2月の花

一度でもそれを投げた人間に、投げた後の佑作の気持ちを咎める権利などない。



そう思うと涙が出てきた。後悔に襲われた。佑作は、私が勝手に東京行きを決めても、私のことを好きだと思ってくれていた。無神経に彼を傷つけても、私を愛しいと思って、抱きしめて、キスをしてくれた。おしるこの缶を持って家に行く私を、困ったように笑い、愛しいものを見るように迎え入れてくれた。


それを投げたのは私だ。でも、あの時の私にはああすることしかできなかった。でももし、言い方少しでも変えられていたら。でも、でも。恋愛の後悔とは、こんなにもたられば論争なのか、と思うと辟易する。どのみちもうなるべきものは何もない。ただ残ったのは、優しいこの人を好きだと思う気持ちだけだ。



「……そっか、それは、悲しい、けど」



佑作の顔を見ることができない。きっと彼も、苦しい、優しくて悲しい顔をしているに違いない。長い間一緒にいたから分かる。佑作だって、できればこんな話したくなかったに違いない。だけどはっきりと言った、優しいから。



「受け入れなくちゃいけな……」



語尾にどうしようもなく涙が混ざって、言い切ることができない。
涙を拭う自分の手の冷たさに驚いた。


もう彼に温められることはない指先が泣いている。



視界に佑作の腕が映り込んだ。あぁ、と思った直後、彼は私に触れることなく腕を戻した。

それが私に彼の全身の、優しさと決意を伝えた。



「……穂香、俺、応援してるから、大学行ったあとのこと」



声に水気が混ざっているね、そう思いながら私は情けない顔で泣いた。受け入れる、受け入れるからね。あなたのことを責めずに、少しだけ後悔して、だけどあなたが決めたことを、私たちの本当の終わりを。



「東京とか、正直こえーけど、穂香なら大丈夫だよ。勉強して、多分居酒屋とかでバリバリバイトもして、楽しくやっていけるよ。気の強い美人とか、都会では需要あるだろ。だから大丈夫だよ、だから」



その続きを佑作は言わなかったけれど、私はうん、と返事をした。指は冷たいけれど頭の奥は熱い。熱すぎて頭痛がする。明日の朝、ぶっさいくな顔をしてるだろうな、と思いながら私は晴れる前の目を佑作に見てほしいと思って顔を上げた。