*
週末は馬鹿みたいに天気が良かった。夜も星がうるさいくらいによく見えた。数日前の約束が生きているのか半信半疑のまま、私は公園へ向かった。
日下部くんはそこにちゃんといた。公園の片隅のベンチに座って、携帯を眺めていた。
「遅いですよ」
「ほんとにいるのか疑問だったのよ。あんな雑な約束」
「でも来たじゃないですか。一人でいられなかったんですよね? 昨日も一昨日も残業してましたし」
日下部くんが言うことを全く否定できなかった。出張から帰った日も、一人で部屋にいると嫌でもあの夜のことを思い出してしまって、明け方まで眠れなかったし、昨日だって夢に見てしまって、夜中に泣きながら目を覚ましてしまった。初恋が散った中学生のような状態だなと、自分で呆れているところだ。
だからなるべくそのことを考えないようにしようと、仕事に集中していたのだ。
「ま、座ったらどうですか。今日は俺の奢りですよ」
そう言って差し出されたのは、この前私が飲んでいたチューハイと同じシリーズの、ぶどうサワーだった。
「ひねりがないね。この前白ぶどうで、今日はぶどうだなんて」
「安全パイってやつですよ」
得意げにそう言う彼の隣に腰かけて、私は缶を受け取った。結露が全部落ちた缶に塗られた紫色を目の前に掲げて、ふうん、と返事をする。
「残念。私、ぶどう味ってそこまで好きじゃないの」
言いながら缶を開けて、一気に半分ほど飲み干した。はあ、とため息をつくまで、日下部くんは黙っていた。
「それで、どうだったんですか、あの日は」
あまりに直球な訊き方に失笑する。チューハイを横に置いて、私は空を見上げた。この数日の間に、満月は通り越してしまったらしい。
「どうもこうもないよ。想像のつく通りでしかなかった。日下部くんもわかってたんでしょ」
「まあ、そうですけど」
「言いたいことだけ言って、返事なんて聞いてないよ。聞かなくてもわかるから。四月に異動があって良かったよ、前みたいに同じ部署に居たら仕事にも集中できなかっただろうし」
数日前とは反対側が削れはじめた月が、星の瞬きをかき消すように輝いている。自分で輝いているわけでもないのに、どうしてあんなに立派にしていられるのだろう。
「今日は饒舌ですね」
「呼び出して酒を飲ませてまで、野次馬根性丸出しにしてる後輩の期待に応えてるだけだよ」
「わあ、皮肉。これでも結構心配してたのに」
日下部くんはいつも、冗談なのか本当なのかわからない言い方をする。棒読みのセリフの裏側に何があるのかは読めない。それでも、ただ単に私の話を聞きたいだけでこんなことをしているのではないことくらいはわかった。
週末は馬鹿みたいに天気が良かった。夜も星がうるさいくらいによく見えた。数日前の約束が生きているのか半信半疑のまま、私は公園へ向かった。
日下部くんはそこにちゃんといた。公園の片隅のベンチに座って、携帯を眺めていた。
「遅いですよ」
「ほんとにいるのか疑問だったのよ。あんな雑な約束」
「でも来たじゃないですか。一人でいられなかったんですよね? 昨日も一昨日も残業してましたし」
日下部くんが言うことを全く否定できなかった。出張から帰った日も、一人で部屋にいると嫌でもあの夜のことを思い出してしまって、明け方まで眠れなかったし、昨日だって夢に見てしまって、夜中に泣きながら目を覚ましてしまった。初恋が散った中学生のような状態だなと、自分で呆れているところだ。
だからなるべくそのことを考えないようにしようと、仕事に集中していたのだ。
「ま、座ったらどうですか。今日は俺の奢りですよ」
そう言って差し出されたのは、この前私が飲んでいたチューハイと同じシリーズの、ぶどうサワーだった。
「ひねりがないね。この前白ぶどうで、今日はぶどうだなんて」
「安全パイってやつですよ」
得意げにそう言う彼の隣に腰かけて、私は缶を受け取った。結露が全部落ちた缶に塗られた紫色を目の前に掲げて、ふうん、と返事をする。
「残念。私、ぶどう味ってそこまで好きじゃないの」
言いながら缶を開けて、一気に半分ほど飲み干した。はあ、とため息をつくまで、日下部くんは黙っていた。
「それで、どうだったんですか、あの日は」
あまりに直球な訊き方に失笑する。チューハイを横に置いて、私は空を見上げた。この数日の間に、満月は通り越してしまったらしい。
「どうもこうもないよ。想像のつく通りでしかなかった。日下部くんもわかってたんでしょ」
「まあ、そうですけど」
「言いたいことだけ言って、返事なんて聞いてないよ。聞かなくてもわかるから。四月に異動があって良かったよ、前みたいに同じ部署に居たら仕事にも集中できなかっただろうし」
数日前とは反対側が削れはじめた月が、星の瞬きをかき消すように輝いている。自分で輝いているわけでもないのに、どうしてあんなに立派にしていられるのだろう。
「今日は饒舌ですね」
「呼び出して酒を飲ませてまで、野次馬根性丸出しにしてる後輩の期待に応えてるだけだよ」
「わあ、皮肉。これでも結構心配してたのに」
日下部くんはいつも、冗談なのか本当なのかわからない言い方をする。棒読みのセリフの裏側に何があるのかは読めない。それでも、ただ単に私の話を聞きたいだけでこんなことをしているのではないことくらいはわかった。