暖かかったはずの教室は、ふと気が付くと冷えていて、暦の上で春になったばかりの空気は冷たくて当たり前だということに気が付いた。外を見ると雲で太陽が隠れたのか少しだけ暗くなっていて、かなり少なくなった生徒が寒そうに身を寄せあいながら歩いている。だから俺も上着を着て、マフラーをして帰ろう。外はまだ、ひどく冷たいだろう。だけど耐えていればいずれ春の花が咲き、暖かくなって、過ごしやすくなっていくはずだ。

それまでは少し暖かい格好で丸まって、よく休もう。





fin






この季節は長い間、白い印象しかない。日本海に面しているこの地域では春が近づこうが雪は積もっているし、咲く花は白いし、わたしの溜息さえ真っ白だ。白いのはいいことだと思う、とてもシンプルだから。

今朝家で見たニュース番組では、関東地方の記録的な大雪、という見出しで、電車のダイヤが大混乱していることを駅の人々の群れを映しながらアナウンサーが伝えていた。

長い間雪慣れしたこの地域では、公共交通機関はどんな時も冷静に機能するけどなあ、なんて思いながらパンを齧った。そしてバスの中では、白い景色に飽きたように携帯の画面を眺める学生と社会人がいる。

バスを降りると風が吹いたので、寒いうえに強風とはたちが悪い、と顔をマフラーにうずめた。自分の髪の毛が揺れて、頭の悪そうな茶色が居心地悪そうに私の鼻をかすめた。

わたしは白色が好きだ。こないだ美容院で、遊び半分で白髪にしたいと言ったところ、それは案外面倒なのだと説明をされて軽くうなだれるくらいには。

足元が機械的に雪をつぶしていく。ざっざっとたつ音が耳に気持ちよく入り込んでくる。


「鼻の頭、赤くなってる」


はっと気づくと声の主はわたしの右隣に立っていて、人に言えるのかソレ、と思わせてくる赤い鼻をわたしに向けている。


「あー、えーっ、三越くん?」

「三枝だし!字数しか合ってない。あ、けど漢字は同じになるのか?うーん、さえぐさって漢字からは読み取れないかもしれないけどサエグサだよ。同じクラスなのに傷つく」