~2人の時間~
“夜勤行ってくるね、
明日楽しみすぎるから頑張れる!”
“おう!行ってらっしゃい。
明日、昼前には行くからな”
いよいよ明日は、大ちゃんと会える。しかも、夏祭りに連れてってくれる。楽しみで夜勤はいつも眠たいけど、今日はなんだか眠くない。夜勤が終わったら少し寝れば大丈夫そうだ。
やっと終わった~!今日は平和な夜勤だった…そう思いながら家へと帰った。玄関の鍵を開けようとドアノブに手をかける。
ん?えっ?私、鍵かけ忘れた?
玄関は開いていて、玄関には見慣れないおっきな靴が脱ぎ捨てられていた。
大ちゃん・・・?
急いで部屋に入ると、スヤスヤと寝息を立てて眠っている大ちゃんが居た。
午前中に来るって言っていたけど、いつも通りだときっと14時くらいに来るんだろうなって思っていたからまさかの展開に驚いた。
「大ちゃん?おはよう。もう来ていたんだね?」
「ななみ~おかえり。
どうだ~びっくりしただろ?」
「ただいま。すごく驚いたよ」
「サプライズ成功~。ななみ一緒に寝よ~」
「あ、ちょっとシャワーも浴びてないんだから~」
「いいから~。あ~ななみの匂いする~」
そう言って、私を抱きしめて寝ようとした。大ちゃんは全く緊張というものをしないんだろうか。ドキドキが止まらない。でも、なんか恋人っぽい。世界中の恋人たちってこんなに幸せなことを毎日しているのだろうか。羨ましい。
気づくと私も寝てしまっていた。目が覚めると珍しく大ちゃんが起きて、換気扇の下でタバコを吸っている。
「おはよう、ななみ」
「おはよう、大ちゃん」
「シャワー浴びて、そろそろ出かけるか?」
「そうだね!大ちゃん先どうぞ~」
「え~、一緒じゃないの~(笑)」
「いやだよ~恥ずかしい!」
「恥ずかしがることないだろ~、
俺たち、付き合っているんだから~」
「いや、ダメ!恥ずかしい。早く行ってきて!」
「酷いな~(笑)」
そうやって、言い合いをしながら私たちは出かける準備をした。大ちゃんはいつも恥ずかしいことを簡単に言う。慣れない私は、いつも顔が赤くなってしまう。その反応を楽しみながらニヤニヤしている大ちゃんは本当に意地悪だ。
でも、確実に距離は近づいている。そんな気がした。
今日は小樽の花火を見にいく約束をずっと前からしていた。久しぶりのデートだから何日も前から洋服選びに、靴選び、お化粧の練習と気合が入っていた。デート前の準備の時間は意外と好きかも…。ワクワクが止まらない。
「そろそろ出るぞ〜」
「はーい、あとちょっと〜」
少し大ちゃんに急かされながら、バタバタと準備を終え、家を出た。いつも通り、MACOちゃんの曲を流しながら、ちゃっかり大ちゃんの手を握りしめて出発した。
「よし、着いた!
花火まではまだ時間あるな」
「うーん。そうだね。少しお店みたい!!」
私たちはオルゴール堂へと続く買い物通りに向かった。
「あ、そうだ。2人で何かお揃いのもの買わないか?」
「え!?いいの??
欲しい、買いましょう!!」
私は興奮気味に、ペアルックの話に食いついた。大ちゃんは『そのリアクション。(笑)』っと言って笑っていた。私たちは片っ端からお店をまわり、
あれでもない。
これでもない。
と苦戦しながら探し回った。
せっかく2人でお揃いなのだから、2人で気に入ったものが欲しかった。2人とも妥協は嫌いなタイプだったので、必死になって何軒も何軒も行ったり来たり、汗だくになりながら探し回った。
「ななみ、ちょっと!これどう?」
「どれどれ?」
大ちゃんの手首にはブレスレットがあった。
「めっちゃいい!大ちゃんセンス良すぎ!
