~電話~
“電話しない?暇な時でいいから”
思わぬLINEに少し驚いた。でも、正直、私も電話したいと思っていた。私はすぐに“良いですよ!”と返信し、次の水曜日に電話をする約束をした。初めての電話は緊張する。
一方で、『久しぶりに佐々木さんの声を聞けるな〜』とうれしい気持ちもあった。
水曜日、勇気を出して電話をかけてみた。
「もしもーし?」
「もしもし、千葉君?久しぶり~」
「はい!お久しぶりです」
「電話してくれてありがとね。
今日は久しぶりに丸一日休みだから、今まで寝てた(笑)」
「えっ!今15時ですよ。
そんなに寝てたんですか?」
「それだけ、疲れてたんだな~。
最近、仕事ばっかで寝る時間なかったからな」
「いやいや、そうなら
今日はゆっくり休まないとですよ。
電話大丈夫なんですか?」
「おぉ、大丈夫。てか、電話したいし!」
「千葉君となんかやりたいこと沢山あるな。
折角の縁を大事にしないとな」
大ちゃんはいつも『縁は大切にしないと!』って口を酸っぱくして言っていたよね。その時の私には本当の理由は分からなかったけど、私も大ちゃんとは連絡を取り続けていたいなって単純にそう思っていた。これから、お互いのこと沢山知って、友達みたいになれるのかな。それともいい先輩って感じなのかな。いつまでもこの関係が続くと思い込んでいた。
「千葉君~。また会いたいな」
「そうですね!また4人でご飯も行きたいし、遊びたいです」
「え~。2人で会わないの?(笑)」
「逆にいいんですか?」
「当たり前だろう。俺らもう仲間だし、友達なんだから!
千葉君は俺と会ったらしたいこととかないのか?」
「そう言ってくれて、めっちゃ嬉しいんですけど♪
したいことですか…?
ん~、あっ、私、佐々木さんとキャッチボールしたいです!」
「おぉいいな。そういえば実習中も話していたな。
千葉君何かにメモって!」
「あ、はい」
「俺はな〜
千葉君の手料理が食べたい」
「料理ですか?佐々木さんは何が好きなんですか?」
「千葉君に作って欲しいのは
キーマカレー!!」
「え!?私キーマカレー得意料理ですよ!」
「ほんとかー?すごいな、キーマカレー作れるなんて!」
「任せてくださいな♪」
こんな感じで佐々木さんに言われるがままに2人のやりたいことをメモしていった。『リストにして、一つひとつ実現していかないか?』私は佐々木さんの提案にびっくりしながらも、お気に入りのメモ帳に“佐々木さんとすることリスト”として書き出していった。
佐々木さんと一緒にすることリスト^ ^
1.キャッチボールをする
2.手料理を作る(キーマカレー)
3.ドライブに行く
4.写真を一緒に撮る
5.洋服を一緒に買いに行く
2人はお互いに一緒にしたいことを言いあった。佐々木さんが冗談で、『千葉君と一緒にお風呂に入る!』って言った時、『ダメです』って速攻断ったけど、実は内緒ですることリストに書いたんだよ。
6.2人で一緒にお風呂に入る
恥ずかしいけど、すごくうれしかった。『一緒にお風呂入るってもうカップルじゃん…』そう思いながら彼との会話を楽しんでいた。
緊張はすぐにほぐれ、時間を忘れて話し込む。気が付けばもう3時間も話していた。
「すまん、これから職場の仲間と飲み会なんだ。
また電話していい?」
「そうなんですね。
電話大丈夫ですよ!
