~告白~
「なな~!この間どうだったのよぉ?白状しなさい(笑)」
ニヤニヤしながら、私のところに駆け寄る澪ちゃん。
やっぱり来たかと思いながらデートのことを話した。
「いい感じじゃん!急に仕事入ったのは予想外だけど、めっちゃラブラブじゃん♪
それで、それで?そのあとは~」
「その後…?終電で帰ったよ?」
「えっ!?手繋いで終わり?まぁ初めてのデートだもんね!誠実、誠実。
付き合おうっては言われなかった?好きとか?」
「そんなこと言われるわけないじゃん!」
「じゃあ、ななから好きって伝えた?」
「もっと、言えるわけないじゃん!」
「はぁ~?好きって確かめないで、手を握られてたわけ?」
「…うん。確かにそういうことになるね」
「なんか怪しくなってきた…。遊ばれそうになってない?」
「そんな人じゃない!遊んでたら、もう手を出されてるでしょ!」
必死に言い訳をした。
確かに、冷静になってみれば“好き”って言われていない…。でも、手は握ってくれた。その先はしてないけど…。これって大事にされてるって思ってたけど、違うの?
だんだんと不安が募っていく。もう会えないのかな。確かに今日はまだラインの返信がない。ただ忙しいだけだよね?
「確かにそうか!
遊んでたらその日に全部やっちゃうか(笑)…なな不安?」
「…少し、不安になって来たかも」
「ん~。考えられるとしたら、ななが実習生だったからじゃない?」
「ん?どういうこと~」
「なな、一応、大樹さんの職場に実習に行ってたじゃん。
ななはもう実習先に行くことないからいいけど、
大樹さんはその施設で、
ななのこと知っている職員と働き続けてるってことでしょ?
もし、ななと大樹さんが付き合ってるって噂が職場に流れたら、
『実習生に手を出したの?』って
周りに言われちゃうかもしれないってことじゃない?」
「そうだね…」
考えないようにしてたけど、そういうことだよね。大樹さんの立場とか何も考えていなかった。もし私のこと好きでも言えない。付き合うなんてできないよね。自分の中でとても納得した。迷惑なのかな…。
「まぁ、そうだとしても、ななが好きならこれからも応援する。
前も言ったけど、好きになっちゃいけない人なんていない。
お互い好きだったらそれでいいし、世の中にだって、
実習生と付き合ったことある人たち沢山いると思うし。
付き合い方を2人で考えればいいってことだよ!」
「なるほど…。好きでいていいんだ」
「そうそう!好きっていつか伝えられたらいいよね!」
また、澪ちゃんに励まされた。もう少し頑張ってみよう。だって、もう後戻りできないよ。本当に好きな人を見つけたから。片想いだっていいよね。好きな人が居るだけで、なんか頑張れる。
それから、いつものようにラインをしたり、たまに電話をしたり、最初の頃のように毎日ではないけれど、私たちは連絡を取り合った。ラインの返信がなくても、きっとお仕事忙しいんだろうな、休日も友達とリフレッシュしているんだろうなって大樹さんが頑張っているんだから、私も、もっと頑張ろうって思ったの。
大学の勉強やバイトに打ち込む日々が続いた。
また会いたい気持ちはあったけれど、いつも遅くまで働いている大樹さんのことを考えると、休日はゆっくり休んで欲しい。会いたい気持ちをまた心に閉じ込めたまま、月日は流れていった。
「なな、久しぶり。元気だった?」
「久しぶりですね!元気ですよ!!大樹さんはやっぱり毎日忙しい?」
「そうだな…」
大樹さんとはなかなか時間が合わず、久しぶりの電話だった。
「仕事ばっかりなんですか?」
「ん~。基本仕事だな。でも、たまに仲間と遊んでるよ!」
ちゃんと気分転換できてたんだと心のなかで少しホッとしていた。久しぶりの長電話にやっぱり話は尽きることはない。久しぶりだから余計楽しくて本当に幸せな時間だったのに
…思いもよらない展開に私は言葉を失った。
「なな。相談なんだけど…」
「ん?どうしたんですか?」
「実はさ、俺お見合いさせられたんだよね…。」
「……!?」
お見合いって今言ったよね?結婚しちゃうのかな?
