「あっ、おはようございます、棗さん。あと、お久しぶりです」

「真希ちゃん……」


ニッコリ笑う真希を見て、棗は呆然と立ち尽くす。

いつもならば顔を見た瞬間に、勢いで挨拶に見せかけたハグを繰り出すところだが、今日は流石に出来なかった。

そんな棗の後ろから顔を出した菜穂が、立ち尽くす兄に代わって口を開く。


「それで、体調崩してたわけでもないのに三ヶ月も音沙汰なしだった理由は?やっぱり、他にお気に入りのパン屋でも見つけたか」


レジスターの横に手をついて問い詰め口調の菜穂に、真希は眼鏡を押し上げながら苦笑する。


「確かに、駅ビルに新しく入ったパン屋さんが美味しいって評判なので、機会があれば行ってみたいとは思っていましたけど、そんなんじゃないですよ。ただ、テスト期間だっただけです。私、あまり要領がよくないので、テストの前は時間をかけてみっちり勉強するんです。だから、テストが終わるまでは寄り道も我慢して、友達からの誘いも全部お断りしてたんですよ。でも、今日からはやっと解禁です!」