2月の花

「大丈夫だよ。佑作、今までありがとうね。何回も傷つけてごめんね。その都度気づけなくて、優しさに甘えてごめんね。佑作の彼女で、すごく幸せだった。佑作との記憶全部、連れて東京で頑張るね。ありがとう、ありがとう……」



佑作は目に涙をためて、けれどこぼさなかった。2人で映画を見るたびに、意味の分からないアクション映画で泣く佑作が、泣きじゃくる私に触れず、泣くこともない。それを思い出して繰り返し思う。あぁこんな優しい人のこと、好きになってよかった。



「うん、ありがとう、穂香と付き合ってよかった。元気で頑張れよ」







卒業式の日だからなのか、駅はどこか浮かれた雰囲気を纏っていて、電車のダイヤも大幅に狂っていた。私は電車を待ちながら、久江に電話をかけた。佑作は触れてこなかったけど、私は右手にずっと黄色い花を持っている。この「再生」の意味するところは、私と彼の関係ではなかったけれど、きっと私の心を指しているのだと信じている。


私の高校生活は何だったのだろうかと、繰り返し考えていたことを思い出す。制服姿で笑いながら歩いている人たちを見て、卒業してしまった、と感じる。今日で高校生は終わりだ。

実感が沸いて鼻の奥がツンとする、けれど嘆き悲しむことはない。終わったり別れたりすることは、失うことではないのだろう。

なぜかつながらなかった久江の電話番号に、もう一度かけてみる。ああ繋がった、と思うと急激に安心する。

暇になってコール数を数えていると、7回目のコールで久江が出た。七回目のベルで受話器をとったね、と言うと、電話の向こうで久江が笑った。