麻が泣き止まないため、
ファミレスではなく近くの公園でメモを開けることにした。

雨はやんでいた。


「麻…落ち着いて。大丈夫だから。」


麻はカラオケを出てから、ずっと泣いている。

今は四谷さんの肩に顔を埋めて、
子供のように抱きついている。


「じゃあ、メモ開けるぞ。」

「うん。」
「っ…」

「ああ……」


いやだ。

怖い。


今までずっと…まるで信じていなかったのに…


そのメモが急に恐ろしいものに思えた。








・今日は香月くんとあまりしゃべらない
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
・最後に香月くんに歌が下手ってからかわれる
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
・よっちゃんと大連くんがお金を払ってた
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
・お会計は3240円
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
・U公園に行く(暗いから夜?)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄





俺たちはしばらく絶句した。



合っている。

全部。


お会計の金額も、起こった出来事も。


麻がメモ通りに俺たちを誘導したとも思えない。

行動があまりにも自然すぎたし、
麻は嘘が下手だ。


公園に来たのだって、一日中雨の天気予報が外れたからだし…言い出したのは大連だ。

さすがに偶然じゃ片付けられない。


俺の額を冷たい汗が伝う。


長い沈黙を破ったのは麻だった。


「私も…今まで予知夢だって言い続けてたけど
どこか信じてないところもあった。
信じたくなかった…」

「……」

「香月くん…ごめん…」

「っ、何がだよ…」

「私が予知夢なんて見なければ…
香月くんに知られずに隠し通せていたら…」

「別に、お前が悪い訳じゃ…」



なんて言えばいいのかわからない。


本当に…?

いや、でも…
でも…



「香月くん」


夏なのに、体が冷たい。

自分の手を握っていないと…震えそうだ。


「な、なんだよ。」


「前も言ったけどね…。
もうすぐトラックにはねられて香月くんが
死ぬ予知夢を見たよ。」


その言葉は以前とは別格の重さをもって
俺の心臓に突き刺さった。


「でも、私が全力で守るから…
香月くんも…逃げて。」


「いや…ハ…?なにこれ、マジ?」

麻は強く頷く。

「笑えねぇ…」


「守るから!
ずっと、そばで…そばにいるから…っ」


ハハハ…なんだよそれ。
プロポーズ?

とか言って、今すぐ麻の焦る顔が見たい…。


大連も、四谷さんも黙ったまま。



「マジかよ…」


俺ははーっとため息をつき、
その場にしゃがみこんだ。





俺…死ぬのかよ…。


血が出るくらい固く握る麻の拳

その先で、

夏の終わりを告げるように

死んだセミが最期に小さく鳴いて
木から地面に落下していくのを見ていた。