さすが〜」
私は彼をベタ褒めしながら、自分の手首にもつけて見せた。2人でこれにしようと決め、お揃いのブレスレットをしながら手を繋いだ。外ではいつも恥ずかしいと言って繋いでくれないが、『今日は人が多くて逸れたら面倒だから』と少し照れながら言っていた。
「ななみ」
「んー?」
「俺ら、遠距離じゃん。
ただでさえ遠いのに、お互い仕事もシフトでなかなか会えない。
辛くなったり、寂しくなったり、挫けそうになったら
このブレスレットみるんだぞ。
そしたら頑張れるから」
「うん、毎日身につけるよ…」
「そうだな」
彼はいつも多くは語らない。でも、きっと私の辛さも寂しさも分かってくれていたんだよね。また、私は彼の不器用な優しさに包まれた気がした。
「おぉー、すげぇー」
花火が始まった。私たちは小樽運河沿いに場所取りし、花火に夢中になっていた。子どものように空を見上げて、口を開けたまま花火を見つめる大ちゃん。
たった45分間の花火だったけど、大ちゃんは手を握ったまま一度も離さなかった。
その夜は予約していたホテルにお泊まりする予定になっている。大ちゃんとのお泊まりは、札幌以来だから…もう1年半以上前。まだ私は学生で、あの時はまだ付き合っていなかった。今日が付き合って初めての、お泊まりデートだ。
「わぁ~見てみて!露天風呂がついてる!」
「ほんとだ!すごくいい部屋だな。
早速だけど、露天風呂入ろうぜ!」
「は~い!」
私たちは子どものようにはしゃぎ、広いお風呂の中でお湯を掛け合ったり、テレビを集中してみたり、2人はのぼせるまで長湯して、露天風呂を満喫した。
「ななみ、眠たいのか~?」
私がウトウトしていると、大ちゃんが声を掛けてきた。
「う~ん。昨日夜勤だったからちょっと眠たいけど、まだ寝たくなーい!!」
「そうか。じゃあ今日はオールだな。
折角ななみと一緒に居るのに寝ちゃうのはもったいない…。
ななみ、こっちおいで?」
「うん。私も大ちゃんと一緒に居るのに寝たくない!」
そう言いながら私は彼の膝の上にちょこんと座って寄り掛かった。大ちゃんの優しい匂い。久しぶりにホッと息つく時間だった。
「ななみ?今日抱いていいか?」
「えっ!な、なに、、いきなり…」
「もう我慢できない」
そう言って私を持ち上げ、ベッドまで運び、そっとベッドの上に体を下した。その瞬間、彼は唇にキスをした。『まだ心の準備何もできていないのに…』私の心臓は張り裂けそうになっていた。
だんだんと激しくなるキス。キスしながら大ちゃんは右手で服をめくりあげる。私の体は敏感になっていていちいち反応してしまう。
「大ちゃん恥ずかしいよ…」
「大丈夫。きれいだよ、ななみ」
その言葉を聞くと安心したのか、私は大ちゃんに体を委ねた。真っ暗な部屋のなかで大ちゃんと私は一つに繋がった。何度も何度も「愛している」って耳元で囁きながら、私が今までに経験したことのないくらい優しく抱いてくれたよね。
この時間が終わったら、次はいつ会えるんだろう…。考えたくない。ずっと、ずっと一緒に居たいよ。とっても幸せな時間のはずなのに急に哀しくなって…。涙をグッとこらえて幸せを噛み締めた。
この幸せの時間が終わらないように、私も何度も、何度も「愛してる」って囁いたんだよ。
次の日…
私たちはホテルを後にし、大ちゃんが『服が欲しい』と言うので、ショッピングモールへと足を運んだ。昨日と同じく大ちゃんが何かひらめいたように声を上げる。
「そうだ!
俺の服、ななみが選んで!」
「私、服のセンスないもん!」
「いいから、いいから、
俺はななみの服選ぶ!!
制限時間は30分!