・・・では、また〜」
そう言って、電話を切ろうとした瞬間・・・
「なな!」
「えっ!?」
「ななって呼んでみたかったんだ」
「いきなりでびっくりしましたよ」
「俺のことも大樹って呼んでみて?」
「いやいや、年上だし、
そんな風に呼べるわけないですよ」
「え~、でも、佐々木君と苗字一緒だし、
正直、どっちに話してるか
訳分かんなくなる時あったし~。
ねぇ呼んでみてよ」
「無理ですよ〜
じゃあ、せめて“大樹さん”とか??」
「もう一回!」
「えっ…大樹さん…」
「うん。今日は良しとしよう(笑)」
そう言って大樹さんはニヤニヤと笑いながら、電話を切った。『ほんとに大樹さんは調子がいいんだから…』
何もかも突然で、強引で、そんな大樹さんに私はドキドキして動揺を隠すのに必死になっていたことに気づいた。
この日から私は大ちゃんのこともしかしたら好きなんじゃないかなって思ったの。
でも、実習先の人だからって、好きになっちゃいけないって、大ちゃんは私のことからかって遊んでるだけだって自分に言い聞かせてきたの。
突然なり始める着信音にびっくりして、電話に出るか戸惑って、でも、大ちゃんの声が少しでも聴きたくて葛藤の連続だった。
『大ちゃんのこともっともっと知りたい』
正直、こんな感じだったかな
その後も何度も電話をし合った。ある日、いつものように大樹さんと電話をしていた。でもその日は何故だろう。いつもより深い話になっていった。
「俺さ~、小学生から野球やってたんだ。
その時の1番の親友が白血病になったんだけど、
俺、小さくて病気のこととか全く分からなくて、
気づいてやれなかったんだ。
あいつ、『大樹には言うな』って周りに言っていたみたいで、
最期にも会えなかった。
あいつが死んだって聞いて、ショックだった。
塞ぎ込んでいたら俺の母親が
あいつからの手紙とあいつがいつも被っていた帽子を渡してきたんだよな。
手紙には、俺に言ったら本当に心配して塞ぎ込むと思ったこと、
俺にはいつものように元気に笑っていて欲しかったこと、
自分の分もこれから生きて欲しいことが書いてあったんだ。
その時さ、命の尊さ知って、縁の大切さに知った。
あいつの分も頑張んなきゃだし、周りにも気を遣ったり、
優しくしたりそれが当たり前になるようにしてきたんだ。
だから、福祉の道を選んだのかもな…」
大樹さんは今までにないくらい、真剣に、少し寂しそうに話していた。大樹さんの原点はその人との関係にあったのかなと一人、納得していた。
「あ~。ごめん。ごめん。なんかしんみりしたな。悪い。
なんでななにこんなこと話したんだろうな」
大樹さんはそう言って、今度は照れ笑いをしていた。あの電話がなかったら、大ちゃんがなんでそんなに縁を大切にしていたのか本当の理由を知ることはなかったのかもしれない。電話だったけれど、大ちゃんが悲しい顔していたの分かったんだ。それだけその人が大ちゃんにとって大切な存在で、今でもずっと忘れずに頑張っているんだなって。
私は、大ちゃんの大事な話を聞くことが出来て、少しかもしれないけど大ちゃんに心を開いてもらえたような気がして少し嬉しかったんだ。電話をし始めて大ちゃんのいろんなことを知ることが出来た気がする。表情は見えないけれど、笑い声、悲しい声、嬉しそうな声、真剣な声が分かって、すぐ側で話しているような感覚になって、より大ちゃんを近くに感じれたんだ。
大ちゃんもそう思ってくれているかな?
1週間後…
♪ブーブーブーブー
こんな時間に誰?
スマホを手に取り、眠たい目をこすりながら眩しい画面をみると
やっぱり大樹さんからだった。
夜中の1時に電話をしてくるのは一人しかいない。
「もしも~し」
「起きてた?夜中にごめん」
「寝そうだったけど、起きてましたよ。
大樹さんは今何してたんですか?」
「寝そうなところ起こしてごめんな。
俺は家で持ち帰った仕事してた」
「大丈夫ですよ。気にしないでください。
今日もまだ仕事してたんですね」
「ありがとう。おぉ、仕事だよ…。
明日の朝までにやんなきゃなんだけど、
最近寝てなくてさすがに寝そう~」
「最近もまた、寝る時間ないんですね…」
「だから、電話しながら仕事しようと思って、
付き合ってくれる?」
「いいですよ!
途中寝ちゃったらごめんなさいですけど」
「大丈夫、俺が寝かせないから(笑)」
「なんでですか~」
「いいから、いいから(笑)」
大樹さんは本当にお調子者で、自然と頬が緩む。この感じが私にとってはすごく心地よかった。電話の向こうからはたまに眠すぎて机にコツンと頭をぶつける音が聞こえ、その度にハッと声を上げて起き上がる大樹さんが面白くて、私は電話を繋いだまま横になっていた。まるで本当に大樹さんの横にいるかのように私は静かに彼の仕事を見守っていた。
「あーもう限界。。
ねむてぇ。なな音楽流していい?
こんまんまじゃ寝てしまう」
「だいぶ眠そうですもんね。ななは大丈夫です!