ってことは、やっぱり私のこと何とも思ってなかったってこと?
今まで連絡くれてたのは、
優しさ?
それとも暇つぶし?
ただ遊んでいただけ?
でも、そうだったとしたら、
MACOちゃんのライブに一緒に行こうって誘ってくれたのは?
車の中で手を握って離さなかったのは?
あれは何だったの?
頭の中で今まで大樹さんが言ってくれたことが私にしてくれた行動がグルグルと回り始めた。取り乱しそうになりながら、まずは大樹さんの話を聞こうと心を落ち着かせようとした。
「施設長から知り合いの娘さんとお見合いしないかって話もらって、
1回は断ったんだけど、会うだけでいいからって言われて
会うことにしたんだよ」
なんだ、1回は断ってくれたんだ…。
「それで、会ってみたらすごい美人で、上品な人だった~。
俺なんかにもったいないよな?」
言葉が見つからなかった…。美人で上品な人?ななに勝ち目ないじゃん。でも、なんで、なんで私にそんな話するの?嫉妬させたいの?それとも私のことなんて何とも思ってないよって遠回しに伝えようとしてるの?
『意味が分からない…』そんなことを考えていると、沸々とした感情が湧き上がってきた。もう我慢できない。どういうことなの?気づくと自然と涙が流れていた。
「なな?どうした?」
「うんうん。何もしてない。でも大樹さんの気持ち全然分からない。
どうしていいか分からない!」
私は少し興奮気味に彼に言葉をぶつけた。
「なな?まず落ち着け」
「落ち着ける訳ないじゃん。
なんで大樹さんは冷静でいられるの?大樹さんのバカ。
…あっ、ごめんなさい。今の忘れて下さい。
…私、今日変ですね(笑) 寝た方がいいかもです。
今日は電話切りますね!じゃあ!」
バカって言っちゃった。最低だ…。私は急いで電話を切ろうしたが、大樹さんが電話を切らせてくれるはずもなかった。
「なな!だから落ち着けって!どうしたんだよ、急に。
…何でもないってそうやっていつも誤魔化すな。ちゃんと聞くから」
急にでもないし、誤魔化してなんかない。大樹さんにはもうとっくに私の気持ちが伝わっていると思っていた。
「…だって、ひどいよ。私にそんなこと言うなんて…」
「そんなことって?」
大樹さんずるいよ…
絶対、知らない振りしてる。
絶対、私の気持ちに気づいてる。
「なんで、ずるいよ。私の気持ちに気づいているくせに」
「話が噛み合ってないぞ。ずるいってどういうことだ?」
「も~、私は大樹さんのことずっと前から好きだったの!
なのに、お見合いしたって普通いうかな?
大樹さん、私の気持ち気付いていて言ったでしょ?」
「えっ?」
あっ…、言ってしまった。もう、私ってなんで言っちゃうかな?恥ずかしい…。涙を拭いながら、ぐちゃぐちゃになる顔は火照っている。もう、電話を切りたい。もう連絡すらしてもらえなくなる。言うんじゃなかった…
「…。実は俺もななが好きだ」
大樹さんが沈黙を破り、口を開く。
「うそ…」
「好きだよ。嘘つくか!恥ずかしいわ。
なな、俺に興味ないと思ってた」
「そんなことない!好きだもん」
あっ、また言ってしまった…。
「こんなことあるんだな…。やばっ。めっちゃうれしいんだけど」
そう言って少し照れたように2人で笑い合った。どうやら、大樹さんは私がいつも話を聞いてばかりで、自分の話をしないから興味がないって思っていたらしい。2人ともこんな展開になるなんて思ってもいなかった。
その後は、『あの話をした時は~』とか『ライブの時は~』とかお互いにどう思っていたのかを聞き合った。大樹さんはそう思っていたんだね。お互いの気持ちを確かめ合い、また、少しかもしれないけど大樹さんに近づくことができた気がした。
大ちゃん、あの時は沢山笑っちゃったね。すごく幸せだった。片想いだと思っていた恋が両思いだったなんて…。自分だけで色々決めつけちゃってたんだよね。相手に聞かないと分からないことって沢山ある。あの時、恥ずかしかったけどちゃんと好きって言えてよかったよ。ありがとう。