よーい、スタート。(笑)」
そう言って、私の返事を聞かずに歩き始めてどこかに行ってしまう。少し呆れながらも、私は大ちゃんに似合いそうな服を選び始めた。
大ちゃんはかっこいいからきっとなんでも似合う。私は大ちゃんが今まで着たことのないようなアロハシャツを選び、下は夏なのでベージュの短パンを合わせてみた。
『大ちゃんは喜んでくれるだろうか』少し緊張しながら彼の帰りを待っていた。すると、大ちゃんはニヤニヤしながら私のところに駆け寄ってきた。
「まず、俺からななみに選んだ服見せていい?」
「いいよ〜」
そう言うと彼は自慢げにカゴから服を取り出す。胸元ががっぱり開いて、体のラインが見えるようなピチッとしたトップスに、私が今まで履いたことのないくらい短い、ショートパンツを見せてきた。
「なにこれ。どっちもななには似合わないしー。
大ちゃんのセンス悪すぎ…」
「はぁー?どう見てもセンス良すぎだろ?
ななみは若いんだから、もう少し露出した格好しろよ!」
「えー。絶対いや!」
そう言い合いをしながら、沢山笑いあったよね。あの時はすごく驚いたよ。大ちゃんがあんな服を選ぶなんて…。
私は言い合いの末、どうしてもショートパンツを履いて欲しいと言われ、しぶしぶ買うことを承諾した。『今度のデートはこれを履いてこい』ってなぜか威張った言い方をして…
本当にその時は大ちゃんが駄々をこねている子どもにしか見えなかった。
『じゃあ、次は私の番!』そう言い、さっき選んだ服を大ちゃんに見せると、意外にも彼は喜んで、ノリノリで着てくれた。
『今までアロハシャツとか持ってなかったから新鮮!』そう言いながら、次のデートでお互いに選んでもらった服を着てデートをする約束をした。
「じゃあ、また今度な!来月休み合わせような」
「うん!そうだね!すごく楽しかった。
また、早く会いたい」
「また~、哀しい顔するな!また会えるし、
寂しくなったら電話しておいで」
「うん!!ごめん、ごめん。
またお仕事頑張ろうね!電話もする!」
私の頭をポンっと軽く撫でる。大ちゃんはニコニコして哀しそうな顔は見せなかった。
「じゃあまたな」
大ちゃんの車が遠くなるまで見送った。次に会えるのは1か月後かな?1か月頑張ればまた大ちゃんを感じることが出来る、そう自分に言い聞かせていた。
2018年8月…
“大ちゃーん、何時集合?”
“11時に室蘭駅集合!!”
大ちゃんは4日ほどの連休を取って、実家に帰っていた。大ちゃんがその帰りに『登別にある水族館にななみを連れていきたい』と言っていたので私は大ちゃんの実家の近くの室蘭まで迎えに行くことになった。実家にゆっくりと帰るのは数年ぶりと話していたので楽しめたかなと心のなかで考えながら私は室蘭へと向かった。
“大ちゃん、駅着いたよ~”
“はいよ~”
少し待つと、車が1台やってきた。大ちゃんはお母さんに送られてきたみたいだ。『あの人がお母さんか…』ちょっと緊張して息をのんだが、紹介される訳でもないことに気づき、ホッとしていた。
「大ちゃん!こっち!!」
私は大ちゃんのお母さんが帰るのを見計らって、大きな声で大ちゃんを呼んだ。
「お~ななみ。またまた久しぶり~。
遠いところありがとうな」
「うんうん。大ちゃんと会えるならどこにでも行きますよ。(笑)」
「調子がいいんだから~、じゃあ水族館に出発~!」
「は~い!!」
もうすっかり大ちゃんは私の運転になれたようで、助手席で窓の外を見ながらくつろいでいる。室蘭から登別までは海沿いを走る。今日はとても天気が良く、気持ちいいドライブとなった。
車を走られていると、目の前にお城のような建物が見えてきた。大ちゃんがハッとして『あそこだ』と指をさした。
「ここの水族館な、俺が小さいころにも来たことがあるんだ。
その時、ちょうどマジックショ-やっていて、