大樹さんの好きな曲教えてくださいな!」
「ありがとう。おう、もちろんいいぞ」
そう言いながら彼は鼻歌を伝いながら、なんだか楽しそうに曲をかけ始める。
「これ、最近好きな曲♪」
そう言いながらかけた曲は、どこかで聞いたことがある。イントロの部分でそう思っていた。そして、サビに入って私はハッとした。
♪見えない愛情をが 優しく包むよ
こんなにあたし こんなに強く
支えられているから
言葉じゃ表せない 想いを歌うよ
あたしの頬を流れる涙は
あなたに伝えたかった 「ありがとう」
<うれし涙/MACO>
「この曲、うれし涙?」
「そうそう。うれし涙知ってんのか?」
「知ってるも何も、私この曲大好きです!」
「へぇ~こんな偶然もあるんだな。
俺も好きな曲だ。
ななはMACOのこと知ってるの?」
「最近、うれし涙知って、聞くようになったかも!
でも、全然まだ知らないですね…」
「なんだ~(笑)
それなら俺がMACOの曲教えてやるよ」
そう言って大樹さんは続けて、MACOの曲を流し始めた。
「いい曲ばっかですね。これから沢山聞きたい。」
「そうしてくれ!
そうだ!今度ちょうどMACOのライブあるんだけど、行かない?」
「えっ!?行きたい!行きたい!
でも、ちょっと待って、
それって誰かと
行く予定なんじゃないんですか?」
「あ、そうだった~。
職場の人誘ったんだった…。
ななと行きたかったのに。ごめんな」
「いえいえ、誘ってくれて嬉しかったです」
「ごめん、
でも本当にななと行きたかった…」
大樹さんは何気なく言ったことだろうけど、私は少しドキッとし、胸の鼓動が速くなったのを感じる。簡単にそんなこと言わないでよ。私ばっかりが意識してバカみたい。
心を落ち着かせないと…
自分の溢れだしそうな感情を抑えながら、会話を続けた。外はもう少し明るい。ウトウトとしながら話をしていたらいつの間にか眠ってしまっていた。電話はいつの間にか切れてしまっていて、大樹さん、寝かせないって言ったのに
起こさなかったんだ。少し残念な気持ちがあったけれど、起こさないでくれた大樹さんの優しさにまた、キュッと心が締め付けられた。
『幸せだな…』
大樹さんに惹かれている自分の気持ちに蓋を閉じながら、大学に行く準備をする。
叶うはずもないこの気持ちをどうすることもできず誤魔化すので精一杯な私。『大樹さんは私のことどう思ってるんだろう』そんなことを毎日考えるようになっていた。
“電話しない?暇な時でいいから”
思わぬLINEに少し驚いた。でも、正直、私も電話したいと思っていた。私はすぐに“良いですよ!”と返信し、次の水曜日に電話をする約束をした。初めての電話は緊張する。
一方で、『久しぶりに佐々木さんの声を聞けるな〜』とうれしい気持ちもあった。
水曜日、勇気を出して電話をかけてみた。
「もしもーし?」
「もしもし、千葉君?久しぶり~」
「はい!お久しぶりです」
「電話してくれてありがとね。
今日は久しぶりに丸一日休みだから、今まで寝てた(笑)」
「えっ!今15時ですよ。
そんなに寝てたんですか?」
「それだけ、疲れてたんだな~。
最近、仕事ばっかで寝る時間なかったからな」
「いやいや、そうなら
今日はゆっくり休まないとですよ。
電話大丈夫なんですか?」
「おぉ、大丈夫。てか、電話したいし!」
「千葉君となんかやりたいこと沢山あるな。
折角の縁を大事にしないとな」
大ちゃんはいつも『縁は大切にしないと!』って口を酸っぱくして言っていたよね。その時の私には本当の理由は分からなかったけど、私も大ちゃんとは連絡を取り続けていたいなって単純にそう思っていた。これから、お互いのこと沢山知って、友達みたいになれるのかな。それともいい先輩って感じなのかな。いつまでもこの関係が続くと思い込んでいた。
「千葉君~。また会いたいな」
「そうですね!また4人でご飯も行きたいし、遊びたいです」
「え~。2人で会わないの?(笑)」
「逆にいいんですか?」
「当たり前だろう。俺らもう仲間だし、友達なんだから!
千葉君は俺と会ったらしたいこととかないのか?」
「そう言ってくれて、めっちゃ嬉しいんですけど♪
したいことですか…?
