生徒の騒がしい声が聞こえて、
ジャージ姿の生徒たちが道を駆け抜けて。

体育祭当日の今日。
現在は午前10時頃。開催は間もなくだ。

「・・・快、晴。」

対戦表の張り出しを行いつつ空を見上げる。
そこには雲一つない。見事に晴れた。

「・・・ふああ。」

欠伸が出そうになるのを噛み殺す。
いや、待って全然噛み殺せてなかったわ。

気持ちのいい秋晴れと打って変わって、
私の体調は芳しくない。
テントの設営、日程の確認、実行委員の集合は朝早くて。
早起きが苦手な私にとっては大事件だった。そのため非常に眠い。

加えて数日前から続く体調不良も回復しておらず、
のどの痛みと倦怠感との戦いである。なんてことだ。

「あ、結依。朝から大変ね。」
「さっちゃんおはよう。今日は一段と可愛いね、結婚する?」
「寝ぼけてんの?」

さすがの辛辣さ。
選抜リレーに出場するからであろう。ポニーテールにしている髪の毛が揺れて。
凄く似合ってる、可愛い、結婚。

「まだ仕事あるの?」
「うん。」
「そっか。お昼は一緒に食べようね。」
「食べるー!リレー頑張ってね~」

そんな会話をしているうちに生徒の歓声が聞こえてきて、
どうやら最初の試合が始まったようだ。

これでよし、と。
対戦表を張り終え、余った紙を持ったまま実行委員の本部テントに戻れば
そこにいたのは柳くん。

何やら彼は焦っているようで。

「結依先輩。お疲れ様です。」
「お疲れさま。どうかしたの?」
「えっと、実は~~」

怪我や事故防止の対応のため、
それぞれの試合場所には実行委員が1人ずつ待機している事になっている。
その当番の時間は事前に決まっているのだが、どうやらその時間が
試合の時間と被ってしまっているらしい。調整ミスだ。

「何時からなの?」
「11時からです。」
「じゃあ、私当番変わるよ。」
「え、いやでも・・・結依先輩もやること色々・・・」
「大丈夫だって、先輩にお任せなさい。」

心配そうな顔で渋っていた柳くんだが、
すいません、と頭を下げる。

「ふふん。プリンで許そう。」
「高めのやつ買ってきます。」

謝ってからバタバタとテントを出て行く柳くん。
時計に目を向ければ、やばい、私も時間があまりない。

1人になったテントの中でやるべきことを整理する。
同時に咳が込みあげてきてしまって。
しばらく咳と闘う。うう、胸が苦しい。

水分を補給しようと水道へと向かう。

えっと、歩きながら整理整理。
自分の当番の時間を確認して、試合の進行確認、柳くんの当番が11時、
あと救護室に行って器具の確認も・・・

・・・て、あれ。

順調に働いていたはずの頭が、そこで止まる。

急に世界がゆがんで、
体中の力が抜けていく。

これは、やばいやつだ。

そう思っても体は言う事を聞かず、
重力に逆らえないのを感じる。
世界が反転して、揺らいでいく視界の中で、
焦ったような柳くんの顔が映った。