・・・やってしまった。
まず最初に、そう思った。
目を覚ました瞬間映ったのは白い天井。
体にかかっている毛布。
まだ少し痛む頭を持ち上げて時計を見れば、
時刻はもうお昼を過ぎていた。
・・・ああ、ほんとに。やってしまった。
私は何人の人に迷惑をかけてしまったんだろう。
「・・・目、覚めた?」
誰もいないと思っていた保健室。
聞きなれた声がしてカーテンが開いて。
そこにいたのは、少し怖い顔をした、彼。
「・・・微熱だって。倒れたのは寝不足と熱中症もあるんじゃないかって先生が。」
水を差し出しながら、春原くんはそう教えてくれる。
「さっきまで白河もいたんだけど、バスケの試合があるから泣く泣く出て行ったよ。すごく心配してた。あとここまで連れてきてくれた柳くんも。無理させちゃったって気にしてた。委員の仕事の事は気にしないで下さいって。」
「・・・。」
「森田も。秋山に委員の仕事やらせてばっかりだったってすごく反省してたよ。後で謝りに来ると思う。」
「そんな・・・」
さっちゃん。柳くん。心配をかけてしまった。
森田君だって忙しいから仕方ないのに。
迷惑をかけてしまった事、
皆に心配させてしまった事、
色んな事が相まって少し泣きそうになる。
そんな私の変化に気づいたのか、
春原くんは私の頭に優しく手を置いて。
「無理するなって言ったのに無理する。」
「う・・・」
「それが秋山なのかもしれないけど。でも、皆心配してるんだよ。」
ごめんなさい。
小さく呟いた私の声に、春原くんはうん、と答える。
手伝えなかった俺もごめんね、
なんて春原くんも謝って。
やめてよ、更に泣きそうになっちゃうじゃないか。
「・・・私、運動出来ないから。」
「うん。」
「どの種目やっても迷惑かけちゃう。けどみんな笑って許してくれるし、凄く優しくて、」
「うん。」
「私に出来る事したいなって。優勝には貢献できないから、こういう所で力になりたいなって。皆の事、好きだから。」
「・・・ほんとに、秋山は馬鹿。」
そう言いつつ、彼の声色はとても優しい。
春原くんはしばらく、そのまま傍にいてくれた。
静かな空間にまたうとうとし始めた私に気づいて、
春原くんは席を立つ。
「まだ体調良くないでしょ、もう少し寝てな。」
「・・・うん。ありがとう。」
「あ、あと。小指捨てる覚悟は出来てる?」
「それ有効だったのね?そして今言うのね??」
思わずいつも通りのツッコミが出てしまった私に、
春原君は冗談だよ、無表情のまま答えて保健室を出て行った。
・・・いや冗談じゃなかったら恐ろしすぎるんだけど。
「結依!大丈夫!?」
数十分後、
勢いよくドアがあき入ってきたのはさっちゃん。
ゼッケンは付けたままで、額には汗が光っていて。
急いできてくれたんだろうなあ。
「大丈夫だよ、ありがとう。」
「もう!心配したんだからね!ていうか結依が体調悪いのに私気づけなくて・・・」
「そんなことないって。心配かけてごめんね。」
私の顔を心配そうにのぞき込んで、
そして少し泣きそうな顔で微笑む。
「微熱あるって聞いたけど、どんな感じ?」
「少しだるいくらいかな。寝たらだいぶ良くなった。」
「そっか。よかった。」
睡眠不足も大きかったのだろう。
寝たことで朝よりも大分気分は良くて。
「体育祭はどんな感じ?」
「あ!!そう!それ!!」
「びっ・・くりしたあ。」
「ごめんごめん。」
私のその質問に、
さっちゃんは焦ったように声を荒げる。
「今女子バスケは負けちゃって準優勝。あとは男子バスケの決勝で、
これで勝てれば総合優勝かなって感じなんだけど!!」
「え!すごい!!」
「2組相手に互角の勝負してるの!!」
2組はバスケ経験者が多く、確か昨年の優勝組だった気がする。
そんな2組に互角とは・・・すごい。
やっぱりバスケ部員が頑張ってるのかな?それとも塚田くん?
