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「あ」
思わず声を漏らす。またミスをした。今日はライブがうまくいかない。
ホームボタンを押し、時間を確認する。
待ち合わせは十三時。まだ二十分ほどある。流石に早く着きすぎたろうか。
吉祥寺駅に直結している駅ビル、そのコンコースで今日は鹿島くんと待ち合わせをしている。
待ち合わせの日時と場所は、安曇から連絡を受けた。鹿島くんはケータイを持っていないのでそうするより他仕方なかった。
安曇から連絡を受けた、というより実際のところは安曇がこの待ち合わせを設定したというべきだろう。そもそもの言い出しっぺが安曇だし。
あの子は何がしたいのだろう?
私と鹿島くんをどうしたいのか?
……そして、安曇自身は鹿島くんのことをどう思っているのだろう。
待ち合わせまでは、あと十五分。
もう今更ゲームをする気にもなれない。どうせミスするし。
ケータイを持たない相手との待ち合わせなんていつ以来だろう。
というか初めてでは?
ちゃんと会えるのか、不安で仕方ない。緊張するのも無理はない。
ということにしておく。緊張しているのは、待ち合わせの相手が……とは考えないようにする。ますます意識してしまうに決まっているから。考えないようにするなんて、もう意識しまっているので無駄なのだけれど。
振り返り、レストランのガラス窓で髪をチェックする。
今日は久しぶりに髪を整えた。朝出かける季帆さんを見送った後、出しっぱなしになっていたヘア・アイロンを拝借して、基本はまっすぐ、毛先だけは少し巻いている。前に季帆さんにやってもらったのを真似してみただけど、思っていたよりはうまくいった。髪が焦げたらどうしようと最初はおっかなびっくりだったけれど。
問題は服だ。夏休みのお出かけに制服って……。
我ながらどうかとは思うけれど、これも仕方ない。服なんてもう何年も買っていない。お父さんがいた頃には、よく季帆さんとお買い物に行った。季帆さんはブラウスやハイウエストのスカートなんかのクラシカルなものが好きで、私もそのセンスにあやからせてもらっていた。
それも中学校の頃の話だ。今では服なんて買わない。そもそも休みの日に出かけたりもしない。そんな贅沢を楽しむ経済的な余裕は、私にはない。
それに、どうせ今日はどうせ勉強するだけだ。どこかのカフェかファミレスで勉強するだけなら、制服着用でもまあ、そんなに変でもないでしょう。
というか鹿島くんも制服で来るのではないか。そんな予感もある。真面目だし、休みの日は勉強しているだろうし。本人から聞いたことはないけれど、休日におしゃれしてお出かけするイメージが全く湧かない。だからきっと大丈夫。
そう考えると、お化粧は少しやりすぎだったかもしれない。お出かけとはいえ勉強なのだから、『何故君はそんな余分なことに時間を割いているのか?』となるかもしれない。
とはいえ鹿島くんのことだから、気にしないというか、気づかない可能性も十分ある。それはそれでどうかとは思うけれど、気づかれてマイナスに働くよりは……。
今からでもトイレ行ってマスカラだけでも落とそうか。
と、ガラス窓とにらめっこしていたところ、
「鶴崎さん」
急に声をかけられたものだから、思わず背筋を伸ばして「ひゃいっ!」と変な声で返事をしてしまった。
振り返ると、やっぱり声の主は鹿島くんで、やっぱり軽く死にたくなった。
「お待たせ。早いな。まだ十分前なのに」
と、鹿島くんは腕時計を見て言った。
「ま、君は基本的に遅刻はしないしな。最初は時間ギリギリだったが、それも改善したし」
そう満足気に頷く鹿島くんは、制服ではなく私服を着ていた。八分丈のスキニーにデッキシューズ、麻のワイシャツ。シンプルだけど細身
はよく合っていて……更に死にたさが増量した。
「えっと、今日はどこに行くの?」
私が訊くと、鹿島くんは首を小さく傾げた。
「街に出たら行くところは決まってるだろう」
と彼はそれだけ答え、さっさと歩き出した。
「あ」
思わず声を漏らす。またミスをした。今日はライブがうまくいかない。
ホームボタンを押し、時間を確認する。
待ち合わせは十三時。まだ二十分ほどある。流石に早く着きすぎたろうか。
吉祥寺駅に直結している駅ビル、そのコンコースで今日は鹿島くんと待ち合わせをしている。
待ち合わせの日時と場所は、安曇から連絡を受けた。鹿島くんはケータイを持っていないのでそうするより他仕方なかった。
安曇から連絡を受けた、というより実際のところは安曇がこの待ち合わせを設定したというべきだろう。そもそもの言い出しっぺが安曇だし。
あの子は何がしたいのだろう?
