*出会い
~実習~
2016年8月…
「失礼します。明日から1か月間お世話になる千葉ななみです。
よろしくお願いします」

「おう。A特別養護老人ホームの相談員をしている佐々木です。
いい実習にしような」

 実習前日、宿泊先に荷物を置いたその足で直ぐに実習先へと挨拶に向かう。
 この日、私たちは出会った。彼のニコッとした笑顔に少し胸がドキッとしたのを覚えている。地獄だと思っていた実習だけどこんなイケメンが居るなんて…。屈託のない笑顔。一瞬にして私の心を奪っていった。
 そうは言っても一目惚れなんて信じていない。好きとかそういう気持ちではない。それより何より、明日からの1か月間の実習で頭がいっぱいだった。

―千葉 ななみ―
私は、社会福祉を学ぶ大学3年生。
人と関わるのは嫌いではないけど、緊張しいで社交的とは言えない。
そのうえ、とてもネガティブ。
そんな私は人の役に立つ仕事がしたくて福祉の大学を選んだ。
福祉の資格を取得するためには、この1か月間の実習が必須科目となるので、
しぶしぶ実習に臨んでいるのが本音…
ごくごく普通の、なんの取柄もない私。
男運はとても悪い。自覚している。
それなのにとても恋愛体質で、いつも、いつも片想いをしている。
『ななみは本当に懲りないよね』
そんな風に友達に言われてしまうほどだ。

「よろしくね、千葉さん、じゃあ、とりあえず入居者様と話してきて!」

 元気だけはいい実習指導者だ。
『えっ?いきなり放置プレーですか…
 実習って何をすればいいの?…最悪。こんなので1か月持つのか私!』
そう思いながらとりあえずユニットに足を運び、入居しているおばあちゃんとおじいちゃんに挨拶しながらお話をしていた。
 毎日、お話をするなかでだんだんとおばあちゃん、おじいちゃんも心を開き、家族の話や昔話、なかには自分が結婚した時のこと、旦那さん、奥さんのことなど懐かしそうに、笑いながら話す入居者様が沢山居た。
 気づけば、実習担当者に放置し続けられ、1週間が過ぎていた。

「千葉さん、また放置されてるよね?」

 そう話しかけてくれたのは細川優香(ほそかわゆうか)さんだ。
私の大学の卒業生で、大学の先生から『何かあったら頼りなさい』って言われていた人だ。明るく、パワフルな人。そのうえ、とても視野が広く、気が利き頼りになるお姉さんみたいな存在だ。

 実習が始まり1週間が経とうとしているのに、実習担当者は毎日、同じことしか言わない。優香さんはそんな私を見かねて、話を聞いてくれたり、一緒にお昼を食べてくれたりすぐに打ち解けることができた。本当に優しい先輩だ。

「優香さん、実習ってこんなのでいいんですか?
 私、どうしたらいいか分かりませんよ~」

「大丈夫。あの人は実習生みんなのこと放置してるから。
 だいたい入居者の名前覚えてきたなら、
 話しやすいおばあちゃんとかおじいちゃんと話してれば大丈夫よ!」

「分かりました~。ありがとうございます!」

「じゃあ、頑張るんだよ~。私会議いかなくちゃ~」

 優香さんはすごいな…まだ働いて3年目なのにいろいろ任されて…。私もあんな風に働けるのかな。絶対無理に決まってる~(泣)

ある日…
「今日は…どうしよう。あっ、佐々木さん。
 千葉さんのこと今日お願いしていい?」

「あ~。いいですよ」

「ありがとう、よろしくお願いしますね
 千葉さん、今日は佐々木さんの仕事に同行してください」

「分かりました」

 佐々木さんと話すのは実習前日に挨拶に行った時以来かな。なぜかすごく緊張していた。あの時は目が無くなるくらい思いっきり笑ってくれたのに、仕事になるとガラッと面持ちは変わり、鋭い目をしている。そんな気がした。
『かっこいいけどちょっと怖い人なのかな…』初めはそんな風にしか思っていなかった。
 まさか、この人との出会いが私の人生を動かすことになるなんて…。

―佐々木 大樹(ささき だいき)-
私が実習している施設の相談員の一人。
実習担当者、佐々木さん、優香さんの3人が施設の相談員として働いている。
その時のイメージはいつも事務所に居ないって感じで、毎日、挨拶ぐらいしかしたことがなかった。
いつもどこで働いているんだろう…
年齢は29歳で私と8つも違う。
笑った顔は目がクシャッと小さくなって
思いっきり笑う姿はまるで子どものようにみえる。
一方ですごく大人に見えた。
クールで見た目もかっこいいから
このギャップにやられてる職員は沢山居るはずだ。
きっと職員からいろんな意味で好かれていそう…。

