とっさに、何がだよ、と思ってしまった。自分の価値が分からなくなった男と付き合っていることに意味が見いだせない。他の子がいいなら私と付き合っている理由がないし、愛されていないのに付き合っている私の価値は、どこまでも落ちていくとしか思えない。

顔を上げると久江は同情するような目で私を見ていて、かわいそうだと思われているんだ、と思うと声を上げずにいられなかった。


「短絡的って、何よ。自分こそ、ズルズル彼氏と別れられないなんて、決断力がない、優柔不断だからじゃん」

「優柔不断なのはわかってるけど、そんな簡単に別れられるもんじゃないでしょう。今までの思い出を忘れたの?」

「思い出にすがって何になんの?今までなんて全部過去じゃない。うまくいかない瞬間も、愛された過去にしがみつくなんて情けないよ」


昼休みの教室には生徒はまばらで、適当に席が分かれてクラスメイトは喋っている。窓の外は暗くて、積もらなさそうな粒の大きい雪が降り続けている。すごく寒そうだと思うと、私の気分は余計に悪くなっていく。

久江は不服そうに黙り込んだ。何だよ、はっきり言えよ。私は話のヒートアップを避けた久江に対する不満を抑えられなかった。



「しょうもない男といつまでも付き合ってて、みじめになんないの」



久江の表情を見て初めて、言い過ぎたかもしれないことに気が付いた。




「……穂香ぁー」



疲れたように久江が私の名前を呼ぶ。私は聞いたことのない声のトーンに少し怖気づくのを実感しながら、なに、と気丈に振る舞って見せる。




「配慮のない人間はださいよね」




私はそれに返事をしなかったけれど、それは動揺して言葉を詰まらせたというよりは、少し怯んだ振りをすれば久江が訂正して謝ってくるんじゃないかという期待があったような気がする。

高を括っていたのだ。けれど久江は心底落胆したように続ける。



「穂香には共感する力が足りないよ。自分の常識以外は全部が非常識だと思ってる。それって本当に子どもっぽいよ。世界が狭いし」



なぜ共感が能力なのかが分からない。私からしたら同情も共感も同じで、私がわかると思わなければわからないのだ。それの何がいけないのか。



「いらいらするんだから、仕方ないじゃん」