ん~、あっ、私、佐々木さんとキャッチボールしたいです!」
「おぉいいな。そういえば実習中も話していたな。
千葉君何かにメモって!」
「あ、はい」
「俺はな〜
千葉君の手料理が食べたい」
「料理ですか?佐々木さんは何が好きなんですか?」
「千葉君に作って欲しいのは
キーマカレー!!」
「え!?私キーマカレー得意料理ですよ!」
「ほんとかー?すごいな、キーマカレー作れるなんて!」
「任せてくださいな♪」
こんな感じで佐々木さんに言われるがままに2人のやりたいことをメモしていった。『リストにして、一つひとつ実現していかないか?』私は佐々木さんの提案にびっくりしながらも、お気に入りのメモ帳に“佐々木さんとすることリスト”として書き出していった。
佐々木さんと一緒にすることリスト^ ^
1.キャッチボールをする
2.手料理を作る(キーマカレー)
3.ドライブに行く
4.写真を一緒に撮る
5.洋服を一緒に買いに行く
2人はお互いに一緒にしたいことを言いあった。佐々木さんが冗談で、『千葉君と一緒にお風呂に入る!』って言った時、『ダメです』って速攻断ったけど、実は内緒ですることリストに書いたんだよ。
6.2人で一緒にお風呂に入る
恥ずかしいけど、すごくうれしかった。『一緒にお風呂入るってもうカップルじゃん…』そう思いながら彼との会話を楽しんでいた。
緊張はすぐにほぐれ、時間を忘れて話し込む。気が付けばもう3時間も話していた。
「すまん、これから職場の仲間と飲み会なんだ。
また電話していい?」
「そうなんですね。
電話大丈夫ですよ!
・・・では、また〜」
そう言って、電話を切ろうとした瞬間・・・
「なな!」
「えっ!?」
「ななって呼んでみたかったんだ」
「いきなりでびっくりしましたよ」
「俺のことも大樹って呼んでみて?」
「いやいや、年上だし、
そんな風に呼べるわけないですよ」
「え~、でも、佐々木君と苗字一緒だし、
正直、どっちに話してるか
訳分かんなくなる時あったし~。
ねぇ呼んでみてよ」
「無理ですよ〜
じゃあ、せめて“大樹さん”とか??」
「もう一回!」
「えっ…大樹さん…」
「うん。今日は良しとしよう(笑)」
そう言って大樹さんはニヤニヤと笑いながら、電話を切った。『ほんとに大樹さんは調子がいいんだから…』
何もかも突然で、強引で、そんな大樹さんに私はドキドキして動揺を隠すのに必死になっていたことに気づいた。
この日から私は大ちゃんのこともしかしたら好きなんじゃないかなって思ったの。
でも、実習先の人だからって、好きになっちゃいけないって、大ちゃんは私のことからかって遊んでるだけだって自分に言い聞かせてきたの。
突然なり始める着信音にびっくりして、電話に出るか戸惑って、でも、大ちゃんの声が少しでも聴きたくて葛藤の連続だった。
『大ちゃんのこともっともっと知りたい』
正直、こんな感じだったかな
その後も何度も電話をし合った。ある日、いつものように大樹さんと電話をしていた。でもその日は何故だろう。いつもより深い話になっていった。
「俺さ~、小学生から野球やってたんだ。
その時の1番の親友が白血病になったんだけど、
俺、小さくて病気のこととか全く分からなくて、
気づいてやれなかったんだ。
あいつ、『大樹には言うな』って周りに言っていたみたいで、
最期にも会えなかった。
あいつが死んだって聞いて、ショックだった。
塞ぎ込んでいたら俺の母親が
あいつからの手紙とあいつがいつも被っていた帽子を渡してきたんだよな。
手紙には、俺に言ったら本当に心配して塞ぎ込むと思ったこと、
俺にはいつものように元気に笑っていて欲しかったこと、
自分の分もこれから生きて欲しいことが書いてあったんだ。
その時さ、命の尊さ知って、縁の大切さに知った。
あいつの分も頑張んなきゃだし、周りにも気を遣ったり、
優しくしたりそれが当たり前になるようにしてきたんだ。
だから、福祉の道を選んだのかもな…」
大樹さんは今までにないくらい、真剣に、少し寂しそうに話していた。大樹さんの原点はその人との関係にあったのかなと一人、納得していた。
「あ~。ごめん。ごめん。なんかしんみりしたな。悪い。
なんでななにこんなこと話したんだろうな」
大樹さんはそう言って、今度は照れ笑いをしていた。あの電話がなかったら、大ちゃんがなんでそんなに縁を大切にしていたのか本当の理由を知ることはなかったのかもしれない。電話だったけれど、大ちゃんが悲しい顔していたの分かったんだ。それだけその人が大ちゃんにとって大切な存在で、今でもずっと忘れずに頑張っているんだなって。
私は、大ちゃんの大事な話を聞くことが出来て、少しかもしれないけど大ちゃんに心を開いてもらえたような気がして少し嬉しかったんだ。電話をし始めて大ちゃんのいろんなことを知ることが出来た気がする。表情は見えないけれど、笑い声、悲しい声、嬉しそうな声、真剣な声が分かって、すぐ側で話しているような感覚になって、より大ちゃんを近くに感じれたんだ。
大ちゃんもそう思ってくれているかな?
