「花の女子大生だからこそ!パン屋さんに通うんですよ、菜穂さん。だってパン屋さんって、オシャレで可愛いじゃないですか。女子大生は、可愛いものが好きです」
「オシャレで可愛い、ね。あたしにもあったよ。何見ても“かわいいー”って言ってた時代」
彼女がこてっと首を傾げると、菜穂は気するなとばかりに手をひらひらと振った。
「そうだ、菜穂さん。今日のおすすめは何ですか?」
彼女は、ずり落ちてきた眼鏡を指で押し上げながら問いかける。
広げた雑誌に視線を落とそうとしていた菜穂は、その問いに顔を上げて「ああ」と呟いた。
「はいはい、おすすめね。ちょっと待ってな」
広げていた雑誌をレジカウンターに無造作に放り出した菜穂は、椅子から立ち上がって振り返ると、そこにあるドアを押し開ける。
「おーい棗、来てるよ」
ドアの向こうに向かって菜穂が声をかけると、すぐさまバタバタと足音がして、菜穂を押しのけるようにして男が出てきた。
「こんにちは、棗さん」
上下共に白のコックコート姿で現れたのは、菜穂の双子の兄にして、この店の経営者でありパン職人でもある前田 棗。
「オシャレで可愛い、ね。あたしにもあったよ。何見ても“かわいいー”って言ってた時代」
彼女がこてっと首を傾げると、菜穂は気するなとばかりに手をひらひらと振った。
「そうだ、菜穂さん。今日のおすすめは何ですか?」
彼女は、ずり落ちてきた眼鏡を指で押し上げながら問いかける。
広げた雑誌に視線を落とそうとしていた菜穂は、その問いに顔を上げて「ああ」と呟いた。
「はいはい、おすすめね。ちょっと待ってな」
広げていた雑誌をレジカウンターに無造作に放り出した菜穂は、椅子から立ち上がって振り返ると、そこにあるドアを押し開ける。
「おーい棗、来てるよ」
ドアの向こうに向かって菜穂が声をかけると、すぐさまバタバタと足音がして、菜穂を押しのけるようにして男が出てきた。
「こんにちは、棗さん」
上下共に白のコックコート姿で現れたのは、菜穂の双子の兄にして、この店の経営者でありパン職人でもある前田 棗。