「女の子に守られて、何が不満なんだよ。香月」
「全部。」
部活前、更衣室で大連がわかりきった質問を
してきた。
「麻、泣きそうな顔してたぞ。」
「そんなことで泣かねぇよ。」
「ひでぇやつ。」
練習着に着替え終え、大連を置いてグラウンドに
向かった。
何がひでぇんだよ。
毎日麻の変な妄想に付き合わされてるこっちの
身にもなれ。
守ってるってなんだよ。
ただ後ろついてきて、スピード落とせだの
周りを見ろだのうるさく言うだけじゃねぇか。
「なんで…」
なんで、こんなにムカついてんだ…。
グラウンドの外の定位置には、いつも通り麻の姿。
くそ暑い中、バカじゃねぇの。
「お、麻。また見学してんだな。
マネージャーになりゃいいのにな。」
「アイツどんくさそうだし無理だろ。」
「ひっで!
ま、麻が見てるのは香月だけだもんな~」
「は?」
「集合~!」
キャプテンの号令を聞き、慌てて走り出す。
麻が見てんのは俺だけ?
いやいや。
全体見てるんだろ。
暇だから。
サッカー好きとか言ってたし。
あれも俺をつけ回す嘘だったのかも知れないけど…
麻に向けている背中がなんか気になる。
見られているような感覚。
ホントにずっと俺だけ見てんのか?
いや、それは自意識過剰だろ。
でも…背中に刺さりつづける感覚…
「おい、香月周り見ろ!」
「はい!すみません!」
先輩に叱られ、気を取り直す。
周り見ろって麻かよ!!
って、そうじゃなくて。
くそ、上手くいかねぇ…
さっきからパスミスするわ、
ファウルとられるわで、散々だ。
「香月、集中!!」
「っ、はい!!」
一回。一回見ればわかる。
今、振り返って麻と目が合えば。
じろじろ見んなって、練習あとに言ってやる…!
プレーが落ち着いた瞬間、
俺は麻の定位置を振り返った。