「……何があったかは知らないけどさ、そんなに落ち込まなくたって、そのうちひょっこり現れるよ。……たぶん」


理由はわからずともその様子を見れば兄が落ち込んでいるのはわかるので、菜穂は励ますように声をかける。

聞こえているのかいないのか、棗はふらりふらりとレジカウンターを回り込み、力なくドアを開けて持ち場へと戻っていく。

棗の姿が視界から消えたところで菜穂がため息をつくと、カランカランと小気味いい音を立てて、扉が開いた。


「いらっしゃいま――……あっ」

「おはようございます、菜穂さん!それから、お久しぶりです」


開店間もない店内に、軽やかな足取りで現れたのは、眼鏡を押し上げながら笑う懐かしい顔。


「真希、あんた……元気そう、だね」

「はい!元気ですよ。菜穂さんも、お元気そうで何よりです」


先程まで話題に上っていた張本人が、本当にひょっこり現れたことで、菜穂はしばらく唖然としたが、程なくしてハッと我に返った。