だったら嫉妬なんて建設的じゃない。とわたしは、いつも登校中に現れる男、三枝の幼馴染の女を思い出しながらいつも考える。だからと言って荒田咲のことも、特別に好きでも嫌いでもないけど。

その荒田咲が、瀬川と一緒に歩いている。わたしはなぜか目を離すことができないでいる。
美しいものがそろっているからだろうか、と思うと、なるほど人は自分にないものを求めて生きているのだ、と、繰り返し気づいている。


目を閉じて滾々と想像するのは、雪が降り続ける景色。何も見えないくらい、ホワイトアウト。汚れたものを、薄汚い色を白では塗りつぶせないなんて嘘。

そして必要のない感情もすべて、連れて行く。


ああついに明日は卒業式か、と思って目を開けると、光を差し込んでいつもより少し明るい教室が目の前に広がる。今日も人が少ないな、と思う。

マフラーで表情を隠せるのもここまでだ、と教室に足を踏み入れると、三枝が笑いながら近寄ってきた。鼻の頭が赤くない、と思うと彼はずっと前から教室にいるのだろう。


「横平?明日、卒業式の後に飯行ってボーリングしようって言ってるんだけど、来るだろ?」


下らない、ああどっかに行ってくれ、受験控えてるんだよバァカ。


「何それ、ちょー楽しそう!でもわたし、ボーリングできないからな~」


三枝が楽しそうに大丈夫だよー、と言って笑う。そして三枝がいつも一緒に行動している男を呼んだ。陽太、と呼ばれた男は俺いかねーって言ってんだろーと笑っている。

高木陽太は三枝と同じように何も考えていないようにヘラヘラ笑いながら、しかしまだ学校で勉強しているということは、受験が終わっていないのだろう。秋前までは野球部で部活に勤しむ傍らで教室では下品に騒いでいたが、いつの間にか落ち着いていた。

少人数になるとばっくれるのが難しくなるな、と考えていると、三枝の後ろから陽太がわたしのほうを見ていることに気が付いた。相手にする必要はないと思って席に戻ると、隣の席の瀬川が声がでかいなぁ、と漏らした。


「卒業式をパーティか何かと勘違いしてんじゃないの」

「えっ、パーティじゃん?」

「清々しいな、君は」


瀬川のめがねの奥には主張は強くないけれど綺麗な目がある。だけど明日には卒業して、やがてこの人の顔もわたしはいつか、思い出さなくなるのだろう。