 最初の印象はこんな感じかな。

「佐々木さん、今日はよろしくお願いします」

「行くよ」

 そう言うと立ち上がり、すぐに事務所を出て行ってしまった。どこに行くのかも分からず、とりあえず速足で後ろをついていく。『何をするかくらい教えてくれればいいのに…』『本当に事務所に居るのが嫌いなのかな』そんなことを考えていた。

 佐々木さんが足を止めた場所は相談室だった。
 そこには、一人の背の低いおばあちゃんが座っていた。佐々木さんは挨拶を済ませ、椅子に座ると真剣な面持ちで話を切り出した。

「義男(よしお)さん、最近熱を出すことが続いていて
 体調が優れない日が多かったみたいなんです。
 なので、先日、かかりつけの病院に受診したら腫瘍マーカーが高くて。
 今日は詳しい検査結果を聞きに行く予定です。
 ・・・唐突で申し訳ないんですが、
 奥様はもし義男さんに癌が見つかったとしたら
 病院に入院して、治療を受けて欲しいと思っていらっしゃいますか?」

『義男さんが・・・癌?どういうこと??』
ひとり動揺する私をよそに、奥さんはしっかりとした口調で話し始めた。どうやら、佐々木さんは事前に奥さんと連絡を取り合っていたらしく、奥さんは義男さんの現状を理解している様子だ。

「私はね、
 もう今更治療なんて望んでいないんです。
 昔、看護師をしていたから癌と聞いて驚くこともないんです。
 あの人にもう苦しい思いしてもらいたくない。
 このまま、施設で、介護さんたちと一緒に最期を迎えて欲しいと思うの。
 私も毎日少しでも顔を出すし、あの人もそれで良いって言うと思うの。
 介護さんには迷惑かけると思うけど、
 お看取りをお願いしてもよろしいでしょうか?」

「分かりました。
 何も迷惑に思わなくていいんですよ。
 みんな家族のようなものですから助け合いましょう。
 奥様も一人で抱えずに何でも話して、頼ってくださいよ」

「ありがとうございますね、いつも」

 そう言って席を立ち、病院に行く準備を整えた義男さんのもとに向かう奥さんは優しい笑顔を浮かべていた。
 看取りとは、もし体の状態が悪化しても、苦痛を取り除く処置以外、延命治療は行わない。施設の中で、いつもの暮らしの中で、最期を迎えるために見守ることである。
 私は義男さんと話したのも、奥さんに会ったのも初めてだったが、心がキュッと締め付けられた。奥さんは義男さんと共に何十年と一緒に過ごしてきて、
義男さんのことをしっかりと理解しているのだろう。奥さんの選択に、長年連れ添った義男さんへの愛情を感じた。

「千葉さん、今のが“ムンテラ”って言って
 施設でお看取りをさせて頂くために、本人やご家族様から同意をもらう
 大事な面談なんだよ」

「はい…」

「しかし、やっぱり強いなー奥さん。肝が据わってるわ。
 義男さん、いい奥さん持ったよ」

「そうですね。私の方が動揺しちゃいました」

「動揺している場合じゃないよ。
 最期を施設で迎えるって決まったからには、
 俺たちにできること精一杯やんないと。
 …これからだよ」

 そう言うと彼はまた何も言わずに歩き始めた。
『看取りか…
 人の死に向き合うってしんどい事なのに。
 それを支えていくのも私たちの仕事なんだな』
 佐々木さんに同行した一日は、今まで放置されていた分、すごく勉強になった気がした。相談員って施設のなかでこんなにも重要な役割を担っているのだと実感した。

 病院で名前を呼ばれ、奥さんと佐々木さん、看護師の3人が診察室へ入っていく。私は義男さんに付き添い、待合室で待っていた。義男さんは口数が多い人ではない。しかし、その時、『体のことは自分が一番分かっている』と口を開いた。正直、びっくりしてなんて答えたらいいのか分からず、ただ頷く私。義男さんはきっと前から自分の体の異変に気づいていたのかもしれない。そのうえで覚悟は決めているように私には見えた。
 病院の検査結果はやはり癌で、年齢的にも手術や治療をしても回復は難しいとのことだった。
 