この日からもっともっと大ちゃんのことを知って、好きになって、もっともっと幸せを感じることができるんだろうなって私はそんなことしか考えてなかったの。これか先、苦しい事なんてないんだろうなって、単純な私はそう思ってたよ…
2016年11月末…
大樹さんとのデート。久しぶりに大樹さんに会える。すごく楽しみ。しかもお泊りだよ~。いきなりって思ったけど、正直すごくうれしい。今日は何時に帰ろうって時間を気にしなくてもいいんだ。大樹さんは今日、大学時代の友人の結婚式の披露宴で札幌に行く用事があるので、札幌で17時に待ち合わせ。『もうすぐ着くよ』というラインにだんだんと胸の鼓動が高まっていく。
「なな~」
振り返ると大ちゃんが満面の笑みで手を振っている。スーツとか不意打ち過ぎる…。『かっこよすぎでしょ』と心のなかで何度も呟く。
「大樹さん!久しぶり!」
「久しぶりだな~。会いたかった」
そう言って、私に軽くハグをする。えっ、待ってよ。また不意打ち?もう心臓バクバクだよ。今日わたし持つかな。死んじゃいそう…
「悪いな~。遠いところ出てきてもらって、
俺、すぐ披露宴行かなきゃだから
札幌プラプラして、疲れたらホテル先行っていいからな!
21時には切り上げてくるから!」
「分かったよ。気を付けてね」
「はいよ~」
大樹さんは今日の午前中までまた、お仕事だったらしい。本当に多忙な人だ…。私は、少し札幌駅のお店を覗き、食事を済ませて、札幌の夜の街を久しぶりに歩いた。雪がちらついていて、肌を刺すような痛みを感じるほど冷たい風が吹いている。こんなに寒いにも関わらず、飲み屋街は人で溢れている。私が通っている大学は田舎にあり、20時には人はもうほとんど歩いていないから、少し驚きながらホテルに向かった。
『あと1時間くらいで帰ってきてくれるかな?』外寒かったから先に、シャワー浴びてくつろいでいようかな。そう思い、シャワーを済ませ、テレビを見ていた。
やはり遅い、遅すぎる。もう眠たいよう…。いつもこのパターン。(笑)もう0時を回りそうになっていた。私も今週は大学の課題に追われ、あまり寝ていない。瞼が閉じそう。大樹さんを待っていたい気持ちはあったが、先に休もうと思った時、ノック音が聞こえた。ドアを開けると、見るからに酔っぱらっている大樹さんが立っていた。
「あ~寒い。なな、ごめんな~。
2次会にも連れていかれて、もう参った~。
眠い。もう疲れたぁ~」
言いたいことを言い、ベッドへと向かう(笑) ヨタヨタと壁にぶつかりそうになりながら歩く。
「あ~、ちょっと飲み物こぼすよ!机において~」
ガチャン…
「ほら~、今言ったじゃん!」
床一面に飲み物はぶちまけられた。大樹さんもスーツのまま床に転んでいる。
「いてぇ~、わぁ~やべ~」
「早く、立って!まず着替えて!」
これだから酔っぱらいは…。眠気も吹っ飛び、床をタオルで拭いてはしぼりを繰り返した。そんななか、私の背中に大ちゃんの体重がかかる。
「えっ!?ちょっと重たい!」
「ななは、あったけ~な。気持ちいいわ」
「もう、今、床拭いてるのに。離してよ~」
「離さない~」
そう言って、大樹さんは私から離れず、そのまま床を拭き続けた。
「終わったぁ~。大樹さん終わったよ?…ん?寝てるの?」
「ねむた~い」
「子どもじゃないんだから、ベッド行って寝なよ」
「ん~」
酔っぱらった大樹さんは本当に子どもみたいで、そのままベッドの中心に丸くなり目を瞑っている。可愛い寝顔だ。私は、部屋の明かりを暗くし、隣のベッドで寝ることした。
「大樹さん、おやすみ…」
気持ちよさそうに眠っている大樹さんに声を掛けた。その瞬間、私の腕を掴み、ベッドの中に引き寄せた…。声も出すことも出来ず、気づくと私は大樹さんの腕の中に居る。すごく安心する…大樹さんの匂いがする。ドキドキしているはずなのに、なんでこんなに安心するんだろう。近くで見るとやっぱり大樹さんの顔は整っている。かっこいい…こんなに大樹さんを近くで感じたことはない。幸せをいつもより何倍、何十倍も感じていた。
「キスしたい」
えっ。待って待って。私何言っているの?