1週間後…
♪ブーブーブーブー
こんな時間に誰?
スマホを手に取り、眠たい目をこすりながら眩しい画面をみると
やっぱり大樹さんからだった。
夜中の1時に電話をしてくるのは一人しかいない。
「もしも~し」
「起きてた?夜中にごめん」
「寝そうだったけど、起きてましたよ。
大樹さんは今何してたんですか?」
「寝そうなところ起こしてごめんな。
俺は家で持ち帰った仕事してた」
「大丈夫ですよ。気にしないでください。
今日もまだ仕事してたんですね」
「ありがとう。おぉ、仕事だよ…。
明日の朝までにやんなきゃなんだけど、
最近寝てなくてさすがに寝そう~」
「最近もまた、寝る時間ないんですね…」
「だから、電話しながら仕事しようと思って、
付き合ってくれる?」
「いいですよ!
途中寝ちゃったらごめんなさいですけど」
「大丈夫、俺が寝かせないから(笑)」
「なんでですか~」
「いいから、いいから(笑)」
大樹さんは本当にお調子者で、自然と頬が緩む。この感じが私にとってはすごく心地よかった。電話の向こうからはたまに眠すぎて机にコツンと頭をぶつける音が聞こえ、その度にハッと声を上げて起き上がる大樹さんが面白くて、私は電話を繋いだまま横になっていた。まるで本当に大樹さんの横にいるかのように私は静かに彼の仕事を見守っていた。
「あーもう限界。。
ねむてぇ。なな音楽流していい?
こんまんまじゃ寝てしまう」
「だいぶ眠そうですもんね。ななは大丈夫です!
大樹さんの好きな曲教えてくださいな!」
「ありがとう。おう、もちろんいいぞ」
そう言いながら彼は鼻歌を伝いながら、なんだか楽しそうに曲をかけ始める。
「これ、最近好きな曲♪」
そう言いながらかけた曲は、どこかで聞いたことがある。イントロの部分でそう思っていた。そして、サビに入って私はハッとした。
♪見えない愛情をが 優しく包むよ
こんなにあたし こんなに強く
支えられているから
言葉じゃ表せない 想いを歌うよ
あたしの頬を流れる涙は
あなたに伝えたかった 「ありがとう」
<うれし涙/MACO>
「この曲、うれし涙?」
「そうそう。うれし涙知ってんのか?」
「知ってるも何も、私この曲大好きです!」
「へぇ~こんな偶然もあるんだな。
俺も好きな曲だ。
ななはMACOのこと知ってるの?」
「最近、うれし涙知って、聞くようになったかも!
でも、全然まだ知らないですね…」
「なんだ~(笑)
それなら俺がMACOの曲教えてやるよ」
そう言って大樹さんは続けて、MACOの曲を流し始めた。
「いい曲ばっかですね。これから沢山聞きたい。」
「そうしてくれ!
そうだ!今度ちょうどMACOのライブあるんだけど、行かない?」
「えっ!?行きたい!行きたい!
でも、ちょっと待って、
それって誰かと
行く予定なんじゃないんですか?」
「あ、そうだった~。
職場の人誘ったんだった…。
ななと行きたかったのに。ごめんな」
「いえいえ、誘ってくれて嬉しかったです」
「ごめん、
でも本当にななと行きたかった…」
大樹さんは何気なく言ったことだろうけど、私は少しドキッとし、胸の鼓動が速くなったのを感じる。簡単にそんなこと言わないでよ。私ばっかりが意識してバカみたい。
心を落ち着かせないと…
自分の溢れだしそうな感情を抑えながら、会話を続けた。外はもう少し明るい。ウトウトとしながら話をしていたらいつの間にか眠ってしまっていた。電話はいつの間にか切れてしまっていて、大樹さん、寝かせないって言ったのに
起こさなかったんだ。少し残念な気持ちがあったけれど、起こさないでくれた大樹さんの優しさにまた、キュッと心が締め付けられた。
『幸せだな…』
大樹さんに惹かれている自分の気持ちに蓋を閉じながら、大学に行く準備をする。
叶うはずもないこの気持ちをどうすることもできず誤魔化すので精一杯な私。『大樹さんは私のことどう思ってるんだろう』そんなことを毎日考えるようになっていた。