~MY HERO〜
ある日…
 一通のメールが届いた。MACOちゃんのファンクラブからのメールで、その内容を見た瞬間、私はすぐにレターセットとペンを準備した。

"MACO直筆のお返事が届く企画。
2名様限定"

 なんとファンクラブ限定の企画で、自分の手紙に私の大好きなMACOちゃんが返事をくれるかもしれないという内容だった。
MACOちゃんに初めてファンレターを書いた。MACOちゃんに大樹さんへの気持ちを聞いて欲しくてたまらなかった。
 私は、本当にMACOちゃんからお返事が届くことはないかもしれないが、少しでもMACOちゃんに私の手紙を読んでもらいたくて、そんな気持ちで一生懸命、ペンを走らせた。

 私は、大樹さんのことが好きなこと、でも、うまくいかないこと。それはきっとネコとキリンくらい価値観が違っていると思うこと。それでもなぜか好きということを綴った。
『どうかMACOちゃんに届きますように…』
そう願いを込めて、ポストへ投函した。

ライブ当日…
 今日はいよいよMACOちゃんのライブだ。
 私はグッズを買うために少し早く家を出ようとした。外出の前にポストを確認すると、一通の手紙が入っている。

"MACO"

 それはMACOちゃんからのお返事だった。私は何度も何度も見返したが、本当にMACOちゃんからのお返事だった。
 『本当にお返事が来るなんて…』予想外の展開に驚きを隠せない。とりあえず時間がないので、電車の中で読もうと、手紙をバッグに入れ、駅へと向かった。

"ななみちゃんへ"

 封を開け、手紙を手に取る。うれしさと緊張で胸が高まっていた。
 そこには手紙を読んで、なながその人をとても好きだということが伝わってきたこと。自分の気持ちを大切にしてほしいということ。次、会ったときに謝って、素直に気持ちを伝えてほしいこと。が綴られていた。
 私は電車の中にも関わらず、泣き崩れた。それはMACOちゃんからお返事が来たという嬉し涙と本当にななは素直になれてずに1人で勝手に怒って子どもだったという悔しい涙が入り混じっていた。
『もう、過去は変えられない。
でも、きっと今からのことは変えられる』
そう思い、今日大ちゃんが来てくれたら正直に自分の気持ちを話そうと決心した。

 私は大ちゃんが来るのを待っていた。スマホを握りしめ、まだまだ春とは言えない寒空の下で一人待っていた。喧嘩のあとに会うのは、いつも照れくさくて顔を見れない…恥ずかしい。

♪ブーブーブーブー

「はい」

「ななみ?今どこだ?ライブ会場に着いたぞ」

 本当にいつも突然なんだから…。大ちゃんは、前触れもなく私を抱きかかえ、真っ暗な所から連れ出してくれる。

「あ!居た、居た。遅くなって、悪い」

「大ちゃん、来てくれたんだ」

「行くってLINEしただろー」

「うん…ごめんなさい」

「いいよ。ななみの悪い癖は、すぐ謝るところ。
ななみの言いたいことちゃんと伝わっているから」

「大ちゃん、ありが…」

「ほら!行くぞ~。久しぶりのMACOのライブだぁ!」

 私の声を遮って、大ちゃんはライブ会場に入っていった。今日は私の横に好きな人が立っている。初デートのことを思い出した。肩が触れそうで、ドキドキして、横顔をじっと見つめて、恥ずかしくなって頬を赤らめて…。今日はあの頃に戻ったみたいだった。大ちゃん、今日は来てくれてありがとう。

「あっ!」

二人は顔を見合わせる。

「HEROだな」

「うん、HEROだね・・・」

 ♪あなたが私に言う 「愛してるよ」なんて
  どうせ冗談半分と思ってた
  素直になれなくて 笑ってごまかして
  本当は嬉しくてたまんないのに

  いつも忙しくしてるから
  私のことなんて忘れちゃいそうで
  あなたに本気にならないように
  自分の気持ち 抑えたりしてたけど

  こんなにも愛おしいって思う
  これ以上はもう 自分に嘘はつけないよ
  大げさに聞こえたとしても
  これは最初で最後の 恋だと誓うよ
  あなたはMy HERO
  <HERO/MACO>

 『HERO』は私たちにとって大切な曲。初めてのライブの時も2人で顔を見合せたよね。覚えている。
 私たちってこの歌詞みたいだよね。お互い、『愛している』って思っているのにそれは本当なのか、冗談なのか考えて、素直になれなかった時もあったね。でも、『愛おしい』その気持ちは誤魔化せなくて、もう我慢が出来なくなって、気持ちを伝え合った日も沢山あった。本当にこの恋が最後になると思っていたんだよ。

 大ちゃん覚えている?私が大ちゃんに『大ちゃんにとって私ってどんな存在?』って聞いたとき、大ちゃんは迷わずこう答えたの。

『ななみはMy HEROだよ』

 その時は、『MACOちゃんの曲のHEROにかけたでしょ』って笑ったけど、本当はとても驚いたの。だって、私もそう思っていたから。私は照れくさくて、私もそう思っていること言えなかったけど…。 

