「真希、あんた!なんでそんなに元気なら三ヶ月も顔出さなかったの。あたしはともかく、棗なんてまるで廃人のようになっちゃって大変なんだからね」


言い終えたところで、菜穂はスタスタと早足にレジカウンターの向こうに回り込むと、その奥にあるドアを勢いよく開け放った。


「棗!!」


心なしか薄暗く感じる厨房で、棗はぼんやりと宙を見つめながら生地をこねている。


「棗ってば、帰ってこい!真希が来たよ」


真希の名を聞いた途端ピタッと生地をこねていた手が止まり、ぼんやりと宙を見つめていた視線が、ゆっくりと菜穂を捉える。


「……真希、ちゃん?」


ハッキリとこちらを向いた棗の問いかけに、菜穂は頷き返す。


「そうだよ、真希がき――ってちょっとこら!棗」


こねかけの生地を乱暴に放り出して、大慌てて洗った手を腰に巻いたエプロンで拭きながら、棗は菜穂を押しのけて店内に飛び出していく。