 1週間後、義男さんは安らかに息を引き取った。

 病気が分かってたった1週間しか経っていない。本当に命って尊い。この1週間私は、義男さんに何かできたのかな。奥さんや施設の職員も最後に何かしてあげることが出来たのかな。もやもやとした気持ちが残る。自然と私の表情は暗くなってしまっていた。

「千葉さん、
 10:00から義男さんのお別れの会あるから一緒に参加するよ」

「はい」

 私は優香さんの後ろをとぼとぼとついていく。義男さんの部屋に入ると、奥さんをはじめ、ユニット職員など沢山の人たちが義男さんの周りを囲んでいた。多くの人たちに見守られながらお別れの会は行われ、義男さんはご家族と共に自分の家へ帰っていった。涙を流す職員もいたが、そのなかで、お別れの会の間も奥さんはずっと変わらぬ優しい笑顔で義男さんを見つめ、職員にも感謝の気持ちを述べていた。

本当に強い人だ。

「千葉君、何そんな暗い顔してんの?」

「佐々木さん、お疲れ様です。
 今日休みなのに来ていたんですね」

「お疲れ―。そりゃ来るよ。
 義男さんがここに来た時からずっと担当しているからね。
 当たり前。
 で、なんでそんな暗いの?」

「いや、普通です」

「ふーん。それならいいけど。
 …千葉君、看取り初めてだよね?」

「はい」

「看取りってさー、しんどくない?
 …なのに見た?奥さん、笑っていたよ。
 義男さんも安らかな顔していた。
 俺は今日そんな二人を見れてよかったよ。
 いいお看取りになったって思う」

「佐々木さんは、
 義男さんに最期何かしてあげられましたか?」

「んー。昨日は忙しくて、
 朝しか顔を見に行ってないかな」

「それでお別れって…
後悔とかないんですか?」

「なーんもないよ。
 さっきも言ったけど、
 今日あの二人の表情見れて満足してる。
 千葉君、看取りってね、
 何かしてあげることじゃないんだよ。
 看取り契約をしたから
 焦って何かをしなければならないってことでもない。
 最期までいつも通りに
 奥さんも、介護職員も、俺も、千葉くんも
 義男さんに関わり続けることなんじゃない?
 いつも通りの環境で、
 家族に見守られながら最期を迎えられること。
 千葉君だって、
 昨日義男さんの部屋に普通に顔出して、
 挨拶をしたでしょ?
 それだけで十分。
 義男さんの最期に向き合えたってことになる。
 俺はそう思うけど」

 そう言うと、佐々木さんはまたどこかへ行ってしまった。私は、肩の力が抜け、何とも言えない感情になった。
『そういうことなのか…。
 福祉ってやばいじゃん。すごいじゃん。
 めっちゃ、やりがいあるんじゃん。』
少し興奮して、言葉にならない感情が溢れてくる…。

 大ちゃん、あの時初めて福祉の大学に来てよかったって思ったの。人の役に立てれば、何でもよかった私が、『大ちゃんみたいな相談員になりたい』って思ったんだ。本当にありがとう。実は、あの時、すごくかっこいい人だなって心のなかで一人思っていた。仕事に対しての姿勢とか考え方とか、全部、全部、私にとっては衝撃だった。

あの日から大ちゃんは私の憧れになったんだよ。

次の日…
「千葉さんは実習で何を学びたいのですか?
 もう一度よく考えてラスト一週間実習に臨んでください。
 最近、気が緩んでませんか?」

「はい、すみません」

 実習もラスト一週間なのに、初めて指導者に怒られた。心のなかでは『あなたが私のこと放置するからでしょ!?』と苛立っていて、気づくと涙が溢れていた。 慌てて誰にも見られないように机に向かいぐっと涙をこらえていた。すると、それを見かねた佐々木さんと優香さんが声を掛けに来てくれた。隠したつもりだけどバレてしまっていたようだ。

「千葉ちゃん?大丈夫?」

「えっ、あ…大丈夫ですよ。私の問題ですから。
 今日からまた気合を入れ直して頑張ります!!」

「そんな顔すんな!お昼休み食堂集合な。
 話なら聞いてやるから。もちろん優香もな!」

「「はい」」

 佐々木さんはそう言うと自分の机に戻り、仕事を始める。本当に切り替えが早い。見習わなきゃ。私も涙を拭き、立ち上がり事務所からユニットへと向かった。

お昼休み…
 食堂に向かうと大きなテーブルに佐々木さん、優香さんを含めた4人が座っていた。他の2人は顔見知りだが、挨拶程度でちゃんと話したことがなかったので、少し緊張しながら席へと向かう。