興奮したように話すさっちゃんの口から出た名前は、
予想外で。
「春原が!すごいの!!」
キュッ、と靴と由香がこすれる音とボールが跳ねる音。
皆の歓声。
その中心にいるのは、いつもはけだるげな、彼。
「ほんとだ・・・」
「あんなに嫌がってたのになんかさっき急に出るって言いだしたみたい。
本当に上手だよねえ。」
さっちゃんに少しだけ支えてもらいながら、
体育館のスタンドへと移動した私達。
その点差はわずか4点で、
残り時間はあまりない。
皆の応援にも熱気がこもっていて。
「春原!!」
塚田くんの声がして、春原くんがボールを受け取る。
いつか見た華麗なドリブルで相手を抜かして、
そして、宙にボールを放つ。
シュンッ、という静かな音と共にボールはゴールに吸い込まれて。
わあっと歓声が聞こえる。
仲間とハイタッチを交わす春原君の顔には、汗が浮かんでいて。
すごいなあ、と思うと同時に、気がかりなことが一つ。
「・・・痛そう。」
「何が?」
やはり、春原くんが右足を少しかばっているように見える。
それでも彼は走り続けて、相手とぶつかって。
こんな春原くん、今まで見たことがあっただろうか。
点差は2点。時間はあと・・・数分。
必死の攻防、熱気あふれる応援。
多くの生徒や先生も集まっているこの体育館が、
まるで1つの熱の塊のようで。
「・・・ばれ」
「頑張れみんな!春原くん!!」
私1人の声なんて届くはずないのに、
春原くんが一瞬。こっちを向いた気がした。
同時に鳴ったのは、試合終了の合図。
まず最初に、そう思った。
目を覚ました瞬間映ったのは白い天井。
体にかかっている毛布。
まだ少し痛む頭を持ち上げて時計を見れば、
時刻はもうお昼を過ぎていた。
・・・ああ、ほんとに。やってしまった。
私は何人の人に迷惑をかけてしまったんだろう。
「・・・目、覚めた?」
誰もいないと思っていた保健室。
聞きなれた声がしてカーテンが開いて。
そこにいたのは、少し怖い顔をした、彼。
「・・・微熱だって。倒れたのは寝不足と熱中症もあるんじゃないかって先生が。」
水を差し出しながら、春原くんはそう教えてくれる。
「さっきまで白河もいたんだけど、バスケの試合があるから泣く泣く出て行ったよ。すごく心配してた。あとここまで連れてきてくれた柳くんも。無理させちゃったって気にしてた。委員の仕事の事は気にしないで下さいって。」
「・・・。」
「森田も。秋山に委員の仕事やらせてばっかりだったってすごく反省してたよ。後で謝りに来ると思う。」
「そんな・・・」
さっちゃん。柳くん。心配をかけてしまった。
森田君だって忙しいから仕方ないのに。
迷惑をかけてしまった事、
皆に心配させてしまった事、
色んな事が相まって少し泣きそうになる。
そんな私の変化に気づいたのか、
春原くんは私の頭に優しく手を置いて。
「無理するなって言ったのに無理する。」
「う・・・」
「それが秋山なのかもしれないけど。でも、皆心配してるんだよ。」
ごめんなさい。
小さく呟いた私の声に、春原くんはうん、と答える。
手伝えなかった俺もごめんね、
なんて春原くんも謝って。
やめてよ、更に泣きそうになっちゃうじゃないか。
「・・・私、運動出来ないから。」
「うん。」
「どの種目やっても迷惑かけちゃう。けどみんな笑って許してくれるし、凄く優しくて、」
「うん。」
「私に出来る事したいなって。優勝には貢献できないから、こういう所で力になりたいなって。皆の事、好きだから。」