「ねぇ、大ちゃん?」

「ん?」

「私たちってどういう関係?」

「ん~。
 今は、どんな関係とか考えていないかな。
 恋人じゃなく、友達でもない、
 俺は、形に囚われたくないな」

「なるほど…。それもありかな?
 私ね、
 今まで大ちゃんに素直になれていなかった気がするの。
 大ちゃんが迷惑じゃないかとか、
 嫌われるんじゃないかとか、
 そんなことばかり考えて、
 本当の自分で大ちゃんと向き合えてなかったと思うの。
 今は、私もどんな形であっても、
 大ちゃんと一緒に居たいってそう思うの」

「そうか。ななみが一緒に居たいって思ってくれて
 何だか嬉しいな。
 何度も言うけど・・・」

「「縁は切りたくない」」

「おっ!覚えてるじゃんか。
 そう、縁は切らない。
 時間が経てば、自然とお互いがお互いにとって
 どういう存在なのか分かると思うんだ。
 だから、焦るな。仕事もだけど、ゆっくりな…」

「うん。分かったよ。あとね、
 私、仕事辞めようと考えているの」

「そうなのか?」

「うん、沢山休ませて貰ったけど、
 やっぱり本調子じゃないみたい。
 まだまだ不安が強くて、色々焦っちゃう。
 人生ちょっとお休みしようかなって。
 仕事辞めて、地元に戻ろうかなって思ってる」

「そっかぁ~。ななみ居なくなっちゃうのか。
 でも、いいんじゃない?
 ななみが考えて出した答え。
 北海道から居なくなっちゃうのは寂しいけど、
 俺は応援してるから」

「ありがとう、大ちゃん」

私だって、大ちゃんと会えなくなるのは寂しい。
でも…
大ちゃんが背中押してくれた。
私たちの縁は切らないって教えてくれた。

私にとって大ちゃんは大切な人。
今は恋人でも友達でもない関係。
二人だけの関係。
それを大事にしていきたい。
 
 大ちゃんと出会って、沢山すれ違ってきた。きっと、これからも何度だってぶつかって、言い合いになってしまうと思う。
でも、それはきっと

心を許している証拠。
素直でいてもいいという証拠。

 私を怒ってくれる人。怒るのは、ただ理由もなく怒らない。私のこと思いやって、将来を見据えて怒ってくれる優しい人。

大ちゃんを想えば、想うほど、

気持ちは止められなくなる。
抱えきれなくなる。
愛おしくなる。

お互いを思いやっているはずなのに、

すれ違う。
勘違いが起きる。

だから、恋は難しい。儚い。本当に不思議だね。

それでも好きなの。
それでも縁を続けていきたい。

 お互い新しく気になる人が出来たとしても、きっとMACOちゃんの曲を聞けば、夏祭りに行けば、大ちゃんと同じ車を見つければ、タバコの匂いがすれば、私の頭には大ちゃんの顔が浮かんじゃう。
 今まで私は、大ちゃんが『好き』だから付き合いたいって、そう思ってた。でも、好きだから付き合わなければ意味がないなんてことはなかった。例えもう大ちゃんと付き合えなかったとしても、大ちゃんを好きでいる気持ちを抑える必要はない。友達になったとしても、他人のように連絡を取らなくなったとしても。

『形に囚われることではないのだ』

 大ちゃんがそう教えてくれた。これから大ちゃんと関わるなかでゆっくり、ゆっくり2人だけの形を探していけばいいのかもしれない。形は何度も変化していってもいいに違いない。
 これからは今まですれ違った分、その時間をゆっくり取り戻していきたい。小さな幸せをしっかり拾い上げて、幸せを感じたい。


***
「俺が死ぬときは、ななみに看取って欲しいな」

「うん。いいよ。
私が大ちゃんより先に死ぬことになったら、 最期に会いに来て欲しい」

「もちろん」
***

 こんな話をしたこともあったよね。二人で死んだ時の話をするなんて、バカみたいだけど、大ちゃんがそう言ってくれて嬉しかった。最期に私に会いたいってことだから、必ず会いに行くね。

その後…
 私は職場に退職願を提出し、実家に帰った。しかし、もちろん今でも大ちゃんとは連絡を取り合う仲が続いている。

「あぁ〜。大ちゃん不足…。
 今度時間あったら電話して!!」

「大ちゃんに会いたいから、
 近々北海道に行ってもいい?
 北海道に行ったら会ってくれる?」

 私はやっぱり子どもだ。素直になるとどうしても子どもっぽくなってしまう。でも、大ちゃんは変わらず、『おう、いいぞ!』『会いにこい!!』って私を甘やかしてくれる。

 私たちは今もすぐに会うこと、顔を見て話すことはできない。そうだとしても、
いつも応援している。
いつも笑顔でいれる。
いつも素直でいれる。

そう思ったら、とっても心強い。
大ちゃんは私のHEROだから…。

ー終ー