かぁーちゃん、とぉーちゃんと見ていたんだよ。
そしたら、マジックしていたお兄さんに呼ばれて、
俺がマジックに参加することになったんだ。
ここの階段の上に居た俺がほんと一瞬であのお城の窓にループしたんだよ。
あれはマジ興奮した。本当に超能力ってあるんだなって思ったんだ。
それからこの水族館は俺にとって特別な場所になったんだ…」
「えー!それやばくない?大ちゃんループしたんだ。(笑)」
「うん、やばいよ。
なんでこの話をしたかと言うと、
特別な場所にななみを連れてきたかったって言いたかったんだけど。(笑)
これからさ、2人でいろんな場所行くと思うんだ。
たぶんななみと行った場所、全部、全部特別な場所になるんだろうなって
しみじみ思った!」
「大ちゃん…」
大ちゃんはいつも多くを語らない。けど、今日はなんだかいつもと違うような。素直になったような。彼は鼻を掻きながら照れているようで、きっと彼自身もこの話を私にしたか驚いているようだった。
「ななみ、城のなか見てこようぜ」
彼は誤魔化すように足早にお城へと向かう。そうやって照れて、ぎこちなくなっている大ちゃんにも愛おしさが溢れた。
「大ちゃん、ありがとう」
「ん?何が??」
「大ちゃんの特別な場所に連れて来てくれて…。
大ちゃん、なな、大ちゃんのこと大好き」
「急にどうした!?照れるじゃないかよ…」
大ちゃんはまた照れている。すごく愛おしい。幸せな時間をありがとう。
「ななみ、今日も写真とろーぜ」
「うん!はい、チーズ」
その時に撮った写真。今まで以上に2人とも目が無くなるくらいの笑顔で、『この写真誰にも見せられないよね』って笑い合ったね。
大ちゃんと撮った写真は、どれも思い出がたくさん詰まっている。
付き合った日に撮った写真は、まだぎこちなさが残っていて笑顔が引きつっていたよね。それを見て『ななみ、顔怖~い』って私をいじるから、私も『大ちゃんも恐い顔している』っていじり返したの。
小樽の花火大会では、思いっきり笑っているというよりは、お揃いのブレスレットを映しながら、なんだか優しい笑顔の2人だったよね。
その後、私たちはお城のなかで水槽を2人で見たり、『このタコ、大ちゃんにそっくり』と言って写真を撮ったら怒られたり…。
外に出でイルカのショーを一緒に見たね。『可愛い!』って興奮しながら、夢中になってイルカを目で追って拍手をして、本当に私たちって子どもみたいだったよね?
ペンギンが好きな大ちゃんはじーっとペンギンとにらめっこして、『変な顔!』って笑いながら何分もそこを動こうとしなかった。
私がいつも寂しいって言うから可愛いペンギンのぬいぐるみまで買ってくれて、これを俺だと思ってなんて冗談言って…。
本当に、本当に大ちゃんと居ると幸せで、笑いも尽きなくて、私は勝手に、大ちゃんと私は運命の2人だって思い込んでいたんだよ。
大ちゃんと過ごす日々がとても幸せで、愛おしかった。
だから…大ちゃんが帰る時がどうしても苦手で、哀しい顔しないって思ってもすぐに顔に出ちゃっていたよね。また、会えるのに何でこんなに寂しいんだろう。『しっかりしろ!なな!』って心のなかで何度も言い聞かせた。
恋ってこんなに寂しいこともあるんだ。
恋って楽しいだけじゃないんだ。
心のなかでモヤモヤした。
好きな人と一緒に居ることが出来るって当たり前なことじゃないんだ。だから、お互いのこと思いやる気持ちって大事だよね。ちょっとした幸せを噛み締めて、積み重ねることが大事なんだよね。大ちゃんを好きになれば、なるほど会えない日々の寂しさは増していく。
『私ってこんなに欲張りだったんだ』
日に日に、自分の思いを押し込めることができなくなる。まだまだ私って弱いのかな。
“夜勤行ってくるね、
明日楽しみすぎるから頑張れる!”
