それから一週間が経ち、あっという間に一ヶ月、そして真希が店に姿を見せなくなってから、まもなく三ヶ月が過ぎようとしていた。


「最近あの子、どうしたのかね。ここ二ヶ月くらい全然店に来ないけど」


菜穂は、焼きあがったパンを棚に置いたすのこの上に並べながら、窓辺に張り付く棗にチラッと視線を送る。


「二ヶ月なんてもんじゃない、三ヶ月だよ……。真希ちゃんが来なくなってから三ヶ月……」

「うちのパンに飽きたか、もしくは新しいお気に入りのパン屋でも見つけたかね」


何気なく放った台詞に、棗はショックを隠しきれない表情で振り返る。

そんな兄の顔をしばらく見つめてから、菜穂は「なんかあったの?」と問いかけた。

実は心当たりがないでもない棗だが、それを菜穂に話す気はなれなくて、窓から離れてふらりふらりと持ち場に戻る。

棗のないでもない心当たりの中で、真希は特別嫌がっている様子はなかったが、挨拶と呼ぶには流石に無理があるタイミングのあのハグを、本当はどう思っていたのかはわからない。

告白しようと意気込んで口にした台詞も、その時は意味がわからずとも、家に帰ってじっくりと考えたら意味がわかったかもしれないし。

もしそうだとしたら、あそこは男らしく最後まで言い切るべきだったと後悔して、棗は頭を抱えた。