「よし、みんな揃ったな。まずはメシ食べようぜ」

「「いただきます」」

 するとすぐに私の前の席に座っていた中尾(なかお)さんが声を掛けてくれた。

「えっと…千葉さん。俺は中尾です。よろしくね」

 中尾さんは施設の作業療法士として働いている。年齢は優香さんと一緒と言っていたような気がする。背が高く、巨人って言葉が良く似合いそうな人だ。
 次に声を掛けてくれたのは柴田(しばた)さん。施設で看護師として働いている。年齢は秘密らしい。(笑)こちらもガタイが良く、背も高いのでクマさんみたいな人に見えた。
 中尾さんも柴田さんもかなりの威圧感があり、初めは少し怖かったが、話しているうちにすぐ打ち解けることが出来た。

「千葉さん、今日時間あるなら個別の機能訓練あるから見に来るかい?」

「えっ、いいんですか?」

「もちろん、14時からだけど、どう?」

「行きます。行きたいです!」
「おぉ~。やる気が見られていいね!
 よし。俺が施設の作業療法ってどんなのか教えてやるよ。
 質問は遠慮なくしてね。」

「ありがとうございます」

 中尾さんはやる気満々に腕組をした。
 その日から中尾さん、柴田さんに会うたびに実習の進み具合や悩みの相談などするようになり、アドバイスをもらうようになっていった。

「中尾さん、また、個別の機能訓練を見せて下さい!」

「おー、いいよ。今日も14時からやるから声かけるね。
 ところで、千葉さんは相談員ってどんな仕事だと思う?」

「今日の14時からですね!
 相談員ですか?
 実習してきて、相談員は入居者だけでなくて、
 家族との関わりが強いんだなって思いました。
 てか、佐々木さんと細川さんかっこよすぎます!!」

 こんな風に自分から他職種に話しかけることができたり、ちょっと深い話をしたりすることもあった。

「柴田さん、〇〇さんのことで聞きたいことがあって、、」

「何知りたいの?」

「〇〇さんの支援、看護師としてどんなことしているのか
 教えて欲しくて、、」

「分かった、今カルテ持ってくるから待っててね」

この2人に何度、救われたか分からないくらい助けられ、あっという間に最終日を迎えた。
 実習中に相談員以外の多職種と関わることが出来るなんて思っても居なかった。もしかして、佐々木さんと優香さんが中尾さん、柴田さんと私を繋いでくれたのかな…。あのお昼休みはそれが狙いだったのかな…。

「千葉君、最終日も頑張ろうな!」

そんなことを考えていると、佐々木さんから声を掛けられた。

「はい!なんか自分が思っていた以上にいい実習でした」

「おぉ~それは良かったし、何より千葉君が努力したからこそ、
 そう思えるんだぞ」

「確かに、大学生活で1番頑張れたかもです。
 それは佐々木さん、優香さん、中尾さんと柴田さんが
 沢山協力してくれたからだと思います」

「うん。そうか。ところでなぜ、
 俺が中尾さんと柴田さんの2人を千葉君に繋げたと思う?」

「えっ…」

「相談員ってさ、1人で悩んでいても何も始まらないんだ。
 入居者、家族と多職種、みんなに協力してもらって初めて
 相談員が縁の下の力持ちとして働けるんだよ。
 だからみんなとの関係づくりは人と人を繋げる役割を全うするなかで
 大切なこと。それを千葉君に知って欲しかった。
 1人で悩むんじゃなくて、みんなに頼って入居者の支援をしていくんだよ。
 みんなで1つのチームなんだからさ…」

 なるほど。やっぱり私の実習のためになるようにって中尾さんと柴田さんにつなげてくれたんだ。佐々木さんにはこの実習で感謝することが沢山ある。佐々木さんのおかげで相談員として大切な連携を実際に学ぶことが出来たんだ。

「1か月間ありがとうございました!」

 長いようで短かった実習は終わり、明日みんなが待っている大学に帰ることになった。実習先は、大学のある場所からバス、電車を乗り継いで4時間くらいかかるので今日も宿に泊まることにしていた。

