~再び~
 私はお部屋でいつもMACOちゃんの曲を聞いている。12月にリリースされたアルバムを聞きながらやっぱり大ちゃんのことを考えてしまっていた。

 ♪味好みをしたいほど 
  転がってないんだよ 恋なんて

  君以外知らなくていい この手掴んで 
  このまま離さないでよ
  大好き それ以外見つからない
  だから 今日もここに させてよ
  <君以外もう知らなくていい/MACO>

大ちゃん・・・。
MACOちゃんの曲を聞くといつも大ちゃんのことを思っている。大ちゃんにあんなに酷いこと言って、自分から別れたいって言ったくせに後悔というか、なんであんなこと言っちゃったんだろうって自分でも不思議だった。
 私も大ちゃんもお互いに愛し合っていたのに。それはお互い伝わっていたはずなのに。簡単に手放したのは私だった。もう自分から連絡なんてできない。そう思っていた。

***
「ななみは、俺のことなんで好きなんだ?」

「えっ?どうしたの急に!?」

「いや、ふと思ってな。
 遠距離だし、辛い思いや寂しい思いさせてばかりだろ」

「んー、そうかもしれないけど、
 それでも好きだから一緒にいたいよ」

「そうか。たまにな、
ななみは俺と一緒にいないほうが良いのかもしれないって
思う時があるんだ。」

「どうして?ななは大ちゃんと一緒にいたいよ」

「うん、俺もだよ。
 だから、お互い信じ合おうな。
 俺が絶対、ななみを幸せにするから」
***

 そう言ってくれたのに…。私が大ちゃんを裏切ってしまったんだ。どんなに大ちゃんが私のこと真剣に考えてくれてたのか、今なら少しだけ分かる気がした。

 ”大ちゃんとのすることリスト”
もうクリアすることはできない。なのに、捨てられずに手帳のなかに挟まっている。私は気づくとペンを取っていた。

 13.大ちゃんにまた会いたい

どうしてだろう。ペンが勝手に動く。今の私は本当に大ちゃんに会いたいんだと痛感させられた。大ちゃんはきっと私なんかに会いたいなんて思っていない。そう思っていたが少しの期待を持ち、ペンを走らせた。

♪ピンポーン

一件のラインが入った。『ひろ、仕事終わったのかな?』そう思い、ラインを開くと

-佐々木大樹-

何度見ても大ちゃんの名前が一番上にきている。

“ななみ、久しぶり。元気にしていますか?”

 大ちゃんだ。あんなこと言ったのに…なんで…。連絡先消したはずなのに…。
 私は平然を装い、LINEを返すことにした。

“久しぶり。やっとお仕事復帰できそうです”

“よかった。落ち着いて来たか?”

“うん、前は本当にごめんなさい。
あんなに一方的に感情的になっちゃって”

次の返事を待っていると着信音が鳴った。

♪ブーブーブーブー

「はい…」

「ななみ?…出てくれてありがとう」

悔しいけど、懐かしい声。心地良い声だ。

「大ちゃん、本当にごめんなさい。
 本当に…」

「もう謝んな。ななみはいつも謝りすぎ」

「うん。ごめん」

「…ななみを支えてくれる人はできたか?」

「…私は、
 沢山の人たちに支えられているよ」

「それならよかった。
 連絡していいか分からなくてさ、
 でも、今日連絡して、ななみの声聞けて安心したよ」

「私も大ちゃんの声聞けて嬉しかった」

「ななみ、覚えてる?」

「ん?」

「俺ら、どんな関係になったとしても縁は切りたくない」

「うん、覚えている。私もそうしたい」

「そう言ってくれてよかった…。
 ななみ、焦るなよ。応援しているから」

「ありがとう、大ちゃん…」

「そういえば、もうちょっとで俺、国試だわ」

「あ、そうだ。今年こそだね(笑)」

「やっと勉強始めたんだ~」

「えっ?あと2週間だよ?」

「それは分かってるって!(笑)
 そうだ、ななみ先生、俺に勉強教えてください」

「先生じゃないし~。2週間しかないんだから
 過去問を解きまくるしかないよ~」

「ななみと一緒に勉強したい!」

「えっ?」

「来週、行くからな!」

「えっ、ちょっと待ってよ~!ねぇ!」

 “そっち行くから…”大ちゃんとまた会えるんだ。まだ信じられない。もう会ってくれないと思っていた。すごく緊張する…。目を見て話せるかな。
 そんななか、どんどん大ちゃんに会う日は近づいてくる。やることリストを書いたとたん、現実になるなんて…。
 でも…ひろは、私が大ちゃんに会うって言ったらきっと怒ったちゃうよね。私っていったい何がしたいんだろう…。大ちゃんにも、ひろにも、ずっと中途半端。いつも傷つけている。そんな自分に嫌気がさす。

「ななみ~話って何?」

「うん…。
 ひろに言わなきゃいけないことがあるの。
 ずっと私のためにひろは、何でもしてくれたよね。
 ひろのこと沢山苦しめたよね。ごめんなさい」

「急にどうした?」

「…。私ね、やっぱりダメなの。
 いつも大ちゃんのこと考えて、
 いつも苦しくなって、会いたくなって。
 私が弱っている時、
 1番にひろが支えてくれたのに。
 本当にバカだよ、私」

「待って!僕はななが
 なんて言っても離れないから」

「自分がバカなこと言ってるのは分かっている。
 ひろをすごく傷つけているのも自覚してる。
 …でも、私が好きなのは大ちゃんなの。
 だから、ひろとは一緒に居れないの。
 本当にごめんなさい」

私は電話の向こうに居るひろに深く頭を下げた。

「なな、もうそんなこと言うな。そんなこと…。
 僕にとって、ななは必要なんだよ。
 あいつのところに行くな。お願いだから…」

 ひろの声はだんだんと小さくなっていた。ひろ、本当にごめんなさい。酷いこといっぱいした。
 大ちゃんが好きなのに、いつも愛情を一生懸命注いでくれるひろの優しさに甘えて寄り掛かってしまったんだ。ひろと話している時だけは、大ちゃんのこと考えなくてもいいから…。

私は大切なひろを傷つけたの。

 私が1番辛いときに、『大丈夫か?』って心配してくれてたのは、ひろ、あなただったのに…。
 私が1番酷い状態のときでも、ひろは私から逃げないで、真っ直ぐ向き合おうとしてくれたよね?
 それなのに私はひろを裏切った。本当にごめんなさい。今までありがとう。そう心の中で呟いた。なんだか、もうひろが離れていってしまうような気もしていた。
 
 その予想は的中した。次の日から、ひろからの連絡はパタリと来なくなった。ラインの既読もつかない。電話も出ない。きっと、それがひろのなかでのけじめだったのかもしれない。私とひろの関係はそこで終わってしまった。“さようなら”を言わないまま、私は大切な友達を失ってしまった。