私と鹿島くんをどうしたいのか?
……そして、安曇自身は鹿島くんのことをどう思っているのだろう。
待ち合わせまでは、あと十五分。
もう今更ゲームをする気にもなれない。どうせミスするし。
ケータイを持たない相手との待ち合わせなんていつ以来だろう。
というか初めてでは?
ちゃんと会えるのか、不安で仕方ない。緊張するのも無理はない。
ということにしておく。緊張しているのは、待ち合わせの相手が……とは考えないようにする。ますます意識してしまうに決まっているから。考えないようにするなんて、もう意識しまっているので無駄なのだけれど。
振り返り、レストランのガラス窓で髪をチェックする。
今日は久しぶりに髪を整えた。朝出かける季帆さんを見送った後、出しっぱなしになっていたヘア・アイロンを拝借して、基本はまっすぐ、毛先だけは少し巻いている。前に季帆さんにやってもらったのを真似してみただけど、思っていたよりはうまくいった。髪が焦げたらどうしようと最初はおっかなびっくりだったけれど。
問題は服だ。夏休みのお出かけに制服って……。
我ながらどうかとは思うけれど、これも仕方ない。服なんてもう何年も買っていない。お父さんがいた頃には、よく季帆さんとお買い物に行った。季帆さんはブラウスやハイウエストのスカートなんかのクラシカルなものが好きで、私もそのセンスにあやからせてもらっていた。
それも中学校の頃の話だ。今では服なんて買わない。そもそも休みの日に出かけたりもしない。そんな贅沢を楽しむ経済的な余裕は、私にはない。
それに、どうせ今日はどうせ勉強するだけだ。どこかのカフェかファミレスで勉強するだけなら、制服着用でもまあ、そんなに変でもないでしょう。
というか鹿島くんも制服で来るのではないか。そんな予感もある。真面目だし、休みの日は勉強しているだろうし。本人から聞いたことはないけれど、休日におしゃれしてお出かけするイメージが全く湧かない。だからきっと大丈夫。
そう考えると、お化粧は少しやりすぎだったかもしれない。お出かけとはいえ勉強なのだから、『何故君はそんな余分なことに時間を割いているのか?』となるかもしれない。
とはいえ鹿島くんのことだから、気にしないというか、気づかない可能性も十分ある。それはそれでどうかとは思うけれど、気づかれてマイナスに働くよりは……。
今からでもトイレ行ってマスカラだけでも落とそうか。
と、ガラス窓とにらめっこしていたところ、
「鶴崎さん」
急に声をかけられたものだから、思わず背筋を伸ばして「ひゃいっ!」と変な声で返事をしてしまった。
振り返ると、やっぱり声の主は鹿島くんで、やっぱり軽く死にたくなった。
「お待たせ。早いな。まだ十分前なのに」
と、鹿島くんは腕時計を見て言った。
「ま、君は基本的に遅刻はしないしな。最初は時間ギリギリだったが、それも改善したし」
そう満足気に頷く鹿島くんは、制服ではなく私服を着ていた。八分丈のスキニーにデッキシューズ、麻のワイシャツ。シンプルだけど細身
はよく合っていて……更に死にたさが増量した。
「えっと、今日はどこに行くの?」
私が訊くと、鹿島くんは首を小さく傾げた。
「街に出たら行くところは決まってるだろう」
と彼はそれだけ答え、さっさと歩き出した。