私がこんなこと言うなんて、自分でも驚いている。恥ずかしさで大樹さんから目をそらす。そんな私をお構いなしに、大樹さんはなんも言わず、唇を重ねた。
この時が私たちのファーストキス。嬉しさと驚きと恥ずかしさ、いろんな感情が混ざり合って甘酸っぱい恋の味ってこれのことなのかな?そう思いながら何度も何度も唇を重ねる。
その夜、私たちは初めて一つになった。
私はこの世界中で一番幸せだよ。
もうこれ以上の幸せはいらない。
「なな、口あけてガーガー言って寝てたぞ。(笑)」
「やばい。恥ずかしい。大樹さん寝なかったの?」
「なんか、目が覚めたんだよな。てか、もう“さん”付けるのやめねぇか?」
「えっ。なんて呼んだらいいの?」
「それはななが考えて?てか、俺はななみって呼びたい」
本当にいつも不意打ちだ。“ななみ”。またやられたと思いながら、1人だけ心臓が高まっているのが分かった…。
「ななみって呼ぶのは全然いいよ?
ん~大樹さんのことはやっぱり大ちゃんとかかな?」
平然を装って答えてみた。
「大ちゃんか…よしオッケ。
なんか照れるな。
俺はななみって呼ぶな」
大ちゃんは少し照れたように笑っていた。大ちゃんも嬉しいのかな?そんなことを思いながら私たちは再び眠りについた。
この日から大ちゃん、ななみとお互い呼び合う日々がスタートした。大ちゃん出会ってくれて、私なんかのこと好きになってくれてありがとう。
「なな~!この間どうだったのよぉ?白状しなさい(笑)」
ニヤニヤしながら、私のところに駆け寄る澪ちゃん。
やっぱり来たかと思いながらデートのことを話した。
「いい感じじゃん!急に仕事入ったのは予想外だけど、めっちゃラブラブじゃん♪
それで、それで?そのあとは~」
「その後…?終電で帰ったよ?」
「えっ!?手繋いで終わり?まぁ初めてのデートだもんね!誠実、誠実。
付き合おうっては言われなかった?好きとか?」
「そんなこと言われるわけないじゃん!」
「じゃあ、ななから好きって伝えた?」
「もっと、言えるわけないじゃん!」
「はぁ~?好きって確かめないで、手を握られてたわけ?」
「…うん。確かにそういうことになるね」
「なんか怪しくなってきた…。遊ばれそうになってない?」
「そんな人じゃない!遊んでたら、もう手を出されてるでしょ!」
必死に言い訳をした。
確かに、冷静になってみれば“好き”って言われていない…。でも、手は握ってくれた。その先はしてないけど…。これって大事にされてるって思ってたけど、違うの?
だんだんと不安が募っていく。もう会えないのかな。確かに今日はまだラインの返信がない。ただ忙しいだけだよね?
「確かにそうか!
遊んでたらその日に全部やっちゃうか(笑)…なな不安?」
「…少し、不安になって来たかも」
「ん~。考えられるとしたら、ななが実習生だったからじゃない?」
「ん?どういうこと~」
「なな、一応、大樹さんの職場に実習に行ってたじゃん。
ななはもう実習先に行くことないからいいけど、
大樹さんはその施設で、
ななのこと知っている職員と働き続けてるってことでしょ?
