そう答えながら、後に引けないなぁ、と思った。何と言ったらいいのか分からない。私は久江と喧嘩したいわけではなかったのに、納得がいかないことにごめんね、と言うことができない。



「想像力がないって言ってるんだよ。自分が思ってることだけ主張して、自分の信念だけが正しいなんて生き方じゃ周りの人とうまくやれないよ」

「そんなこと」



分からない。そうかもしれない。分からないのだ。ただ分かることは、久江はいろんなことを許して受け入れることに長けている人間なはずであるということ。そして私がそう思ってたはずの久江は、心の底で、周りから受け入れられない私と仲良くしてあげている、という認識でいたこと。そう思うと恥ずかしく、悔しくなってくる。



「あんたも、友達の少ない私のこと、惨めだと思ってたんだ。だから仲良くしてやってたんだ、私と」


「そんなこと言ってないじゃない」


「なんで生き方とか、周りの人間のこととか言ってくんの?」



久江はそれは、と言いながら押し黙った。黙ってて何か意味があるのか問いたくなる。けれど謝ってこないということは、久江も譲りたくないらしい。気づいている。こういう時、いつも音を上げるのは私のほうだ。いつも私の周りでは。



「うざ……」



自分でも信じられない汚い言葉が出て、あ、と思った時には久江の傷ついた顔が目に飛び込んでくる。立ち上がって教室を去る途中、久江は一度も私を追って来なかった。


昇降口で乱暴に靴を履きながら、どうしようもなくイライラする自分の気持ちに折り合いをつけられないでいた。久江の、同情と軽蔑を込めた視線が頭の中にこびりついている。言われた言葉が何度も繰り返される。配慮のできない人間はださい。日本語がそう組み立て得ることは分かる。けれどそれが自分に関係のある言葉だと考えたことはなかった。


けれどもう駄目だ、だって私はひどいことを言った。


ここ2日で大切だと思っていた人を一気に失った。結局私は高校生活のなかで、何を手に入れたのだろう。灰色なことが分かっている空を見上げる気にもならない。足元ばかりが視界に入る。ああ私の高校生活って何だったんだろうか。