「・・・ほんとに、秋山は馬鹿。」
そう言いつつ、彼の声色はとても優しい。
春原くんはしばらく、そのまま傍にいてくれた。
静かな空間にまたうとうとし始めた私に気づいて、
春原くんは席を立つ。
「まだ体調良くないでしょ、もう少し寝てな。」
「・・・うん。ありがとう。」
「あ、あと。小指捨てる覚悟は出来てる?」
「それ有効だったのね?そして今言うのね??」
思わずいつも通りのツッコミが出てしまった私に、
春原君は冗談だよ、無表情のまま答えて保健室を出て行った。
・・・いや冗談じゃなかったら恐ろしすぎるんだけど。
「結依!大丈夫!?」
数十分後、
勢いよくドアがあき入ってきたのはさっちゃん。
ゼッケンは付けたままで、額には汗が光っていて。
急いできてくれたんだろうなあ。
「大丈夫だよ、ありがとう。」
「もう!心配したんだからね!ていうか結依が体調悪いのに私気づけなくて・・・」
「そんなことないって。心配かけてごめんね。」
私の顔を心配そうにのぞき込んで、
そして少し泣きそうな顔で微笑む。
「微熱あるって聞いたけど、どんな感じ?」
「少しだるいくらいかな。寝たらだいぶ良くなった。」
「そっか。よかった。」
睡眠不足も大きかったのだろう。
寝たことで朝よりも大分気分は良くて。
「体育祭はどんな感じ?」
「あ!!そう!それ!!」
「びっ・・くりしたあ。」
「ごめんごめん。」
私のその質問に、
さっちゃんは焦ったように声を荒げる。
「今女子バスケは負けちゃって準優勝。あとは男子バスケの決勝で、
これで勝てれば総合優勝かなって感じなんだけど!!」
「え!すごい!!」
「2組相手に互角の勝負してるの!!」
2組はバスケ経験者が多く、確か昨年の優勝組だった気がする。
そんな2組に互角とは・・・すごい。
やっぱりバスケ部員が頑張ってるのかな?それとも塚田くん?
興奮したように話すさっちゃんの口から出た名前は、
予想外で。
「春原が!すごいの!!」
キュッ、と靴と由香がこすれる音とボールが跳ねる音。
皆の歓声。
その中心にいるのは、いつもはけだるげな、彼。
「ほんとだ・・・」
「あんなに嫌がってたのになんかさっき急に出るって言いだしたみたい。
本当に上手だよねえ。」
さっちゃんに少しだけ支えてもらいながら、
体育館のスタンドへと移動した私達。
その点差はわずか4点で、
残り時間はあまりない。
皆の応援にも熱気がこもっていて。
「春原!!」
塚田くんの声がして、春原くんがボールを受け取る。
いつか見た華麗なドリブルで相手を抜かして、
そして、宙にボールを放つ。
シュンッ、という静かな音と共にボールはゴールに吸い込まれて。
わあっと歓声が聞こえる。
仲間とハイタッチを交わす春原君の顔には、汗が浮かんでいて。
すごいなあ、と思うと同時に、気がかりなことが一つ。
「・・・痛そう。」
「何が?」
やはり、春原くんが右足を少しかばっているように見える。
それでも彼は走り続けて、相手とぶつかって。
こんな春原くん、今まで見たことがあっただろうか。
点差は2点。時間はあと・・・数分。
必死の攻防、熱気あふれる応援。
多くの生徒や先生も集まっているこの体育館が、
まるで1つの熱の塊のようで。
「・・・ばれ」
「頑張れみんな!春原くん!!」
私1人の声なんて届くはずないのに、
春原くんが一瞬。こっちを向いた気がした。
同時に鳴ったのは、試合終了の合図。