もし、ななと大樹さんが付き合ってるって噂が職場に流れたら、
『実習生に手を出したの?』って
周りに言われちゃうかもしれないってことじゃない?」
「そうだね…」
考えないようにしてたけど、そういうことだよね。大樹さんの立場とか何も考えていなかった。もし私のこと好きでも言えない。付き合うなんてできないよね。自分の中でとても納得した。迷惑なのかな…。
「まぁ、そうだとしても、ななが好きならこれからも応援する。
前も言ったけど、好きになっちゃいけない人なんていない。
お互い好きだったらそれでいいし、世の中にだって、
実習生と付き合ったことある人たち沢山いると思うし。
付き合い方を2人で考えればいいってことだよ!」
「なるほど…。好きでいていいんだ」
「そうそう!好きっていつか伝えられたらいいよね!」
また、澪ちゃんに励まされた。もう少し頑張ってみよう。だって、もう後戻りできないよ。本当に好きな人を見つけたから。片想いだっていいよね。好きな人が居るだけで、なんか頑張れる。
それから、いつものようにラインをしたり、たまに電話をしたり、最初の頃のように毎日ではないけれど、私たちは連絡を取り合った。ラインの返信がなくても、きっとお仕事忙しいんだろうな、休日も友達とリフレッシュしているんだろうなって大樹さんが頑張っているんだから、私も、もっと頑張ろうって思ったの。
大学の勉強やバイトに打ち込む日々が続いた。
また会いたい気持ちはあったけれど、いつも遅くまで働いている大樹さんのことを考えると、休日はゆっくり休んで欲しい。会いたい気持ちをまた心に閉じ込めたまま、月日は流れていった。
「なな、久しぶり。元気だった?」
「久しぶりですね!元気ですよ!!大樹さんはやっぱり毎日忙しい?」
「そうだな…」
大樹さんとはなかなか時間が合わず、久しぶりの電話だった。
「仕事ばっかりなんですか?」
「ん~。基本仕事だな。でも、たまに仲間と遊んでるよ!」
ちゃんと気分転換できてたんだと心のなかで少しホッとしていた。久しぶりの長電話にやっぱり話は尽きることはない。久しぶりだから余計楽しくて本当に幸せな時間だったのに
…思いもよらない展開に私は言葉を失った。
「なな。相談なんだけど…」
「ん?どうしたんですか?」
「実はさ、俺お見合いさせられたんだよね…。」
「……!?」
お見合いって今言ったよね?結婚しちゃうのかな?
ってことは、やっぱり私のこと何とも思ってなかったってこと?
今まで連絡くれてたのは、
優しさ?
それとも暇つぶし?
ただ遊んでいただけ?
でも、そうだったとしたら、
MACOちゃんのライブに一緒に行こうって誘ってくれたのは?
車の中で手を握って離さなかったのは?
あれは何だったの?
頭の中で今まで大樹さんが言ってくれたことが私にしてくれた行動がグルグルと回り始めた。取り乱しそうになりながら、まずは大樹さんの話を聞こうと心を落ち着かせようとした。
「施設長から知り合いの娘さんとお見合いしないかって話もらって、
1回は断ったんだけど、会うだけでいいからって言われて
会うことにしたんだよ」
なんだ、1回は断ってくれたんだ…。
「それで、会ってみたらすごい美人で、上品な人だった~。
俺なんかにもったいないよな?」
言葉が見つからなかった…。美人で上品な人?ななに勝ち目ないじゃん。でも、なんで、なんで私にそんな話するの?嫉妬させたいの?それとも私のことなんて何とも思ってないよって遠回しに伝えようとしてるの?
『意味が分からない…』そんなことを考えていると、沸々とした感情が湧き上がってきた。もう我慢できない。どういうことなの?気づくと自然と涙が流れていた。
「なな?どうした?」
「うんうん。何もしてない。でも大樹さんの気持ち全然分からない。
どうしていいか分からない!」
私は少し興奮気味に彼に言葉をぶつけた。
「なな?まず落ち着け」
「落ち着ける訳ないじゃん。
なんで大樹さんは冷静でいられるの?大樹さんのバカ。
…あっ、ごめんなさい。今の忘れて下さい。
…私、今日変ですね(笑) 寝た方がいいかもです。
今日は電話切りますね!じゃあ!」
バカって言っちゃった。最低だ…。私は急いで電話を切ろうしたが、大樹さんが電話を切らせてくれるはずもなかった。
「なな!だから落ち着けって!どうしたんだよ、急に。
…何でもないってそうやっていつも誤魔化すな。ちゃんと聞くから」
急にでもないし、誤魔化してなんかない。大樹さんにはもうとっくに私の気持ちが伝わっていると思っていた。
「…だって、ひどいよ。私にそんなこと言うなんて…」
「そんなことって?」
大樹さんずるいよ…
絶対、知らない振りしてる。
絶対、私の気持ちに気づいてる。
「なんで、ずるいよ。私の気持ちに気づいているくせに」
「話が噛み合ってないぞ。ずるいってどういうことだ?」
「も~、私は大樹さんのことずっと前から好きだったの!
