久江は目を輝かせて喜んだあと、あ、遠く行っちゃうんだ、と言って落胆している。私はそうだね、と返事をしつつ外を見た。窓際の席からは、中庭の池の横にある花壇が見える。少し遠くはあるけれど、鮮やかな黄色の花が、心もとないようすで少量の雪を積もらせている。

もうすぐ卒業だということに特に違和感はない。卒業式を卒業式だと言って特別視しているからなにかの節目のように感じるだけで、ただ一日が流れるだけだ、と思う。離れて困る人もいない。付き合っている佑作とは、大学は違うけれどなんだかんだ続くんじゃないかなあ、と思う。


「だけど私と穂香はどこへ行ったって友達だよね」


私が到底言えないことを、惜しげもなく恥ずかしげもなく言ってしまえる久江はやはり理解ができなくて眩しい。私はうん、と笑うことで精一杯だけど、心の中では喜んでいる。

佑作もきっと似たようなことを言う。今日の放課後は、佑作の家に寄って帰ろう。

おしるこの缶を二つ握りしめて佑作の家へ行くと、彼はまたそれかよ、と苦笑いしながら私を迎え入れた。お邪魔します、と言って玄関に入ると家の中は暖かくていい匂いがする。きっと奥でお母さんがごはんの支度をしているんだろうと思って、長居はしないでおこうと考える。


「へえ、久江ちゃんに受かったこと言ってなかったのか」

「なんか恥ずかしいのと、言いにくいのと。高校卒業しても連絡とるよ、ってばっかり言われて」


良い子じゃん、と佑作は笑う。佑作は笑うとたれ目になって、ほとんど無いと言えるくらい目が細くなる。その笑顔は今まで、受験のストレスにつぶされそうだった私を何度も癒してきた。私も真似して目を細めると、佑作は似せてんのかよ似てねえぞ、と笑いながら腕をまわしてきた。

そのまま佑作を力いっぱい抱きしめ返すと、バランスが保てなくなって二人ともベッドに崩れ込んだ。至近距離で私たちは笑い合い、お互いを抱きしめる。佑作の腕はごつごつしてて男の人みたいで、あたたかい。穂香って冷え性だよなって言いながら、いつも私のことを包む腕。

あたたかいものに包まれている瞬間は、嫌なことなんか全部全部、忘れられる。




「待ち受けまた変えたの?」