風が私たちの髪をなでる。私の長い茶髪が相川の髪と並んで、思わず笑う。私の髪のほうが、太いじゃないか。身長だってそんなに変わらない。だけど相川は、私のことを追ってきてくれた。だから私は心の中でそっと誓う。この先この人がどこでどんな風に生きてどんな風に息をしても、私は絶対にあなたの味方でいる。

ありがとう、と言った後に言葉が詰まった。だけど相川が代わりに言った。さようなら。


元気でね。







fin







配慮のできない人間はださい。日本語がそう組み立て得ることは分かる。けれどそれが自分に関係のある言葉だと考えたことはない。


「同じ大学受からなかったから、どうせ続かないだろうって言うの」


意味ないな、と心の中で叩きつけながら私は相槌を打つ。昔から友達があまり多くないからスタンダードが分からないけれど、これが普通の女子の悩みだとしたらおよそ私は女子とは分類されないだろう。

久江が私をじっと見ると、その瞳に吸い込まれるというよりは、三半規管をやられて平衡感覚を失いそうだ、と思う。可愛いと言えなくもないけど、あまり大きくない目に15ミリはありそうな真っ黒のカラーコンタクトを入れている。その違和感に、だ。


「穂香、聞いてる?もう無理なのかなぁ」


聞いてるよ、と返事をして考えるふりをする。アドバイスを求められればきっと口先で適当なことを言う予感がしたが、それでも私は久江が結構好きだった。男とズルズルやっているのが面倒くさくはあったけれど、いつもニコニコしていていろんなことを「まあ、仕方ないよね」と言って流せるところが私には理解できなく大人だと思うからだ。

私だったらほとんど黙っていられないようなことも久江は甘んじて受け入れている。カースト制度による不条理とか、容姿による差別とか。

他人の悪口を言わないことはとても素敵なことだ。私にはなかなか厳しいものではあるが。


「穂香は結局どこに行くことにしたの。受けたところほとんど受かったんだよね?R大?」

「……実は恥ずかしいから黙ってたんだけど、挑戦のつもりで受けたJ大に拾ってもらえて、さ」

「……ええっ!?凄い!」