「じゃあ、佐津川とか。あっ俺、高須賀も結構好みだった」


なんだか生々しいなあ。さすがにここでは佑作の声は聞こえないよね、と思った次の瞬間だった。


「佑作は?て、おまえ、渡会ちゃんと付き合ってるもんな。そりゃ、渡会か」


ワタライ、と自分の苗字を全然異なる空間で呼ばれたことに少しいやな気がしていると、佑作が返事をした。佑作の声を耳が拾う直前、わたしは久江と目があった。




「あー、いやー俺は、やっぱ高須賀さんが好みっす」




その瞬間男子たちは沸いて、すごく楽しそうに何かをわあわあと言っていた。スタッフルームから出てくる店員さんが通り際に、結構嫌そうな顔をしていた。

高須賀さんってあの、アメリカとのハーフの女の子か。派手な顔立ちなのにおとなしく、教室で発言しているところをほとんど見たことがない。男子を苦手そうに避けていて、もったいない、といつか思ったことがある。だって私はああいうはっきりとした顔に強いあこがれを持ってるから。

目元に細工をしてごまかすようになったのは、いつか佑作が私に化粧を勧めてきたからだ。けれど私はどの瞬間も高須賀さんにはなれなかったし、きっとこれからも一度もなれない。

けれど私は私が憧れた顔よりも、私のことを好きだから気にしないで、と思ってくれる人がいれば平気だった。あの暖かくて男っぽい腕が、私だけを求めてくれればそれで。

私たちは結局、それ以降ほとんど会話をしなかった。半端なフォローが私を余計羞恥に陥れることはきっと久江はわかっていたし、そうでなくても、十分。

男子の集団が私たちに気づかぬまま店を出るのを待ってから、私は佑作にメッセージを入れた。






「別れたの!?」




次の日、久江に報告すると、絶叫するように繰り返された。信じられない、と驚きいっぱいの声の裏に落胆を含ませているのが分かる。私はうん、と答えるとしっかりと久江を見つめ返した。久江は理解できないものを見る目をしている。いつまでもうだうだ彼氏と別れない久江を、私が理解できないのと同じ。そう思うと、なんだか苛々してきた。


「いや、昨日のあれ?あれは照れたんでしょ、っていうか、穂香も可愛い可愛いって言われてたじゃん。その他大勢に」

「その他って。私が付き合ってたのは佑作なんだからさ」

「そうだけど、そんな、短絡的な」