“おう!行ってらっしゃい。
明日、昼前には行くからな”
いよいよ明日は、大ちゃんと会える。しかも、夏祭りに連れてってくれる。楽しみで夜勤はいつも眠たいけど、今日はなんだか眠くない。夜勤が終わったら少し寝れば大丈夫そうだ。
やっと終わった~!今日は平和な夜勤だった…そう思いながら家へと帰った。玄関の鍵を開けようとドアノブに手をかける。
ん?えっ?私、鍵かけ忘れた?
玄関は開いていて、玄関には見慣れないおっきな靴が脱ぎ捨てられていた。
大ちゃん・・・?
急いで部屋に入ると、スヤスヤと寝息を立てて眠っている大ちゃんが居た。
午前中に来るって言っていたけど、いつも通りだときっと14時くらいに来るんだろうなって思っていたからまさかの展開に驚いた。
「大ちゃん?おはよう。もう来ていたんだね?」
「ななみ~おかえり。
どうだ~びっくりしただろ?」
「ただいま。すごく驚いたよ」
「サプライズ成功~。ななみ一緒に寝よ~」
「あ、ちょっとシャワーも浴びてないんだから~」
「いいから~。あ~ななみの匂いする~」
そう言って、私を抱きしめて寝ようとした。大ちゃんは全く緊張というものをしないんだろうか。ドキドキが止まらない。でも、なんか恋人っぽい。世界中の恋人たちってこんなに幸せなことを毎日しているのだろうか。羨ましい。
気づくと私も寝てしまっていた。目が覚めると珍しく大ちゃんが起きて、換気扇の下でタバコを吸っている。
「おはよう、ななみ」
「おはよう、大ちゃん」
「シャワー浴びて、そろそろ出かけるか?」
「そうだね!大ちゃん先どうぞ~」
「え~、一緒じゃないの~(笑)」
「いやだよ~恥ずかしい!」
「恥ずかしがることないだろ~、
俺たち、付き合っているんだから~」
「いや、ダメ!恥ずかしい。早く行ってきて!」
「酷いな~(笑)」
そうやって、言い合いをしながら私たちは出かける準備をした。大ちゃんはいつも恥ずかしいことを簡単に言う。慣れない私は、いつも顔が赤くなってしまう。その反応を楽しみながらニヤニヤしている大ちゃんは本当に意地悪だ。
でも、確実に距離は近づいている。そんな気がした。
今日は小樽の花火を見にいく約束をずっと前からしていた。久しぶりのデートだから何日も前から洋服選びに、靴選び、お化粧の練習と気合が入っていた。デート前の準備の時間は意外と好きかも…。ワクワクが止まらない。
「そろそろ出るぞ〜」
「はーい、あとちょっと〜」
少し大ちゃんに急かされながら、バタバタと準備を終え、家を出た。いつも通り、MACOちゃんの曲を流しながら、ちゃっかり大ちゃんの手を握りしめて出発した。
「よし、着いた!
花火まではまだ時間あるな」
「うーん。そうだね。少しお店みたい!!」
私たちはオルゴール堂へと続く買い物通りに向かった。
「あ、そうだ。2人で何かお揃いのもの買わないか?」
「え!?いいの??
欲しい、買いましょう!!」
私は興奮気味に、ペアルックの話に食いついた。大ちゃんは『そのリアクション。(笑)』っと言って笑っていた。私たちは片っ端からお店をまわり、
あれでもない。
これでもない。
と苦戦しながら探し回った。
せっかく2人でお揃いなのだから、2人で気に入ったものが欲しかった。2人とも妥協は嫌いなタイプだったので、必死になって何軒も何軒も行ったり来たり、汗だくになりながら探し回った。
「ななみ、ちょっと!これどう?」
「どれどれ?」
大ちゃんの手首にはブレスレットがあった。
「めっちゃいい!大ちゃんセンス良すぎ!
