~選択~
日曜日…
 寒いけど、空は雲一つなく晴れていて気持ちがよい。来ないことも出来たが、まだ大ちゃんのことが好きな私は、札幌行きのバスへ乗っていた。今日は、どんな結末になっても、大ちゃんの本音聞けたらいいな。3時間半バスに揺られ、札幌に到着した。
 珍しく、今日は大ちゃんの方が早く、もう札幌に着いているという。

「ななみ~」

「大ちゃん…」

 気まずい…気まずいに決まっている。目線をそらし、少しうつむく。

「ななみ、ゆっくり話せるところ行くか」

「うん…」

 向かった先は、ネットカフェ。確かに、札駅駅周辺は日曜ということもあり、人で溢れていて喫茶店も人でいっぱいだ。だからって、ネットカフェは静かすぎじゃない??ネットカフェは人生初で、防音室や二人で借りられる部屋があることを初めて知った。
 何気に大ちゃんとのやりたいことリストの1つをクリアしている。大ちゃんが覚えていたかは分からないが、覚えていてくれていたと少し嬉しくなった。

「早速、本題なんだけど…」

「はい…」

「まず、一つ目。
 俺に付き合ってる人がいるってやつから。
 結論から言うと、俺は誰とも付き合ってない」

「本当なの?じゃあ、ひまわりユニットの人と
 付き合ってるってやつは?」

「あいつは、俺の仲間だ。
 確かにグループで遊んだことはある。
 なんて優香に聞いたか知らないけど、
 二人で会うとか、やましいことは一切ない」

「そうなんだ…。
 じゃあ、お見合いの人とは?
 …まだ会ってるんでしょ?」

「それは…
 黙っててすまない。会っている」

「そっか…」

「でも、お互い好きとかじゃないんだ。
 周りがはやし立てるから何度も会ってるけど、
 相手は俺の話に相づちを打つだけで、会話にもならない。
 興味がなさそうな素振りしか見せない。
 それに、彼女には一歩も触れてない」

「それなら、なんで会ってるの?」

「正直、断りづらい。
 最初は相手からお断りしてもらうのを待ってたんだ。
 だって、黙ったままで、一切笑わない。
 俺のこと気になってるとは思えない。
 でも、施設長や彼女の両親もどんどん話を進めて…。
 彼女は両親のいいなりって感じだった」

「そうなんだ。でも断らないことには、
 このまま結婚させられちゃうんじゃないの?」

「もう断った…。
 施設長にこっぴどく叱られたけど、ちゃんと断ったから」

「大ちゃん…ごめん。
 私、大ちゃんに何も確認しいないまま…ずっと疑ってた。怖かった。
 大ちゃんに嫌われたくなかった。
 本当にごめんなさい」

「いいよ。俺も何もななみに話してなくて、不安にさせたね」

 大ちゃんに聞かなきゃ分かんないことは沢山あるんだ。そう思ってたはずなのに、素直でいようって思ってたのに…。
 一人で考えて、不安になって、勝手に疑って…。
 人と付き合うなかで、お互いに信頼し合えることって必要だよね。だから、お互いのこと知ってくこと大切だし、大ちゃんのこと信じたいって思うんだったら、もっと早く本当のことを知ろうって歩み寄ればよかった。

「じゃあ、もう一つ。
 大人になれってどういう意味か。そう言ってたよな?」

「う、うん…」

「ななみ、別に誰にも頼るな、ラインをするなって言ったんじゃない。
 もしあの時、すぐに付き合っていたら、
 ななみが俺に、全部、全部寄りかかってくる気がしてたんだ。
 人に頼ることはもちろん大切だ。
 でも、いつも頼ってたら自分で何も乗り越えられなくなる。
 甘えてるって言われるようになる。
 ななみは、頭も良いし、物事を考えられる力を持ってる。
 だから、やる前から“分からない”“無理だ”って決めつけるのはやめないか?
 まずは、自分で考えて、動いて、やってみる。
 そうしたら、ななみはもっともっと成長できる女性になる。
 自分を持って欲しいって言ったのも、
 自分の考えを持って、
 それを伝えられるような大人になって欲しいって思ったからだ。
 相談員って仕事は沢山の人の中心にいるんだよ。
 上司や他の職種に色々言われ、入居者、家族に色々言われて、板挟みになる。
 今のななみじゃ、たぶんストレスで潰れていくと思った。
 ななみが、何でもいいんだけれど、
 “これを大切にして働きたい”とか、
 “これだけは絶対に曲げられない”とか
 そういう意志を持ってないと厳しい仕事だよ。
 これから社会に出るときに、
 ななみのなかに芯がなきゃ辛くなっちゃうと思うんだよね。
 ななみは素直すぎる。
 素直なのが悪いって意味じゃなくて、物事をなんでもまっすぐに、
 何のフィルターも通さないで受け止め過ぎいる気がする。
 それって、良いことだけれども、
 ななみの心が苦しくなっちゃうことも多くなる。
 ななみは、こんなに一気に言われたらたぶん頭がパンクしてると思うけど、
 不器用だから一気にやろうとしなくていい。
 今は、春から仕事頑張るんだろ?
 俺は、ななみが落ち着くまで待つから。
 これからも俺で良かったら一緒に頑張っていきたいって思ってるから」