「千葉ちゃん、実習お疲れ様!ちょっといい?」

「お疲れ様です!何かしましたか?」

 私は言われるがままにロッカールームの中から顔を出し、手招きをする優香さんのところへと向かう。

「大きい声じゃ言えないんだけど、今日この後、用事ある?」

「特にないですけど…」

「よかった!実は佐々木さんと
 千葉ちゃんのお疲れ様会やろうって話してて、
 ご飯食べに行こうと思ってたんだけど、いい?」

「えっ!はい!ぜひ行きたいです!」

「あぁぁ! 声が大きいよ。
 じゃあ仕事終わったら迎えに行くから、
 千葉さん一回宿に帰って待ってて!」

「はぁい!」

 思わず声が大きくなってしまう。
『やった~。うれしい!
 ご飯に連れてってもらえるなんて、実習頑張ってよかったな♪』
舞い上がる気持ちを抑えて、宿に戻り優香さんが迎えに来るのを待つことにした。

「千葉さん?いる~。迎えきたよ~。」

 声が聞こえて外に出ると、優香さんが立っていた。車に乗ろうと助手席のドアを開けると、後部座席から顔を出す二人が見えた。そこに居たのは佐々木さんと佐々木君。苗字が一緒で、私は"さん"と"君"で呼び分けていたが、正直ごっちゃになることもあった。
 佐々木君とは、私が実習2週目の頃に通信の大学から実習に来た社会人だ。つまり、同じ実習生として2週間一緒に実習に取り組んだ仲だ。年は28歳。ついでに佐々木さんは29歳。優香さんは私と4つ違うから25歳。年齢的に私、優香さん、佐々木君、佐々木さんの順番になる。年齢はみんなバラバラだったが、実習の休憩時間に話したり、お昼を食べたり結構仲が良かったのだ。
 車の中で1か月間の実習の話をしたり、実習が終わったということもあり、私的なことや下ネタなど私は質問攻めにあっていた(笑)私はどちらかと言えばいじられキャラだが、3対1になると笑い疲れたり、頬が赤くなり恥ずかしくなったりと大変だった。

「千葉君は彼氏いるの?」

「えっ!?彼氏なんていませんよ」

「嘘っぽいな~。絶対モテそうなのに…。なあ佐々木君」

「ん~そうすかね?俺はタイプじゃない。(笑)」

「佐々木君、言うねぇ~。(笑)千葉ちゃんが可哀そうでしょ~。」

「そうだ、そうだ~。佐々木君って酷いですよね。
 だから、彼女できないんだ~!」

「はぁ?俺彼女いるよ?」

「「えっ!?」」

こんな感じで車内は盛り上がった。

「てか、適当に走ってるけど、どこで夕飯食べる?」

「俺、カレー食べたい!寿司でもいいな」

「佐々木さんじゃなくて、今日は千葉ちゃんが決める日ですよ!」

「じゃあ、千葉君早く決めな!」

「え~。でも、カレー好きですよ!!」

「マジ!?
 じゃあ富良野に美味しいカレー屋さんあるからそこで食べよーぜ♪」

 本当に今日は楽しい。実習頑張って、こんな優しい人たちと出会えて幸せだな。食事をしていると

「千葉ちゃん~。私とライン交換しよう♪」

「え~いいんですか?したいです♪」

優香さんと私はスマホを手に取り、ふるふるでLINEの連絡先を交換した。

「ずるい!俺らもふるふるしようぜ~、佐々木君!」

 そう言って、向かい側の席に座っていた佐々木君と佐々木さんも男同士で
LINEを交換し始めた。いっそのこと4人でグループラインを作ろうということになり、全員でラインを交換することになった。こんな感じでお疲れ様会は終わった。それにしてもお腹を抱えて笑ったのはいつぶりだろう。そう思えるくらいとても楽しいお疲れ様会になった。

 この時、連絡先を交換していなかったら今日まで大ちゃんとつながっていることはなかったのかな。大学時代のいい思い出として、ただの実習生と実習先の人として関係のまま、それ以上にもそれ以下にもならない関係でいれたのかな。
 今日までお互い色々あったけど、私は大ちゃんとあの時、縁をつなぐことを選んでよかったよ。だって、初めてだったんだもん。こんなに人を好きになったの、“愛おしい”って感情を初めて知ったよ。

