走って、走って、何度止まりそうになったか分からない。こんなに走るのは、持久走ぶりだ。と思うと、そんなに前じゃないか。こんな風に時々無駄なことを考えながら、私は佑作の家へ向かった。



日が暮れて、すっかり寒くなったころに、佑作は白い息を吐きながら歩いてきた。



「……穂香!?」



驚いたように佑作が私の目を見る。別れた気まずさなどまるでないように、私をただ心配する目。久しぶりに見た、と思うと切なくて冷たい痛みが込み上げてくる。きっと身体が冷えてるとか、そんなこと心配してるんだろう、佑作のことだから。


「長い間待ってたの?連絡くれればよかったのに」

「長い間、待ってもいいほど、佑作と話がしたくて来たの」



私の言葉に少し苦そうな顔をした佑作を見て、心のどこかが砕ける気がした。本当は分かっていた。でも、もうせめて今だけは、私は目をそらすわけにはいかない。そう思って私は言葉を続ける。



「私、高校を卒業して離れ離れになっても、佑作となら続けられると思ってたよ」

「……じゃあ何で、急に別れるなんて」

「それは、佑作が、……私との恋愛に飽きて、他の子が可愛いと思うようになったと思ったから」

「そんな勝手な、」



勝手なのはどっちだ、と言いたい気持ちを抑えて続きを待ったけれど、佑作は言葉を途中で止めて、それ以上何もいってこない。今すぐ逃げ出したいし全部なかったことにしたいと思いながら、それでも久江が背中を押してくれたことで、立っていられる。



「だけど早まったって後悔してる。話し合って、仲直りしたいって思ってる。佑作はどう思ってるの?」



パチっと古い音を立てて街頭がついた。もうそんな時間か、と思うと、通っていく車がもうヘッドライトをつけていることに気が付く。指先が冷えていることを実感しながら、はやく帰りたい、とは思わない。できるなら佑作に温めてほしい。



「なんて勝手な女なんだと思ってる」



それが返事なのか否かは置いておいて、なぜそんな悲しそうな顔をするのか、私には理解できない。



「どういうこと」

「勝手だし一方的なんだよ。俺たちのことも、大学のことも全部ひとりで決めてる。俺、穂香の選ぶ道をいつも応援するつもりだけど、いきなり東京行くって楽しそうに言われた時の俺の気持ち、想像してみたことある?」