ファストフード店でポテトを2人でつつきながら、なんとなしに私は言う。久江の待ち受けは頻繁に変わっていた。それもなぜか、毎回花の写真である。久江はああ、と思い出したように笑う。


「こう見えても、花とか結構詳しいんだよ。花言葉とか」

「へえ意外。そういうのって何のためになんの?」

「ちょっと、相変わらず身も蓋もない言い方するね」


久江が面食らったように苦笑いする。悪気はなかったけどな、と思いながら私は自分の携帯に視線を落とした。そういえば今日は佑作から返事が来ていない。


するとやかましい複数の声が背後から聞こえてきた。なんか聞き覚えがあるな、と思った次の瞬間に私は気づいて意味もなくすこし動揺する。

ソファーの席にはすりガラスのようなついたてがついていて、私の背後には誰が座ったかなんて見なかった。けれど声を聞けば一発でわかる、私の背後に佑作と、その友達が集団で来たことに。

私はなんとなく気まずい気持ちになって黙る。すると久江が気づかないね、と苦笑いしながら声のトーンを落とした。結局そんな気にする必要などなかったくらい、男子たちは騒いでいたが。


「もう来週には卒業だってよ!うひょー」

「やばくね。まじやべーよ、ほんとやべー」

「ひょー」


こいつらは猿なのだろうか。
5歳児でも構成できそうな日本語しか発しない男子たちの中に佑作の声も混ざっていることが恥ずかしくて少しショックだった。私の前では落ち着いている素振りを見せるけど、男子の前だと案外、こんなテンションなのか。

私が小さい声で猿だ、と言うと久江が笑った。私の彼なんかもっと子供だよ、と。


「正直誰が一番好みだった?」


ああ出た、定番だと思ってストローを噛むと、どうやら呆れた表情をしているのは私だけで、私の向かいに座る久江は顔を横に向けて耳を傾けている。そしてその久江の仕草に私は唐突にああそうか、と思う。久江のカラコンもクラスメイトの村田里英子の厚化粧も、根本はこの人たちに認められるためなんだ。それが多数であれ少数であれたった一人であれ、同じだ。

急に視界に入るビビッドオレンジのソファが色あせて見えてきて、同時に今まで考えていたことが自分にもしっかり当てはまることを自覚している。


「荒田!」

「馬鹿、あれは別格だろ。あれはもはや女神と呼ぶレベルだ、この学校の財産だ」