さすが〜」
私は彼をベタ褒めしながら、自分の手首にもつけて見せた。2人でこれにしようと決め、お揃いのブレスレットをしながら手を繋いだ。外ではいつも恥ずかしいと言って繋いでくれないが、『今日は人が多くて逸れたら面倒だから』と少し照れながら言っていた。
「ななみ」
「んー?」
「俺ら、遠距離じゃん。
ただでさえ遠いのに、お互い仕事もシフトでなかなか会えない。
辛くなったり、寂しくなったり、挫けそうになったら
このブレスレットみるんだぞ。
そしたら頑張れるから」
「うん、毎日身につけるよ…」
「そうだな」
彼はいつも多くは語らない。でも、きっと私の辛さも寂しさも分かってくれていたんだよね。また、私は彼の不器用な優しさに包まれた気がした。
「おぉー、すげぇー」
花火が始まった。私たちは小樽運河沿いに場所取りし、花火に夢中になっていた。子どものように空を見上げて、口を開けたまま花火を見つめる大ちゃん。
たった45分間の花火だったけど、大ちゃんは手を握ったまま一度も離さなかった。
その夜は予約していたホテルにお泊まりする予定になっている。大ちゃんとのお泊まりは、札幌以来だから…もう1年半以上前。まだ私は学生で、あの時はまだ付き合っていなかった。今日が付き合って初めての、お泊まりデートだ。
「わぁ~見てみて!露天風呂がついてる!」
「ほんとだ!すごくいい部屋だな。
早速だけど、露天風呂入ろうぜ!」
「は~い!」
私たちは子どものようにはしゃぎ、広いお風呂の中でお湯を掛け合ったり、テレビを集中してみたり、2人はのぼせるまで長湯して、露天風呂を満喫した。
「ななみ、眠たいのか~?」
私がウトウトしていると、大ちゃんが声を掛けてきた。
「う~ん。昨日夜勤だったからちょっと眠たいけど、まだ寝たくなーい!!」
「そうか。じゃあ今日はオールだな。
折角ななみと一緒に居るのに寝ちゃうのはもったいない…。
ななみ、こっちおいで?」
「うん。私も大ちゃんと一緒に居るのに寝たくない!」
そう言いながら私は彼の膝の上にちょこんと座って寄り掛かった。大ちゃんの優しい匂い。久しぶりにホッと息つく時間だった。
「ななみ?今日抱いていいか?」
「えっ!な、なに、、いきなり…」
「もう我慢できない」
そう言って私を持ち上げ、ベッドまで運び、そっとベッドの上に体を下した。その瞬間、彼は唇にキスをした。『まだ心の準備何もできていないのに…』私の心臓は張り裂けそうになっていた。
だんだんと激しくなるキス。キスしながら大ちゃんは右手で服をめくりあげる。私の体は敏感になっていていちいち反応してしまう。
「大ちゃん恥ずかしいよ…」
「大丈夫。きれいだよ、ななみ」
その言葉を聞くと安心したのか、私は大ちゃんに体を委ねた。真っ暗な部屋のなかで大ちゃんと私は一つに繋がった。何度も何度も「愛している」って耳元で囁きながら、私が今までに経験したことのないくらい優しく抱いてくれたよね。
この時間が終わったら、次はいつ会えるんだろう…。考えたくない。ずっと、ずっと一緒に居たいよ。とっても幸せな時間のはずなのに急に哀しくなって…。涙をグッとこらえて幸せを噛み締めた。
この幸せの時間が終わらないように、私も何度も、何度も「愛してる」って囁いたんだよ。
次の日…
私たちはホテルを後にし、大ちゃんが『服が欲しい』と言うので、ショッピングモールへと足を運んだ。昨日と同じく大ちゃんが何かひらめいたように声を上げる。
「そうだ!
俺の服、ななみが選んで!」
「私、服のセンスないもん!」
「いいから、いいから、
俺はななみの服選ぶ!!
制限時間は30分!