なのに、お見合いしたって普通いうかな?
大樹さん、私の気持ち気付いていて言ったでしょ?」
「えっ?」
あっ…、言ってしまった。もう、私ってなんで言っちゃうかな?恥ずかしい…。涙を拭いながら、ぐちゃぐちゃになる顔は火照っている。もう、電話を切りたい。もう連絡すらしてもらえなくなる。言うんじゃなかった…
「…。実は俺もななが好きだ」
大樹さんが沈黙を破り、口を開く。
「うそ…」
「好きだよ。嘘つくか!恥ずかしいわ。
なな、俺に興味ないと思ってた」
「そんなことない!好きだもん」
あっ、また言ってしまった…。
「こんなことあるんだな…。やばっ。めっちゃうれしいんだけど」
そう言って少し照れたように2人で笑い合った。どうやら、大樹さんは私がいつも話を聞いてばかりで、自分の話をしないから興味がないって思っていたらしい。2人ともこんな展開になるなんて思ってもいなかった。
その後は、『あの話をした時は~』とか『ライブの時は~』とかお互いにどう思っていたのかを聞き合った。大樹さんはそう思っていたんだね。お互いの気持ちを確かめ合い、また、少しかもしれないけど大樹さんに近づくことができた気がした。
大ちゃん、あの時は沢山笑っちゃったね。すごく幸せだった。片想いだと思っていた恋が両思いだったなんて…。自分だけで色々決めつけちゃってたんだよね。相手に聞かないと分からないことって沢山ある。あの時、恥ずかしかったけどちゃんと好きって言えてよかったよ。ありがとう。
この日からもっともっと大ちゃんのことを知って、好きになって、もっともっと幸せを感じることができるんだろうなって私はそんなことしか考えてなかったの。これか先、苦しい事なんてないんだろうなって、単純な私はそう思ってたよ…
2016年11月末…
大樹さんとのデート。久しぶりに大樹さんに会える。すごく楽しみ。しかもお泊りだよ~。いきなりって思ったけど、正直すごくうれしい。今日は何時に帰ろうって時間を気にしなくてもいいんだ。大樹さんは今日、大学時代の友人の結婚式の披露宴で札幌に行く用事があるので、札幌で17時に待ち合わせ。『もうすぐ着くよ』というラインにだんだんと胸の鼓動が高まっていく。
「なな~」
振り返ると大ちゃんが満面の笑みで手を振っている。スーツとか不意打ち過ぎる…。『かっこよすぎでしょ』と心のなかで何度も呟く。
「大樹さん!久しぶり!」
「久しぶりだな~。会いたかった」
そう言って、私に軽くハグをする。えっ、待ってよ。また不意打ち?もう心臓バクバクだよ。今日わたし持つかな。死んじゃいそう…
「悪いな~。遠いところ出てきてもらって、
俺、すぐ披露宴行かなきゃだから
札幌プラプラして、疲れたらホテル先行っていいからな!