こんな感じだったかな…。
 大ちゃんは私のことこんなに考えてくれてたんだね。こんなに先のことまで。なんでもお見通しなんだね。私は、大ちゃんと早く付き合いたい、一番になりたいってしか思ってなかったんだ。
『情けない…』
大ちゃんがこんなにも私を思いやってくれてたのに。自分が恥ずかしくて、大ちゃんの顔が見れない。
大ちゃん、ありがとう…。


「ななみ、ごめんな。ななみのこと、こんなに苦しめるなんて思わなくて、
 ただ自分と向き合って欲しかっただけなんだ。
 付き合えないから好きじゃないはイコールじゃない。
 好きだから、これから苦しいこと少しでも軽くなればと思って
 あんな言い方しちゃったんだ。
 前も言ったけど、俺はななみとの縁切りたくない。
 だから、連絡先だって交換した。
 実習が終わったからってそこで終わりにしたくない人だった。
 そりゃ、恋人同士がいいけど、
 付き合っているか、
 付き合っていないかじゃなくて、
 ななみとの関係は絶対に切りたくないから。
 それだけは覚えていて」

「大ちゃん……。ごめん。私、何も分かってなかった。
 大ちゃんの思いに気づけなかった。
 私はほんと子どもだね・・・。ごめんなさい」

「ほら、またすぐ泣く~」

そう言って彼は私を抱きしめた。私はしばらく彼の胸のなかに顔を伏せ、泣き続けた。彼は背中をさすりながら、落ち着かせてくれている。

「ななみ、ゆっくりでいいんだぞ。
 ゆっくり、ゆっくり。
 時間はまだまだあるんだから」

「うん・・・」

その日も私たちはMACOちゃんの曲を一緒のイヤホンで聴いた。

 ♪今日は一緒にいれるね 急がなくてもいいよ
  ゆっくりしよう 
  いままで 歩いた道のり全て
  昨日のことのよう 不思議ね

  このまま時が止まればいいのに
  いつもあたしが願ってること
  君が生まれた日 となりに居る今
  全て刻むよ

  愛してる あぁ生きてる
  君がいるそれだけで あたし生きれるの
  愛してる あぁ聴こえる
  2人の心臓の音と 時が重なる
  <愛してる/MACO>

「この曲いいな…」

「うん、新しいアルバムが出てからずっと聴いてた」

「そうなのか?
 俺、MACOの曲聴いていると、ななみのこと考えてる」

「私もだよ」

MACOちゃんの曲で私たちは繋がっているような気がした。

2018年2月末…
澪ちゃんが関東での面接を受ける日程が決まった。私たちは面接終わりに東京駅で合流し、1泊2日の卒業旅行をすることになった。『澪ちゃんの就職が決まりますように…』
 今日は、澪ちゃんと合流する前に、少しではあるがひろと会うことになった。ひろとの待ち合わせ場所に着き、どんな人なんだろうと楽しみに待つ。すると、一人の男性が手を挙げながら駆け寄ってくる。

