あり得ないと思っていた未来だ。
香月くんと恋人になる未来…
だって最初は嫌われて、軽蔑されて
私の言葉なんてひとつも信じてくれなかった。
私の方も香月くんを好きでも嫌いでもなくて、
ただ使命感だけで動いていた。
でも…
自己満足から厚意へ
厚意から友情へ
友情から恋情へ
結局最後は自分のために、
私は香月くんを守りたいと思っている。
あり得なかったはずの未来。
今まで一つずつ積み上げてきた運命に逆らった行動。
死ぬ未来じゃない、違う未来に行くために
最後に私がするべきことは…
私の言うべき言葉は…。
私は再び立ち上がって走り出した。
何度も夢で経験してきた焦り。
香月くんを追いかけて、追いかけて、
いつも追い付けなかった。
未来を変える。
私の手で。言葉で。
絶対。
「っはぁ…はぁ…バス停…」
ここが最後…!
「みどり駅行きー…」
ちょうどバスが来ていた。
行列がそこに吸い込まれていく。
行かないで…
行かないで…!!
「か…づきくん…っ」
「しの…!
信乃!!信乃!!!」
いるかもわからない先に必死に呼び掛ける。
頬に伝う雨。
涙も混じり、服を濡らす。
「信乃!……好き。
私も…本当は信乃が好き!!」
私をからかう笑顔が好きだ。
守るためでも、登下校一緒に過ごせるのが嬉しかった。
絹に触れるように私の髪に、肌に触れる
香月くんの手が大好き。
ずっとそばにいたい。
もっと触れたい。
これからも…一緒に…!
バス停の人々から嘲笑が聞こえる。
それでもいい。
どんな未来でも…香月くんが生きていれば…
「…好き…大好き……」
プーッと警笛を鳴らし、バスの扉が閉まった。
涙と雨を目元から拭い、
バス停を見上げた。