「じゃあ、今度はみんなでお酒飲もう!」

「「はぁ~い!!!」」

 次、みんなで会える日を楽しみにしながら、私はみんなに別れを告げ、友達が待っている大学へと帰った。

次の日…
「ぎゃぁ~~~。なな~おかえり。待ってたよぉ。会いたかったぁ」

「なになに~。澪ちゃ~ん。私も会いたかったぁ。実習おわったよ~」

 澪(みお)ちゃんは、私の一番の友達。大学の1年生はあんまり話したことがなかったけど、いつからかめちゃくちゃ仲良くなって、週3は私の家に遊びに来てくれる。今では悩みもバカ話も何でも話せる仲だ。「親友って私と彼女みたいな人のこと言うんだろな〜』そう思えるくらい大切な友達だ。彼女はストレートの黒髪で、背は私より高く、細くてスタイルがいい。デニム姿やミニスカートがとてもよく似合う女の子だ。

「ななは実習どうだった?」

「実習中、かなり指導者に放置されてさ~。
 代わりに大学の先輩ともう一人の相談員の人が
 すごく面倒見てくれて、なんだかんだ楽しかったよ!」

「えぇー良かったじゃん!
 澪はさ~めっちゃ指導者に助けられたよ。
 マジ良い人で福祉の人っていうか。
 福祉に対する情熱が半端ない人だったさ~」

「いい指導者だったんだ~。澪ちゃんも良かったね!!」

 澪ちゃんもいい実習だったみたいで、実習の話題は尽きることなく盛り上がった。ついつい話し込んでいると、

♪ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン…ピンポーン…ピンポーン

「ななのラインめっちゃなるやん。」

 ほんとに…(笑)また家族ラインが発動したのかと思い、ラインを開いた。すると、初めてみる名前が目に飛び込んできた。

「佐々木大樹…」

思わず声に出してしまった。

「ん?佐々木?誰それ?」

澪ちゃんは透かさず、聞き返す。

「いや、何でもないよ。なんでも!」

「今、男の名前言ったじゃん。
 また、変な男に引っかかってるんじゃないよね?
 今度はどんな男よ?」

「男運ないのは認めるけど…。
 そういうんじゃないよ!
 昨日、実習最後だったから
 実習先の人と連絡先交換して、
 今、ライン来ただけだよ~」

「実習先の男ね。はいは~い」

「も~、その言い方!
 さっき話した相談員さんだってば~」

「まぁ、実習先の人だから、
 恋愛とかに発展しないか!笑」

「絶対ない!ない、ない!
 てか、なんでそんなこと聞くのよ~」

「ん~。女の観?(笑)
 ウソ、ウソ、男の名前が出てきたから
 ちょっとからかっただけ~。
 もう、ムキにならないの!」

「ムキになってないもん!!!」

 澪ちゃんはたまに私をからかう。友達からもいじられ、昨日のお疲れ様会を思い出す。『あー、私ってどうしてこんなにからかわれるんだろう…』
 彼女に急かされ、佐々木さんのラインを開くと、そこには可愛いサルのスタンプを連打されていた。佐々木さんは実習3週目くらいの時に、"千葉さん”から“千葉君”と呼び方を変えたり、ちょっかいを出して、からかったりするようになってきたのは気づいていたけれども、今日は佐々木さんと澪ちゃんに2人にからかわれるなんて…。

「なになに?実習先の人じゃなかったの~?
 スタンプ連打とか普通しないでしょ」

「違う、佐々木さんはからかっているだけだよ。
 こういう人なの!」

「ふ~ん(笑) 早く返信したら〜」

澪ちゃんはまだ何か言いたげだったが、
それ以上は口をはさんでこなかった。

“昨日は、ごちそうさまでした!
無事、お家に着きましたよ〜。
急にどうしたんですか〜?”

“良かった、良かった。
ゆっくり休んでね〜。
ただラインしてみた(笑)”

“ありがとうございます!
そうでしたか(笑)”

“せっかく出会えたんだから、
その縁は切りたくないなって思った!”

“こちらこそ、よろしくお願いします”

“よろしくな!
千葉君、これから社会に出れば
色んな人に出会うと思うけど、
その縁を粗末にしたらダメだぞ!
大切にしないと!”

 これがラインでの初めての会話となり、その日から佐々木さんから毎日のようにLINEが送られてきた。実習での思い出話や施設の近況報告など話すことは尽きなかった。次第に、今週の予定や好きな食べ物、誕生日などの会話もするようになり、講義中や家にいる時も佐々木さんからのLINEは来てないか気になって最近よくスマホを見てしまう。佐々木さんとLINEをするのがちょっとした楽しみになっている気がしていた。