21時には切り上げてくるから!」
「分かったよ。気を付けてね」
「はいよ~」
大樹さんは今日の午前中までまた、お仕事だったらしい。本当に多忙な人だ…。私は、少し札幌駅のお店を覗き、食事を済ませて、札幌の夜の街を久しぶりに歩いた。雪がちらついていて、肌を刺すような痛みを感じるほど冷たい風が吹いている。こんなに寒いにも関わらず、飲み屋街は人で溢れている。私が通っている大学は田舎にあり、20時には人はもうほとんど歩いていないから、少し驚きながらホテルに向かった。
『あと1時間くらいで帰ってきてくれるかな?』外寒かったから先に、シャワー浴びてくつろいでいようかな。そう思い、シャワーを済ませ、テレビを見ていた。
やはり遅い、遅すぎる。もう眠たいよう…。いつもこのパターン。(笑)もう0時を回りそうになっていた。私も今週は大学の課題に追われ、あまり寝ていない。瞼が閉じそう。大樹さんを待っていたい気持ちはあったが、先に休もうと思った時、ノック音が聞こえた。ドアを開けると、見るからに酔っぱらっている大樹さんが立っていた。
「あ~寒い。なな、ごめんな~。
2次会にも連れていかれて、もう参った~。
眠い。もう疲れたぁ~」
言いたいことを言い、ベッドへと向かう(笑) ヨタヨタと壁にぶつかりそうになりながら歩く。
「あ~、ちょっと飲み物こぼすよ!机において~」
ガチャン…
「ほら~、今言ったじゃん!」
床一面に飲み物はぶちまけられた。大樹さんもスーツのまま床に転んでいる。
「いてぇ~、わぁ~やべ~」
「早く、立って!まず着替えて!」
これだから酔っぱらいは…。眠気も吹っ飛び、床をタオルで拭いてはしぼりを繰り返した。そんななか、私の背中に大ちゃんの体重がかかる。
「えっ!?ちょっと重たい!」
「ななは、あったけ~な。気持ちいいわ」
「もう、今、床拭いてるのに。離してよ~」
「離さない~」
そう言って、大樹さんは私から離れず、そのまま床を拭き続けた。
「終わったぁ~。大樹さん終わったよ?…ん?寝てるの?」
「ねむた~い」
「子どもじゃないんだから、ベッド行って寝なよ」
「ん~」
酔っぱらった大樹さんは本当に子どもみたいで、そのままベッドの中心に丸くなり目を瞑っている。可愛い寝顔だ。私は、部屋の明かりを暗くし、隣のベッドで寝ることした。
「大樹さん、おやすみ…」
気持ちよさそうに眠っている大樹さんに声を掛けた。その瞬間、私の腕を掴み、ベッドの中に引き寄せた…。声も出すことも出来ず、気づくと私は大樹さんの腕の中に居る。すごく安心する…大樹さんの匂いがする。ドキドキしているはずなのに、なんでこんなに安心するんだろう。近くで見るとやっぱり大樹さんの顔は整っている。かっこいい…こんなに大樹さんを近くで感じたことはない。幸せをいつもより何倍、何十倍も感じていた。
「キスしたい」
えっ。待って待って。私何言っているの?
私がこんなこと言うなんて、自分でも驚いている。恥ずかしさで大樹さんから目をそらす。そんな私をお構いなしに、大樹さんはなんも言わず、唇を重ねた。
この時が私たちのファーストキス。嬉しさと驚きと恥ずかしさ、いろんな感情が混ざり合って甘酸っぱい恋の味ってこれのことなのかな?そう思いながら何度も何度も唇を重ねる。
その夜、私たちは初めて一つになった。
私はこの世界中で一番幸せだよ。
もうこれ以上の幸せはいらない。
「なな、口あけてガーガー言って寝てたぞ。(笑)」
「やばい。恥ずかしい。大樹さん寝なかったの?」
「なんか、目が覚めたんだよな。てか、もう“さん”付けるのやめねぇか?」
「えっ。なんて呼んだらいいの?」
「それはななが考えて?てか、俺はななみって呼びたい」
本当にいつも不意打ちだ。“ななみ”。またやられたと思いながら、1人だけ心臓が高まっているのが分かった…。
「ななみって呼ぶのは全然いいよ?
ん~大樹さんのことはやっぱり大ちゃんとかかな?」
平然を装って答えてみた。
「大ちゃんか…よしオッケ。
なんか照れるな。
俺はななみって呼ぶな」
大ちゃんは少し照れたように笑っていた。大ちゃんも嬉しいのかな?そんなことを思いながら私たちは再び眠りについた。
この日から大ちゃん、ななみとお互い呼び合う日々がスタートした。大ちゃん出会ってくれて、私なんかのこと好きになってくれてありがとう。