親子連れやカップルを見てて思ったんだよね。私はああいうふうになれる相手を見つけて、大事にできるのかな、とかさ」
「……またご大層なことを」
「結構本気だよ、私。小熊さんが結婚するって聞いた時も思ったの。私は一方的に好きな気持ちを抱いていただけで、小熊さんを幸せにできるだけの覚悟なんて果たしてあったのかな、って」
 一方的な愛は愛じゃないよね、と俯くと、手元のバニラアイスが危険なことになっていた。零れ落ちそうな白い雫を吸い上げて、黙り込んでしまった隣を向く。
「日下部くん?」
「愛って、何なんでしょうね」
 ソフトクリームを食べながら、彼はまた、どこを見ているのかわからない目をしていた。
「愛してる、だなんて人はすぐ言いますけど、愛ってそんなに簡単にわかるものなんでしょうか。愛っていう概念がよくわからないんですよね」
「まあ、そうだね。そもそも愛って何なんだろうね」
「でも、この間水澤さんが小熊さんの幸せを願ったことは、俺の中にあるボキャブラリーで表すなら、愛だと思いますよ」
 サクサクと軽快な音を立ててコーンまで完食した彼は、トイレ行ってきますと言い置いて立ち上がった。その背中を見送って、見えなくなった瞬間に身体の力が抜けた。
 見返りのない思いに虚しさを感じてしまうなら、それは愛と呼べないと、私は思う。それとも、私は愛というものを、必要以上に高尚なものだと捉えすぎているのだろうか。
 ポーカーフェイスな後輩のセリフは、私の悩みを大きくさせただけだった。