別段抵抗することも、突然のことに驚くこともなかった。ただ、妙なタイミングの挨拶だなと思っただけ。


「あの雨の日、俺は客引きがてら何気なく声をかけただけだったのに、真希ちゃんはあれからずっと、タオルと雨宿りのお礼にってうちの店に通ってくれるようになったでしょ。そんな真希ちゃんが、いつの間にか俺の中で特別になってたんだ。……だから、このハグだって、本当は凄く特別なんだよ?」


棗が体を放したタイミングで、真希は顔を上げる。
ハグの衝撃でずれた眼鏡を直しながら、真希は嬉しそうに笑った。


「私、菜穂さんには常連さん認定されたんですけど、棗さんからはまだだったので凄く嬉しいです。これで晴れて、お二人公認の常連ですね。胸を張って、常連さんを名乗れます!」

「……えっと、あの……特別っていうのは、そういうことじゃなくてね。ていうか、真希ちゃんは既に常連さんだよ。胸を張っていいよ。でもね、俺が言いたいのはそういうことじゃなくて」

「常連さんの更に上ということですか!?」