よーい、スタート。(笑)」
そう言って、私の返事を聞かずに歩き始めてどこかに行ってしまう。少し呆れながらも、私は大ちゃんに似合いそうな服を選び始めた。
大ちゃんはかっこいいからきっとなんでも似合う。私は大ちゃんが今まで着たことのないようなアロハシャツを選び、下は夏なのでベージュの短パンを合わせてみた。
『大ちゃんは喜んでくれるだろうか』少し緊張しながら彼の帰りを待っていた。すると、大ちゃんはニヤニヤしながら私のところに駆け寄ってきた。
「まず、俺からななみに選んだ服見せていい?」
「いいよ〜」
そう言うと彼は自慢げにカゴから服を取り出す。胸元ががっぱり開いて、体のラインが見えるようなピチッとしたトップスに、私が今まで履いたことのないくらい短い、ショートパンツを見せてきた。
「なにこれ。どっちもななには似合わないしー。
大ちゃんのセンス悪すぎ…」
「はぁー?どう見てもセンス良すぎだろ?
ななみは若いんだから、もう少し露出した格好しろよ!」
「えー。絶対いや!」
そう言い合いをしながら、沢山笑いあったよね。あの時はすごく驚いたよ。大ちゃんがあんな服を選ぶなんて…。
私は言い合いの末、どうしてもショートパンツを履いて欲しいと言われ、しぶしぶ買うことを承諾した。『今度のデートはこれを履いてこい』ってなぜか威張った言い方をして…
本当にその時は大ちゃんが駄々をこねている子どもにしか見えなかった。
『じゃあ、次は私の番!』そう言い、さっき選んだ服を大ちゃんに見せると、意外にも彼は喜んで、ノリノリで着てくれた。
『今までアロハシャツとか持ってなかったから新鮮!』そう言いながら、次のデートでお互いに選んでもらった服を着てデートをする約束をした。
「じゃあ、また今度な!来月休み合わせような」
「うん!そうだね!すごく楽しかった。
また、早く会いたい」
「また~、哀しい顔するな!また会えるし、
寂しくなったら電話しておいで」
「うん!!ごめん、ごめん。
またお仕事頑張ろうね!電話もする!」
私の頭をポンっと軽く撫でる。大ちゃんはニコニコして哀しそうな顔は見せなかった。
「じゃあまたな」
大ちゃんの車が遠くなるまで見送った。次に会えるのは1か月後かな?1か月頑張ればまた大ちゃんを感じることが出来る、そう自分に言い聞かせていた。
2018年8月…
“大ちゃーん、何時集合?”
“11時に室蘭駅集合!!”
大ちゃんは4日ほどの連休を取って、実家に帰っていた。大ちゃんがその帰りに『登別にある水族館にななみを連れていきたい』と言っていたので私は大ちゃんの実家の近くの室蘭まで迎えに行くことになった。実家にゆっくりと帰るのは数年ぶりと話していたので楽しめたかなと心のなかで考えながら私は室蘭へと向かった。
“大ちゃん、駅着いたよ~”
“はいよ~”
少し待つと、車が1台やってきた。大ちゃんはお母さんに送られてきたみたいだ。『あの人がお母さんか…』ちょっと緊張して息をのんだが、紹介される訳でもないことに気づき、ホッとしていた。
「大ちゃん!こっち!!」
私は大ちゃんのお母さんが帰るのを見計らって、大きな声で大ちゃんを呼んだ。
「お~ななみ。またまた久しぶり~。
遠いところありがとうな」
「うんうん。大ちゃんと会えるならどこにでも行きますよ。(笑)」
「調子がいいんだから~、じゃあ水族館に出発~!」
「は~い!!」
もうすっかり大ちゃんは私の運転になれたようで、助手席で窓の外を見ながらくつろいでいる。室蘭から登別までは海沿いを走る。今日はとても天気が良く、気持ちいいドライブとなった。
車を走られていると、目の前にお城のような建物が見えてきた。大ちゃんがハッとして『あそこだ』と指をさした。
「ここの水族館な、俺が小さいころにも来たことがあるんだ。
