中庭の黄色い花が下を向いている。花弁の部分だけはチューリップのようだけれど、もう少し小ぶりで、あれは何と呼んだのだろう。雪を見ないように下を向いている、私のように。


君は何を手に入れた?




次の日から卒業まで、私は学校へ行かなかった。どうせこの地は春には離れるんだ。惜しいものは、少ない方が私にとってもいいはずだと、思いながら雑誌のページをめくる。こんなにも胸が痛いのは、自分を守るためには避けられない道のはず。私はそういう生き方しかしてこなかった。



「最近、佑作くんの家に行かなくなったのねえ」



あまり広いとは言えないわが家のダイニングキッチンには、木目調の綺麗で丈夫な机がおいてある。小さい時に地震が起きると、いつもそこに隠れては、お母さんはこの机だったら絶対守ってくれるからね、と言った。その机に背を向けて、お母さんがうどんを茹でている。


「あー、別れたから」


お母さんがえぇ、と言うのと、うどんを茹でている後ろで沸かしていたヤカンが鳴るのは同時だった。


「久江とも喧嘩してさー、もう卒業式も行きたくないな」

「久江って、あの柔らかそうに笑う子よね?何か、佑作くんも、久江ちゃんもどこか似てると思ってたのよね。そしたら同時に決別したか」

「決別って」


もしかしたらそうなるのかもしれない、と思うと続きの言葉が出てこなかった。私はここ数日間、佑作よりも久江から連絡が来ないことがなんだか気になっていた。


「そーだなあ、彼氏とはいつか別れたかもしれないけど、友達って一生だと思うよ。仲直りしなよ」


言いながらお母さんは全然深刻にとらえていない様子だった。

私はなんでこんなことになったのだろう、とため息をつく。久江は怒ってるかな。


あれだけ傷つけたのだから当然だと思うのに、心のどこかで久江なら許してくれるんじゃないかと思っている。そしてしれっと挨拶して笑ってくれるんじゃないかって。けれどもしそうじゃなかったら、と思うと学校に一度も行けていない。そしてぱったりと学校へ行かなくなった私に何の連絡もしないことが、答えな気がする。


それから卒業式の当日になるまで、ずっと同じようなことを考えて過ごした。