「ななですか…?」

「そうだよ?ひろ?」

「あ~よかった。直弘です。
 改めましてよろしくお願いします」

「あぁ(笑) こちらこそよろしくお願いします!
 相変わらず、硬いね~(笑)」

「あ、ごめん!やっぱり緊張して…」

「いいよ、面白いから(笑) 
 あ!そうだ、これどうぞ♪」

「えっ、何これ?」

「前、御守りくれたでしょ?
 それで本番も頑張れたから、そのお礼!」

「いや~、そんなの良いのに…
 ななが試験頑張れて、よかった!」

「本当にありがとうね。
 ほらほら、早くあけてみて!」

「うん」

私が急かすと、ひろはすぐにプレゼントを開けた。

「えっ…めっちゃ可愛いネクタイ。
なな、センスいいな(笑)」

「でしょ、でしょ?ひろに似合うかなって!
仕事は作業服だけど、
たまに会議でスーツ着るって言ってたから」

「ありがとう、なな!
 大事な時にこのネクタイしたら、頑張れるよ…」

 ひろはニコッと笑った。緊張でガチガチだったひろがやっと笑ってくれた。少しは緊張解けたかな?その後、私たちはお喋りしながら、ドライブをした。
 都会を車で走るのは初めてで、大きな建物を口をおっきく開けて見上げる私を見て、ひろは爆笑していた。

「わぁ~都会でも海見れる場所あるんだね~」

「あるに決まってるだろう(笑)
 千葉県だって海に面している」

「そうだった!
 さっきまで建物ばかりなのに、
 急に海なんだもん(笑)
 でも、すぐ海沿いをドライブ出来ていいね!」

「だろ!海好きにはたまりませんよ!
 少し寒いけど、海沿い散歩するか?」

「うん!散歩したい!」

私たちは車を止め、海沿いを歩いた。

「なな、今日は遠くからありがとうね」

「いやいや、卒業旅行のついでだもん。
 こちらこそ、会ってくれてありがとう」

「うん…。あのさー」

「ん?」

「ちょっと目瞑ってー」

「なになに?急に怖いんだけど~」

「大丈夫だから(笑) ほら、早く!」

 私は言われるがままに目を瞑り、海風を顔に受けながら彼の言葉を待った。すると、首元に少しひろの手が当たる。何かと思い、すぐに目を開けると、私の首元にはキラキラ輝くネックレスがあった。

「えっ…」

「ネックレス。ななに似合うと思って」

「いやいや、こんなに高そうなもの貰えないよ。
 どうしたのひろ?」

「貰って欲しい。いつものお礼だから!
 なな、すごく似合ってる!」

「お礼なんていいのに。
 私だってひろに感謝することいっぱいで、お互い様でしょ?」

「そうだな。お互い様だな。
 なな、もう一つ話があるんだけど…」

「なに?」

ひろは急に立ち上がり、海に向かって叫んだ。

「僕は千葉ななみさんのことが好きです」

「えっ…」

ひろは恥ずかしそうに鼻を掻きながら、恐る恐る私の方に振り返る。

「すぐに答え欲しい訳じゃないから…。
 ちょっと考えてみて?」

一瞬、頭が真っ白になる。
ひろが私のこと好き?
びっくりして言葉も出てこない。
 でも、すぐに頭に浮かんだのは大ちゃんの顔だった。考えなくても私のなかで答えは出ていた。私にとってひろは大切な友達だ。私のためにこんなサプライズまで準備してくれたのに断るのは心苦しい…。でも、答えを先延ばしにして変に期待もさせたくない。

「ごめんなさい。私ね、好きな人がいるの。
 だから、本当にうれしいんだけど、
 このネックレスは受け取れないよ…」

「そっか……」

肩を落とし、俯くひろ。でもすぐに、いつものように話し始めた。

「そのネックレス、
 ななに似合っているからあげるよ。
 勿体ないしさ!」

「ひろ……」

「いいから!
 それより、ななに好きな人居たんだな?
 そりゃ、無理だよな!ごめん、ごめん」

「いやいや、ひろが謝ることじゃないよ」

「その人と付き合ってるの?」

「付き合ってたら、ひろに会いに来ないでしょ
 片想いだよ、片想い」

「あ~そうだよな。
 じゃあ、まだ僕が入る隙間があるってことか(笑)」

 ひろはそう言うと笑った。ひろの気持ちに全然気づいてなかった。ごめん、ひろ。何も知らないで、簡単に会うなんて言っちゃって。
 でも、好きって言われて素直に嬉しかったよ…ありがとう。私たちは車に戻り、ひろは何もなかったように私に話しかけてくれる。彼は私に気を遣わせないように、普通で居てくれる。それも彼の優しさなんだ。

『これからも友達で居ようね…』

私は小声で運転する彼にそうつぶやいた。