その時、ちょうどマジックショ-やっていて、
かぁーちゃん、とぉーちゃんと見ていたんだよ。
そしたら、マジックしていたお兄さんに呼ばれて、
俺がマジックに参加することになったんだ。
ここの階段の上に居た俺がほんと一瞬であのお城の窓にループしたんだよ。
あれはマジ興奮した。本当に超能力ってあるんだなって思ったんだ。
それからこの水族館は俺にとって特別な場所になったんだ…」
「えー!それやばくない?大ちゃんループしたんだ。(笑)」
「うん、やばいよ。
なんでこの話をしたかと言うと、
特別な場所にななみを連れてきたかったって言いたかったんだけど。(笑)
これからさ、2人でいろんな場所行くと思うんだ。
たぶんななみと行った場所、全部、全部特別な場所になるんだろうなって
しみじみ思った!」
「大ちゃん…」
大ちゃんはいつも多くを語らない。けど、今日はなんだかいつもと違うような。素直になったような。彼は鼻を掻きながら照れているようで、きっと彼自身もこの話を私にしたか驚いているようだった。
「ななみ、城のなか見てこようぜ」
彼は誤魔化すように足早にお城へと向かう。そうやって照れて、ぎこちなくなっている大ちゃんにも愛おしさが溢れた。
「大ちゃん、ありがとう」
「ん?何が??」
「大ちゃんの特別な場所に連れて来てくれて…。
大ちゃん、なな、大ちゃんのこと大好き」
「急にどうした!?照れるじゃないかよ…」
大ちゃんはまた照れている。すごく愛おしい。幸せな時間をありがとう。
「ななみ、今日も写真とろーぜ」
「うん!はい、チーズ」
その時に撮った写真。今まで以上に2人とも目が無くなるくらいの笑顔で、『この写真誰にも見せられないよね』って笑い合ったね。
大ちゃんと撮った写真は、どれも思い出がたくさん詰まっている。
付き合った日に撮った写真は、まだぎこちなさが残っていて笑顔が引きつっていたよね。それを見て『ななみ、顔怖~い』って私をいじるから、私も『大ちゃんも恐い顔している』っていじり返したの。
小樽の花火大会では、思いっきり笑っているというよりは、お揃いのブレスレットを映しながら、なんだか優しい笑顔の2人だったよね。
その後、私たちはお城のなかで水槽を2人で見たり、『このタコ、大ちゃんにそっくり』と言って写真を撮ったら怒られたり…。
外に出でイルカのショーを一緒に見たね。『可愛い!』って興奮しながら、夢中になってイルカを目で追って拍手をして、本当に私たちって子どもみたいだったよね?
ペンギンが好きな大ちゃんはじーっとペンギンとにらめっこして、『変な顔!』って笑いながら何分もそこを動こうとしなかった。
私がいつも寂しいって言うから可愛いペンギンのぬいぐるみまで買ってくれて、これを俺だと思ってなんて冗談言って…。
本当に、本当に大ちゃんと居ると幸せで、笑いも尽きなくて、私は勝手に、大ちゃんと私は運命の2人だって思い込んでいたんだよ。
大ちゃんと過ごす日々がとても幸せで、愛おしかった。
だから…大ちゃんが帰る時がどうしても苦手で、哀しい顔しないって思ってもすぐに顔に出ちゃっていたよね。また、会えるのに何でこんなに寂しいんだろう。『しっかりしろ!なな!』って心のなかで何度も言い聞かせた。
恋ってこんなに寂しいこともあるんだ。
恋って楽しいだけじゃないんだ。
心のなかでモヤモヤした。
好きな人と一緒に居ることが出来るって当たり前なことじゃないんだ。だから、お互いのこと思いやる気持ちって大事だよね。ちょっとした幸せを噛み締めて、積み重ねることが大事なんだよね。大ちゃんを好きになれば、なるほど会えない日々の寂しさは増していく。
『私ってこんなに欲張りだったんだ』
日に日に、自分の思いを押し込めることができなくなる。まだまだ私って弱いのかな。